街中を無音で走り抜ける跳ね馬
車名に数字が使われる場合、大抵それはエンジンにまつわるものだ。3桁なら馬力だし、1桁か2桁なら気筒数を表すことが多い。フェラーリの場合、伝統的に排気量と気筒数を組み合わせたネーミングを使っている。
最新ミッドシップの296シリーズの場合は、2.9L 6気筒エンジンを積んでいることを表す。そしてGTBならグラントゥーリズモのベルリネッタ(クーペ)で、GTSならスパイダーだ。
296シリーズ最大の特徴はパワートレインにプラグインハイブリッドを採用したこと。電気モーターと大容量バッテリーを積み、マイナス2気筒ながらスペック的にはV8ターボのF8シリーズを上回ってきた。6発だからといって昔のディーノのような廉価版ではない。ましてや単なるダウンサイジングエンジンというわけでもない。時代の流れに沿って、これまでとは違った方法で総合パフォーマンス向上を試みたというわけだ。
サーキットユースが前提の「アセット・フィオラーノ」というパッケージオプションも用意された。軽量化にこだわった他、専用ダンピングシステムや250LM風のカラーリングもチョイスできるなど人気の仕様だ。 開発陣が“ピッコロV12”(小さな12発)というニックネームで呼んだ新開発120度V6エンジンの咆哮は、なるほど高回転域になればなるほどに、むせび泣くように聴こえる。488シリーズのV8ツインターボよりサウンドはかなり官能的になった。音圧の迫力や音のラウドさでは458時代の自然吸気V8に遠く及ばないとはいえ、キャビン内に響くサウンドは洗練されたミュージックのようだ。
電気モーターによる瞬時のトルクアシストが心地よい。ターボチャージャーの存在を打ち消すように力をスムーズにフィルインするからだ。まるで大排気量の自然吸気エンジン車を駆っているような気分になる。多少ずぼらに変速しても、大排気量エンジンのようにそれなりに速く走ってくれた。
大容量バッテリーはドライバーのすぐ後ろの床下に設置された。車体の重心付近にあるため、その重量による車体の動きへの悪影響は最小限に抑えられた。むしろバッテリーの重さぶん腰回りがどんと落ち着いて、車体とドライバーとの一体感も増しているように思う。端的に言って、F8より小さい車に乗っている感覚だ。実際にホイールベースと全長が短くなっているのだが、感覚的には実際の数値減以上にギュッと引き締まったかのよう。最近のミッドシップフェラーリの中では最もフィット感のあるモデルだった。
制動を含めたシャシー制御も特筆ものだ。マネッティーノ(ドライブモード)をレース、eマネッティーノ(ハイブリッドパワートレインモード)をクォリファイにして走ってさえいれば、面白いように曲がっていける。830psのリア駆動ミッドシップカーという事実にも決しておじけづくことがない。にもかかわらず、車の制御にすべてを頼っているという感覚も乏しい。アンダーステアなどまるで感じないから、急に運転が上手くなった気分だ。 かれこれ2000km近く試乗した。その間、まったく飽くことがなかった。アシはよく動き、フラットながら乗り心地がいい。何より、我が家から高速のインターチェンジくらいまでの道のり(10km弱)を完全にEVとして使えた。街中を無音で走り抜ける跳ね馬に、多くの人が興味津々のようだった。 マラネッロもまた電動化には真剣に取り組んでいる。現行ラインナップではプラグインハイブリッドシステムを2モデルに搭載するのみだが、2025年にはフル電動、つまりBEVの跳ね馬をデビューさせると“公約”した。もちろん内燃機関も諦めておらず、合成燃料の活用も視野に入れているようだ。
今のところ、やることなすことすべてが上手くいっている。高級車ビジネスのお手本のよう。他ブランドすべてはマラネッロの後を追っていると言っていい。 文/西川淳 写真/タナカヒデヒロ
フェラーリ F8トリブートの中古車市場は?
V8ミッドシップスポーツの現行モデル。最高出力720ps/最大トルク770N・mを発生する3.9L V8ツインターボを搭載する。エクステリアのデザインはフェラーリスタイリングセンターが担当。F1由来の技術を用いた優れたエアロダイナミクスが採用されている。
2022年12月現在、中古車市場には約30台が流通している。平均価格は約4582万円で、4000万円を下回る物件は存在していない。新車時の車両本体価格より高額ながら、多数の高額オプションが装着されている物件がほとんど。現在は新車だと納車までに時間がかかるので、すぐにV8フェラーリを楽しみたいなら、中古車からお気に入りの1台を探してみてはいかがだろうか。 フェラーリ F8トリブートの中古車を探す▼検索条件フェラーリ F8トリブート× 全国文/編集部、写真/フェラーリ・ジャパン
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