4ドアモデルも、流行のSUVもない。でもなぜか好調なフェラーリビジネス
フェラーリの新車を貴方がオーダーするとしよう。
ミッドマウントのSF90ストラダーレなら5340万円。最も廉価なフロントエンジンのローマなら2682万円の車両本体価格を用意する必要がある。
もちろん、それだけでは終らない。エクステリアを少し色気のあるものにしようと、フロントフェンダーの跳ね馬エンブレムやカーボンパーツなどを加えていくなど、ちょっとでも気を許せば数百万円のオプション金額が請求書に加わることになる。
さらにいえば、とっておきの1台をオーダーしたところで、その車があなたのガレージに収まるには結構な時間がかかる。順調にいっても半年、デビューしたばかりのモデルなら2年ほどのウェイティングが必要となることもままある。
そう「フェラーリを手に入れる」ということは、かなりハードルが高い。それなのになぜ多くの人々がこぞってフェラーリを発注するのだろうか。2019年には1万131台の販売を記録し、コロナ禍においてもその勢いはとどまることを知らない。さすがフェラーリといったところだが、そもそもなぜこういうビジネスが成立するのだろうか。
まず第一に、フェラーリはスポーツカーの頂点と誰もが認めるブランディング・パワーを維持することに全精力を傾けてきたが、そこで最優先されるキーワードが非日常性である点だ。近々、発表がうわさされているSUVだが、ライバルメーカーたちがSUVの販売で好調なセールスを記録しているにもかかわらず、フェラーリはその導入にきわめて慎重だ。これまで幾つもの試作を行っているようだが、それらは販売までは至っていないし、そもそも4ドアモデルですら現在までフェラーリには存在していない。そう、それも実用性とは対極にあるフェラーリのブランドイメージを崩さないため他ならない。 フェラーリ ローマの中古車を見る
ブランド創立以来守られている、需要と供給の意図的なアンバランス
もうひとつ、生産台数へのこだわりにも注目したい。先だって発表されたデイトナSP3は、世界限定599台というは中途半端な生産台数がアナウンスされた。このSP3はICONAシリーズ第3弾とされている。このICONAシリーズとは、これまでスペチアーレと呼ばれていたF40などを起源とする限定生産モデルシリーズのこと。
実はこの限定モデルにおける中途半端な生産台数設定は、創始者であるエンツォ・フェラーリのマーケティング戦略に基づいているとされている。つまり、想定される需要より1台少なく設定するということ。それによって手に入れることのできなかった顧客はさらにフェラーリを渇望するし、皆はなんとか手にいれようと、絶えずフェラーリの発信する情報に気を配る……といった具合だ。甚だ強気な戦略である。決して市場に在庫がダブつくことなく、絶えず皆が欲しがるという渇望感を維持するため、生産台数を綿密に設定するという戦略なのだ。
しかし、フェラーリはそうして苦労して車を手にした顧客へは、高い満足感を与えるべく万全を尽くす。
例えば、フェラーリはモータースポーツに起源をもつブランドの存在感を保つため、どんなに経営が厳しかろうとF1から撤退するなど考えられない。利益を度外視したモータースポーツへの取り組みがブランドを支えているのだ。新車をオーダーすると生産途中の写真が送られてきたり、オーナーだけがフェラーリ本社のアッセンブリーラインを見学できたりと、緻密かつ特別なサービスも忘れない。
さらに大きいのはリセールバリューの高さだ。中古車市場における価格を安定させるために様々な施策をとる。古いモデルにもクラシケ部門におけるフォローが的確に行われ、一方でそれもビジネスにつなげてしまうところがすごい。
フェラーリのように高価な商品を少量販売して高い収益を得ることができるのは、薄利多売といわれる現在の自動車産業においては夢のようなハナシだ。誰もができることならそんなビジネスをしてみたいと思うに違いない。それを可能にする根本的な理由が何であるかも、今後当連載でお話していきたい。 文/越湖信一、写真/Ferrari NV
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みんなのコメント
庶民の300円位の感覚なんじゃ無いの?
知り合いの投資家のオッチャンは
ポルトフィーノを足代わりに
乗り回してるよ。