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EV(電気自動車)は本当に環境問題への最終解なのか? EVの熱効率はどうなのか?

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EV(電気自動車)は本当に環境問題への最終解なのか? EVの熱効率はどうなのか?

「欧州や中国は内燃機関を使った自動車を撤廃しようとしているのに、未だに新規エンジン開発を行っている日本は遅れている」という論調が、特に新聞や経済メディアに目立つようになった。「EV化が加速しているのにハイブリッドでお茶を濁しているのは、如何なものか」という論説もよくみかける。この問題は政治的な要素を多く含むし、データ類の抽出の仕方によって恣意的にすらなるので、迂闊に噛みつくのはやぶ蛇になりかねないが、純粋に自動車技術の立場から見ると、首をかしげざるを得ない。批判や反論も多かろうが、電動化とCO2削減の問題を少し整理してみようと思う。TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 まず、EVはCO2排出量ゼロでクリーンなクルマだ、という件。日本でEV化を促進しようとしていた時、まだ東日本大震災は起きていなかった。原発による発電の比率を高めて石油や石炭を燃やさない前提では、それは事実だった。EVと原発はセットで推進されていたのだ。
 ところが震災による福島第一原発事故によって、原発は安全性の問題から次々と稼働停止に追い込まれた結果、国内の発電は火力発電に逆シフトする。一時は3割だった原発のシェアは今や1.1%となった。代わって主力になったのがLNG(液化天然ガス)と石炭だ。どちらも化石燃料であり発電に際してはCO2を発生する。NOxだって出る。こうなるとクルマで出るか、発電所で出るかの違いだけだ。

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 両者の違いはないように見えて実はある。クルマは走っていない時にはエンジンを使わないし、今ではアイドリングストップも標準化されたから、CO2の排出は「オンデマンド」である。一方発電所はEVの給電量が減ったからといって稼働を止めることが出来ない。原理上は出来るけれど、再稼働がエラく面倒だからだ。だから、電力需要の少ない夜間にはダムから放水した水を貯めておいて、それを余剰電力によるポンプ駆動で再度ダムに戻す「揚水発電」なる泥縄すら行っている。

 それもこれも電気は貯めておくことが難しいからだ。自動車のバッテリーですら航続距離確保で四苦八苦しているのに、発電所の電力に至っては貯蔵は不可能。代替エネルギーとして取りざたされる水素は、発電した電気を使って水素を生成し、それをタンクに貯蔵して使うという、一種のバッテリーとして機能するのが利点であって、クリーンであることが第一義の存在価値ではない。

 エンジンではよく「熱効率」という言葉を使う。エンジンが作った熱がどれだけの割合で動力に変換されるかという指標で、市販車では最高で40%強だ。発電所で使われるガスタービンエンジンの効率はそれより高くて50%を超える。定常運転で負荷変動がないから、平均効率は自動車のエンジンよりかなり高いといえる。
 ところが、そうして作った動力を発電機を回し、送電線を使って電送するときにロスが出る。電力会社の公表値では5%程度という。少ないかどうかは感じ方次第だが、ロスは出る。50万Vという高電圧で送電される電気は、家庭に至るまでは降圧されて100~200Vにまで落とされる。変電所でもロスが発生し、同じ電力使用量(W/h)ならば、電圧が低くなると電流値が高くなって、その分電気抵抗が増える。さらに系統電力からEVのモーターまでには幾つかのインバーターやコンバーターがあって、降圧と増圧を繰り返す。この電力変換がバカにならない。
 
 EVの冷却機構についていろいろなところで解説記事が出ているけれど、なかでもインバーターの冷却が大きな問題となっている。つまり電気が熱に替わってしまっているということだ。先日の「人とくるまのテクノロジー展」でボッシュのエンジニアに48V化の事を訊いた際、48V電源を降圧して12V系に供給することは可能だけけれど、インバーターのロスが多くて現実的ではない、というコメントをもらった。電圧や機器によって異なるが、インバーターの変換効率は70~80%程度らしい。

 大雑把な物言いをすれば、火力発電に依存している限りCO2は出続けるし、EV使用時の実効率はせいぜい20%なのだ。

 欧州がEV化に熱心なのには彼の地の政治経済的事情も絡む。日本と同様、欧州の主要国もエネルギー資源が乏しい。輸入に依存する石油は価格が不安定だし、LNGは専らロシア経由のパイプラインを使ってカザフスタン等から輸入するため、政情によって供給が断たれる畏れすらある。かといって石炭を使うのは環境保護団体の影響力が強い欧州では憚られる。それを好機と捉えたのが原発王国であり、エンジン車撤廃の旗頭、フランスだ。原発ゼロを推進する隣国ドイツに「お宅でやらないならウチで作って電気を安くお売りしますよ」と持ちかける。ドイツにすれば石炭発電を減らして、自国に原発がないならOKという寸法。マッチポンプと言ってよい。

 欧州のCO2排出規制も、電気を隠れ蓑にした一種のザル法だ。
 ハイブリッド車ではCO2排出量をEV走行距離に応じて漸減的にカウントしている。だからPHEVにしてEV走行量を多くすると、搭載するエンジンが大排気量ターボのガス喰いでも規制値をクリアできる。こうして巧妙に電動化比率を高めておけば、CAFEによる総量規制を逃れて、ドイツ車の独擅場とも言えるV8ツインターボのハイパワー車(押し並べて高価格!)市場を維持できるという寸法だ。

 中国は中国で事情がある。爆発的に増える自動車需要に対し、それをすべてエンジン車で賄うとなるとガソリンが足りなくなる。意外に思われるかも知れないが、石油生産国である中国は石油を外貨獲得手段としてほとんど輸出に回しているのだ。もちろん大都市で問題になっている排ガスを抑えたい理由もある。
 さらに、いくら強制的な合弁企業化で技術を集約しても、エンジン開発生産のキーは日米欧が握っており、生産拡大を踏まえれば開発の容易な(と思われている)EVが自国の産業に有利。中国の太陽光発電企業が急速に進展する事情は、日本に於ける原発&EVの時と何ら変わりがない。いずれにせよ日本とは自動車と経済を巡る環境がかなり異なるのだ。

「電動化に乗り遅れている」と言われている日本だが、「モーターを使った自動車」の普及率では世界一だ。言わずもがな、ハイブリッド車(HEV)のことである。
 エネルギーマネージメントという観点から見ると、HEVはかなり理想的である。前記したようにエンジンは随時、運転と停止を選択して必要な時だけ使えるメリットがある。加速時等の高負荷領域ではモーターに依存するので、エンジン自体を高効率領域で使うことができる。さらにEV最大のメリットであるエネルギー回生も可能だ。現状のシステム構成で航続距離を代表とする使い勝手もまったく問題ない。
 特にトヨタはTHSという独自のハイブリッドシステムを成功させ、HEVの普及に大きく貢献した。ホンダや日産もシリーズハイブリッドという、エンジンを発電用に特化させさらに効率を高めたシステムで、市場の評価を得ている。これらのシステムはモーター駆動のために数百Vという高電圧を用いることから「ストロング・ハイブリッド」と呼ばれ、高度なエンジンとモーターの制御技術と、大規模な生産のための投資が必要になるが、その間ダウンサイジング過給に邁進した欧米勢は、技術・資本の両面でストロング・ハイブリッドに移行することが難しい。かといって今すぐ全面的なEV化はインフラの面も含めてできないため、繋ぎとして現れたのが48V電源による「マイルド・ハイブリッド」だ。
 マイルドハイブリッドは電源もモーターも小さく、発進加速の僅かな時間しかモーター走行はできない。けれどその僅かの間が最もエンジンの効率が落ちてCO2をまき散らすから、所定の目的達成にはそれで十分。何より既存のパワートレーンの構成を大きく変えることなく、電源周りの追加でアドオンできるからコストも抑えられるという寸法だ。欧米ばかりでなく、ストロングシステムを持たない日本メーカーにも採用されるかもしれない。
 
 苛烈で厳格なEV化を推進する欧州でも、行政当局はともかく、メーカーは現実を直視している。バッテリー能力の問題から、いますぐ全面的なEV展開は無理と見て、とりあえずシティコミューターのEV化を進める。欧州では市街地での自動車使用を制限する自治体も多いことから、都市限定で行う施策としては実現性が高い。CNGとガソリンとのバイ・フューエルも一般化しており、エネルギー源は適材適所で使い分けるというユーザー自身の意識が高いように思える。動力ではなく、車体の軽量化でCO2排出量を抑えようという思想も、欧州メーカーとサプライヤーがリードしている印象だ。
 内燃機関がなくならないと多くの識者が言うのは、先進国以外の需要が今後増えるからだ。自動車に相応のコストを支払い、最新の技術を導入できるのは世界の人口からすれば少数に過ぎない。シベリアの極地やアフリカの砂漠、南米の山岳地帯にEVを持っていっても、誰も買わないし、使えないだろう。実際、新しいディーゼルエンジンの開発者に、「ディーゼル逆風の状況でどのような商機があるのか?」と尋ねると、どれだけの国と人が最新のHEVを買えると思っているのか!とたしなめられてしまう。

 日本に於いて、EV化の急速な進展を畏れているのは実は電力会社だ。もし今あるクルマの半数がEVになったら、電力供給は完全に逼迫するという。100年以上、化石燃料に依存してきた自動車のエネルギー源を変えるのは、一朝一夕ではない。
 EV化は間違いなく止まらない。しかし内燃機関もなくならない。それが2040年に向けた現状だ。 

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  • 全てが正しい訳では無いが、この記事を2022年現在の世の中世界に今一度配信して欲しい。
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