「好きなクルマで行く妄想の旅!」(2) ポルシェ911カレラTとニュルブルクリンク
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第211回
青学中等部の美人同級生は毎日、黒いアメリカ車で送迎されていた
クルマ好きなら、運転好きなら、「一度はニュルブルクリンクを走ってみたい!」と思っているだろう。
ニュルブルクリンクは、ドイツ北西部に位置する1周約20.8kmのサーキット。標高差は300m、コーナー数は170を超える。
大小のコーナーは複雑に曲がりくねっているうえに、ブラインドコーナーも多いし、アップダウンも多い。
しかも、コース幅は狭いし、使い込んだ路面は一般道と同様に荒れていて滑りやすい。
サーキットというよりも、田舎道をクローズドにし、一方通行路にした、、といった表現の方がイメージしやすいかもしれない。
ゆえに、市販車を磨き上るためのテストコース / 試練の場としても、世界中のメーカーから重視され、試験車が持ち込まれている。
そして、ニュルブルクリンクで叩き出したタイムは、メーカーの、クルマの、ドライバーの実力の一片として捉えられる。輝かしいタイムを叩き出せば、当然、世界から注目され、讃えられ、新たな挑戦の目標にされる。
「クルマ好きの聖地」とさえもいわれるが、今回の旅の目的地は、そんなニュルブルクリンクを選ぶことにする。
「ニュルブルクリンクを走る」のが旅の主目的だとするなら、旅の友もそれに相応しいものでなくてはならない。となれば、答えは自ずと決まってくる。そう、、ポルシェだ。
で、ポルシェの何を選ぶのかも重要な考えどころになるが、今回の旅にもっとも相応しいと僕が考えたのは「911カレラT」。
日常性をも確保しながら、スポーツ性を追ったライトウェイト911だ。
ボディカラーは鮮やかなグリーンを選ぶ。ニュルブルクリンクの森にもひと際映えるだろうし、旅の間中、心地よい覚醒効果をももたらしてくれるだろう。
さて、、「911カレラT」とはどんなクルマなのか!」。まずはそんなところから話を進めていこう。
エンジンは、3ℓ水平対抗6気筒のツインターボ。385ps / 450Nmを引き出す。特にパワフルでもないが、十分なパワーでもある。
なによりうれしいのは「軽量化」に力を入れていること。リアシートは外し、軽量ガラスを採用。防音遮音材の簡略化等で、1470kgまで減量している。
そのうえで、アクティブスポーツサス、トルクベクタリングLSD、20インチホイール、車高の10mm低下、、等々、走りに効果的なものはしっかり取り込んでいる。なのに、派手なエアロパーツを纏っていないのもうれしい。
トランスミッションは8速PDKと7速MTがあるが、今回の旅には7速MTを選ぶ。MTを操ることで、ニュルブルクリンクを走る楽しさと昂りは間違いなく押し上げられるからだ。
加えて、MTはPDKより車重が35kg軽い。実質的な効果のほどはわからないが、心理的にはプラスになる。ニュルブルクリンクが旅の目的地なら、こうした拘りまで楽しみたい。
シュトゥットガルトでカレラTをピックアップしたら、まずはホテルに。こうした目的の旅には気楽なホテルがいい。そこで、メリディアンにチェックイン。
プールもジムもあるので、軽く汗を流すといい。無為に過ごすより、疲れも取れるしよく眠れもする。ニュルブルクリンクを走るのなら、心身ともにできるだけスッキリしたい。
シュトゥットガルトからニュルブルクリンクまでは、おおよそ330km。アウトバーンを使って3時間とちょっとくらいで着くはずだ。クルマに慣れるのにもちょうどいいし、ウォーミングアップにもちょうどいい。
フラットシックスのレスポンスの良さ、トップエンドまで一気に回り切る快感、刺激的なボクサーサウンド、、アウトバーンでも退屈する要素は何もない。
街中など、低速域での乗り心地は少し硬めだが、速度を上げるにつれてフラット感は増してゆく。アウトバーンは快適だ。
コクピットに入ってくるボクサーサウンドとロードノイズは大きめだが、今回は「刺激を楽しむ旅」なのだからプラスに捉えよう。
ニュルブルクリンクの一般走行には、国際免許証、パスポート、クレジットカードがあればいい。クレジットカードは、1周27ユーロの走行料金を支払うため。基本的ルールは一般道と同じで、レーシングスーツもヘルメットも強制されない。
ルールといえば、駐停車禁止、ヘッドライト点灯、事故等で黄旗や信号灯点灯があれば、50km/h制限と追い越し禁止、、「意図的なドリフトは禁止」というのもあるらしい。
とはいえ、コースを走るのはクルマもドライバーも、まさに玉石混合状態。そこに注意を集中するのが、いちばんのポイントだ。
鮮やかなグリーンの911カレラTは、ニュルブルクリンクでも確実に目立つはず。いろいろな意味で一目置かれる存在になる。だから、速くなくてもいいから、ルールとマナーはきっちり守って走りたい。
上記のようにヘルメットとレーシングスーツの着用は自由だが、僕は着けない。ルールとマナーを守り、自分のペースを守って走る。
速く走るより、リラックスして、視野を広くして、安全に楽しく走る。ただし、運転しやすい身繕いは当然だし、特にシューズには万全を期したい。
ところで、世界のメーカーが競うニュルブルクリンクのラップタイムとは、、僕の知っている範囲のものをピックアップしてみよう。
最速はポルシェ 909ハイブリッドevoで、5分19秒546。市販車最速はメルセデス AMG「ONE」で、6分35秒183とのこと。
1988年、僕が立ち会ったスカイラインR32型GT-Rのタイムは8分24秒。9分を切れば世界一級の高性能車とされた時代だから、このタイムはセンセーショナルだった。
しかし、上記のように、現在は異次元の領域でタイムは競われている。上記したタイムもすごいが、今ではFFのシビック タイプRが7分44秒881を記録する時代なのだ。
といったことなので、タイムのことは「フンフンすごいね!」と頭の隅に追いやり、安全に楽しく走ることにひたすら集中する。
目の前の路面とコーナーの状況をしっかり捉え、80%くらいのペースで走るのが安全面での必須の条件、、。だが、それでも、ニュルブルクリンクは十分にエキサイティングだし、タップリ汗をかかせてもくれる。
911カレラTは快調にニュルブルクリンクを走る。パワーも、楽しむためには十分だし、かといって、持て余すほどでもない。
軽快で安定した身のこなし、路面をしっかりグリップし、速度が上がるほどフラット感の増してゆくシャシー、、強力なブレーキも頼もしい。とにかくバランスがいい!
だいたい10周もすれば「走ったー!!」という気になるし、ニュルブルクリンクまで来て走った満足感にも満たされる。
ホテルに戻ったら、サウナに入りマッサージを受けて、部屋でしばしの仮眠。これで疲れは飛ぶか、心地よいものに変わる。
翌日は、ポルシェ博物館とメルセデス ベンツ博物館に行く。これは、シュトゥットガルトに行ったら、絶対外せない。
ニュルブルクリンクを走った熱い余韻が残るなか、ポルシェとメルセデス ベンツの熱い足跡を辿る、、これまた最高の時になる。そのための一泊プラスはマストだ。
シュトゥットガルト最後の夜は、美味しいディナーとライブミュージック クラブで過ごす。レストランもクラブも選択肢は多い。なので、ホテルのコンシェルジュに相談するのがいい。
ポルシェ911 カレラTとニュルブルクリンク、そしてシュトゥットガルトの旅は、絶対忘れ得ないものになる。
帰国したらすぐ、カレラTをオーダーすることに、、そんな、抑えきれない昂りをもたらす危険性さえ大いにある。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。
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