「S」が付いただけ……そんな気持ちを裏切る衝撃のパフォーマンス
「ブリヂストンのポテンザの新製品がデビューします。その試乗会が筑波サーキットで開催されますよ」。
【意外と知らない】新品タイヤはナラシ走行をしないと寿命が短くなる!
編集部からのそんな誘いに色めきたった。僕らはポテンザがデビューした1979年からこれまで、超ハイグリップタイヤの頂点として「ポテンザ=最強」として擦り込まれている。そんなハイグリップ世代の僕に届いた「ポテンザ=サーキット」はにわかに興奮を誘うキーワードなのである。
とくに直近でいえば、2012年に「ポテンザRE-11A」がデビューしたときの衝撃が強烈であり、これ以上のハイグリップはもはやボイト比を切りつめただけの禁じ手だと思っていたのに、さらにそれを上まわる「ポテンザRE-71R」が2015年に誕生、あまりの戦闘力の高さに腰を抜かしかけた記憶がある。あれから5年。そろそろハイパフォーマンスタイヤへの禁断症状が発症し始めてきたいま、冒頭の誘いが飛び込んできたのだから、心踊らせながらサーキットに足を運んだことは言うまでもない。
「レーシングギアを持参して下さいね。ヘルメットだけではなくレーシングスーツもですよ」。
試乗会参加には、フル装備での条件が付け加えられていた。ブリヂストンの本気と自信がうかがえた。
かくして試乗の機会を得たニュータイヤは「ポテンザRE-71RS」と命名されていた。
じつをいうと、このネーミングにはちょっと拍子抜けした。というのも、「ポテンザRE47」から始まったらポテンザシリーズの歴史は常にアルファベットと数字の組み合わせなのだが、そこにはあからさまな関連性がなく、常にニュータイヤであることを主張していたのだ。「ポテンザRE71」が「ポテンザRE711」になったことを例外とすれば、今回のように「ポテンザRE-71R」に「S」を加えただけのネーミングは淋しい。小改良に過ぎないのではないかと想像させたのである。わざわざサーキットまで来て……。
ところがそれが、かえって「ポテンザRE-71RS」の心証をよくしたともいえるから不思議なものだ。期待値が低かったこともあり、あからさまな戦闘力の高さに驚かされたのである。
71Rならアンダーが出る領域でも71RSはさらに曲がっていく!
ファーストインプレッションを平易な言葉でいえばこうだ。
「ハンドルを切れば曲がる」である。
試乗会は「ポテンザRE-71R」と「ポテンザRE-71RS」を乗り比べる形で行われたこともあり、その差は歴然だった。「ポテンザRE-71R」も優れたタイヤには違いないから、サーキットでもけしてグリップレベルに不満はない。
試乗のために準備されていたのはトヨタ86とスズキ・スイフトスポーツであり、ともに足まわりを中心に強化されたライトチューニングモデルだったのだが、そのパフォーマンスを叩きつけても音を上げないグリップ性能を秘めているのにもかかわらず、「ポテンザRE-71RS」ではそのレベルが数パーセント引き上げられていたのだ。
「ポテンザRE-71R」だったらややアンダーステアが顔を出し始めるであろう速度まで追い込み、そのタイミングでさらに舵角を増やしていっても、なおかつグリップが立ち上がっていく。アンダーステアという感覚がスーッと霧散していくような不思議な感覚なのである。「ハンドルを切れば曲がる」と口にしたのはそのことである。
パターン剛性が上がっている。コーナリング中にフル荷重が加わるアウト側のトレッド剛性が悪化せず、イン側の接地も薄れない。トレッド面全域で路面をとらえるのだ。舵角を増してもグリップの低下が少ないと感じたのはそのせいだろう。
さらには路面の凹凸にゴムがもぐりこみ、エッジを効かせるようにねばる。それでもヒステリシスロスが強く発生、路面を見放さないのである。筑波サーキットのラップタイムでコンマ3秒ほどのアドバンテージがあると思えた。
しかも、ドライビングミスにも肝要だ。アンダーステアになりそうなアクションでも耐えてくれることから想像すると、あるいはビギナーであればさらにタイムアップが可能なのかもしれない。
ちなみにFR駆動のトヨタ86では、コーナー進入時から積極的にノーズを反応させることができた。よって走りやすい。タイヤに依存して走ればそれだけでタイムがあがる。だがいっぽうのスズキ・スイフトスポーツでは印象が異なった。グリップに甘えて舵角を増やしすぎてしまうと、フロントヘビー特有の、インリフトの姿勢になり、それを整えるのに苦労させられるシーンもあった。それほど大舵角のグリップが高いのである。
これからしばらく「ポテンザRE-71RS」の時代が続くかもしれない。そう思わせるグリップ性能だった。
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