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低炭素社会に向けて必要なのは内燃エンジン技術の進化が先だ

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低炭素社会に向けて必要なのは内燃エンジン技術の進化が先だ

求められる次世代車とは何か 第2回

第1回では電動化が叫ばれる中、低炭素社会に向けてのEV化へのシフトはゆっくりと進みつつあるものの、その前に足元を見据えたエンジン技術の進化が重要である、ということをお伝えした。第2回はそうした背景の中、低炭素社会に向け自動車メーカーはどのような技術開発と戦略を考えているのか?具体的に考察してみたい。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>

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人口のシフト、メガシティの誕生といった要因から地球環境の保護、CO2削減、化石燃料依存からの脱却、そしてEV化や自動運転などなどへと進化していく過程の途中という大きな潮流がある。

そうした中、現実の市場でも変化が起きている。それはアメリカのZEV規制、中国のNEV政策といった環境性能を求める制約だ。そういった規制に適合するために世界の自動車メーカーは電動化に取り組んでいるという一面もある。

反面、電動化と言っても、その中にはマイルドハイブリッド、ハイブリッド、PHEVが含まれ、これらのクルマはいずれもガソリン、ディーゼルエンジンを搭載していることも見落としてはいけない。

しかしながら現実には目の前にぶら下がる環境規制というハードルがある。このハードルを越えないことにはクルマの販売ができないのだから、自動車メーカーは頭が痛い。特に世界最大市場へと急成長を続ける中国、そして北米市場は世界中の自動車メーカーにとって、メインマーケットともいえる規模で、その売上高が屋台骨になっているといってもいい。

特に国内ではトヨタをはじめ、ホンダ、スバル、マツダといったメーカーは北米での売り上げが占める割合は大きく、また2017年三菱自が短期に黒字決算できた要因のひとつに中国での販売が成功したことなどからもマーケットの巨大さがわかるエピソードだ。

そうした巨大市場がZEVやNEVといった規制、政策を設け、対応していかなければ販売ができないわけで、電動化技術は必須ではあるが、そうはいっても内燃機関との組み合わせが主流であることには変わりはない。

そこで、こうした背景を持ちながら、どのようにメーカーは対応していくのか覗いてみるが、その前に、EV化のポイント、内燃エンジンのポイントをまとめてみる。

EV化のキーは電源とバッテリーだ。電源をどうやって確保するか?日本では化石燃料への依存度は高く経済産業省の資料では、石油、石炭、LNG、LPGを合わせると88%にもなり、電源確保のためにこれらの化石燃料、石炭、石油、LNGという火力発電が約86%にも上る。

2011年の震災以来、原発の停止で電力不足になったことは記憶に新しい。原発が停止し化石燃料への依存度があがり、排出するCO2の量は震災以前より0.87億トン増加し、総排出量は13億4300万トンという量だ。(出展:経済産業省資源エネルギー庁)

その状況で一気にEV化がすすめば電力が不足してしまうことは容易に想像がつく。そして石油、石炭などでの発電はCO2削減にはつながらないことも覚えておく必要がある。また、これらの資料は2012年付近のデータであり、若干古いがエネルギー調達に関し、2018年の現在でも大きな変化はないと想像する。

バッテリーは現在のリチウムイオンバッテリー、つまり材料のニッケル、マンガン、コバルトの3元系レアメタルの価格や取得方法の問題、そして、車載した場合の重量と価格、二律背反の出力と航続距離といった要素をクリアする手段が現在のところまだない、ということも知っておく必要があるだろう。

エンジンの進化は重要だ。ピュアEVの手前にモーターと組み合わされるエンジンが必要だとこれまで述べてきた。そのエンジンには当然環境性能が求められるのは言うまでもない。そしてモーター出力を上げればエンジンの負担は下がるが、モーター出力を上げるにはバッテリー出力と容量が必要となる。結果的に重量と価格というバッテリーが抱える問題につながるというわけだ。
そうした事情を踏まえながら各社の低炭素社会に向けての技術開発、戦略を見てみよう。

■二刀流のドイツ

フォルクスワーゲンは世界販売台数で1位、2位を常に争う巨大企業で中国、北米でもその販売台数は重要な数であることは間違いない。また、欧州全土も当然メインマーケットであり、そうした地域に対してどのようなソリューションで対応しているのだろうか。

北米に端を発したディーゼルゲート問題で、ディーゼルによる環境対応を目指していた路線から急激にEV化へのシフトをしたように見せている。中国ではEV、PHEVといった車両がメインのソリューションとなるであろうが、欧州を中心とした他の地域では内燃機関にモーターを組み合わせたマイルドハイブリッド、そしてディーゼルという「エンジン中心」の戦略を進めているのが現実だ。

2017年6月にボッシュのワールドメディアイベント「モビリティエクスペリエンス」でもディーゼルエンジンがRDEやWLTPにおいてもクリーンであることをアピールするワークショップが開催されていた。そこでのプレゼンターは2017年9月以降フォルクスワーゲンをはじめ、多くの企業がこのクリーンシステムを搭載したディーゼルエンジンの販売を始めると説明していたのだ。

実際、2018年2月、フォルクスワーゲングループ・ジャパンもパサートにTDIを搭載した「パサート・ディーゼル」の販売を開始している。その発表会にはドイツ本国からディーゼル開発責任者のエッケハルト・ポット博士が来日し、クリーンであることを説明している。

つまり、VWは今後ディーゼルでの環境対応とガソリンエンジンでの対応をしていくことがわかる。高効率でクリーンな内燃機関を開発し、対応するというわけだ。ただ、その欧州でもディーゼル人気は下がる一方で、メーカーはディーゼルを売っていきたいものの市場のニーズが戻って来るのか?というポイントが残っている。

一方で中国にはEV化を推し進めている。これは中国政府がEV化を国策としていることが影響し、VWだけでなく、各社中国ではEVがメインストリームになっていく。そうはいっても、EVの場合は、前述のように電源とバッテリーの問題は中国国内でも同じように懸念課題でもあるのだ。

もっとも自然エネルギーによる発電量の増加やレアメタル、レアアースを中国政府が規制し、輸出には高額な価格で、国内需要には低価格でといった政府の戦略もあり、日本とは事情が異なっている。

メルセデス・ベンツやBMWはもともとが高級車なだけに、バッテリーを搭載するプラグイン・ハイブリッドを積極的に導入し始めている。その理由として、バッテリーやモーター、インバーターなどの補器関連の費用負担が高級車では、その車両価格に溶け込ませることがある程度可能だからだ。グレードの高いモデルから投入が始まっている。

EV戦略では、2017年の東京モーターショーでも発表されたメルセデス・ベンツのF-CELLが面白い。燃料電池と外部充電できるEVのハイブリッド車開発だ。これは水素を使った燃料電池で発電し、その電力でモーター駆動をするというモデル。他に発電した電力の蓄電機能もあり、さらに外部充電もできるので、電気を蓄えるバッテリ―も搭載しているというモデルだ。

東京モーターショーではGLCに搭載して展示されていただが、このまま2018年には市販するというアナウンスまであった。ただ、燃料となる水素の充填スタンドが整備されている国に限られてしまうため、現状では北米、日本、そしてドイツでの販売ということだった。

■国内組の対応

一方、国内に目を向けてみるとトヨタの動きが気になる。VWと並んで世界のトップ企業であるだけに、その影響力も大きい。そこでトヨタの動きをウオッチしてみると、FCVの推進、全固体電池開発などといったワードが目を引く。また内燃エンジンではダイナミックフォース・エンジンの開発も気になる存在だ。

全固体電池開発ではまだ、研究段階としており市販の目途はないが、リチウムイオンバッテリーに代わる電池となれば、それこそ一気にEV化が加速するのは間違いない。

先日、ある自動車メーカーのEV開発のエンジニアインタビューをしているとき、さまざまな技術的可能性を探る中で、「もっともEV開発が進んでいるトヨタさんがまだ解決していないので・・・・」というフレーズが数回出てきた。

このメーカーはEV量産モデルをすでに販売しているメーカーのトップエンジニアである。そのエンジニアが言うように、トヨタのEV開発は最も進んでいる、というのが研究者の間では常識のようだ。もちろん、それは世界規模で見ての話である。

さて、そのトヨタもようやくEV化のロードマップを発表した。このニュースは前回の記事でもお伝えしているが、2025年ごろにはエンジンだけの車両はなく、すべて電動化されたグレードが設定されていること、2030年ごろには電動車を550万台、そのうちピュアEV、FCVで100万台以上を目指すという目標だった。

トヨタの電動化はこうして着実に進めている一方で、エンジン開発も同時に進めている。それが北米で発売したカムリに搭載しているダイナミックフォース・エンジンだ。排気量をあげ自然吸気の構造で高速燃焼をさせるエンジンで、これからのトヨタの中心的エンジンとして発展していくだろう。

ホンダは2011年の「アースドリームテクノロジー」をスローガンに、VTECを基礎技術としながらモーターと組み合わせたハイブリッド車の展開を行なっている。シングルモーター、ツインモーターなどハイブリッドのバリエーションを増やし、一方で1.5Lターボのダウンサイジングエンジンも開発しながら、環境対応を進めている。

またFCVのクラリティを発売しつつ、プラグイン・ハイブリッドモデルの追加など、EVバリエーションも踏まえた商品群を考えていて、こちらも何が飛び出すのか期待したいメーカーでもある。

日産はリーフに代表されるように、EV化が強く印象に残るが、実はハイブリッドや可変圧縮比の高効率エンジンの開発も同時に行っている。このエンジンは今のところ国内発表、販売がされていないため、詳細はわからないが、これまでのエンジンの常識を打ち破る革新的なエンジンであることは間違いない。

そしてマツダは、内燃機関の進化に力を入れていることは周知の事実。だが、ここまで読んでもらえばわかるように、EV化の波は確実に押し寄せてはいるものの、問題解決の決定版がないことも事実だ。

そうした分野での先行開発はもちろんやっているのだろうが、まず足元を見ればエンジンの進化が最重要課題であることは理解できる。マツダの展望では、2035年時点でも内燃エンジンを搭載したマイルドハイブリッド、ハイブリッド、PHEVは約85%程度と想定していることだ。したがって、いかに環境性能のいい内燃機関を持つかがキーになってくるだろう。

こうした各社の流れを俯瞰すると、EV化と内燃エンジンの進化は同時進行しており、低炭素社会へ向けて加速していることがわかる。また、近い将来で、ピュアEVが席巻するということは起きないことも理解できる。もっとも、画期的な電源の確保、蓄電の進歩、インフラの整理などが同時多発的に起こればピュアEV時代が即到来するかもしれないが、その前に着実に今ある技術を進化させ、来る未来に向けて新技術を開発していくことこそ、低炭素社会に向けて重要となるわけだ。

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