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【英仏のプライド戦】ルノー16 オースチン・マキシ 5ドア・ハッチバックを比較 前編

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【英仏のプライド戦】ルノー16 オースチン・マキシ 5ドア・ハッチバックを比較 前編

1970年代を迎えるための堅実的な前輪駆動

執筆:Martin Buckley(マーティン・バックリー)

【画像】英仏の5ドア・ハッチバック オースチン・マキシとルノー16 全34枚

撮影:Max Edleston(マックス・エドレストン)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


オースチン・マキシほど不遇の時代に生まれたモデルはなかったかもしれない。5ドア・ハッチバックの5シーターボディに、5本のベアリングが組み込まれたオーバーヘッド・カムのEシリーズ・エンジンと5速MTを載せたファミリーカーだ。

国有企業として統合されたブリティッシュ・レイランド(BL)社の救世主として、1970年代を迎えるために誕生した堅実的な前輪駆動モデルだった。旧態化したA60 ファリーナ・シリーズを交代させ、毎週6000台の販売を見込んでいた。

4年間という充分な開発期間があったが、実際は尚早な技術の寄せ集めに近く、コスト削減も明白。1968年に第1号車が路上を走り始めたものの、結果は予め見えていたともいえる。

BMC社とレイランド社との合併というゴタゴタから、開発は逃れられずにいた。見た目には多くの批判が集まり、BL社の会長、ロード・ストークス卿は発売直前になってフェイスリフトを求めた。

より美しい姿だったら、初期モデルのケーブルが介在した不快なシフトフィールを許せたかもしれない。ビー玉の入ったバケツを編み棒でかき混ぜる、と感触が表現されるほど。

だが、トランスミッション自体は悪くなかった。コーリン・チャップマンは、そのMTをロータスに流用しているのだから。

コードネームADO14、後にマキシと名付けられるモデルのデザイナーは、ひと回り大きいオースチン1800、ADO17とドアの共有を強いたジョージ・ハリマンに振り回された。開発コストの効果的な回収につなげるため。

ブリティッシュ・レイランドとしての初モデル

大きなドアが、マキシのバランスの悪いプロポーションを決定づけた。ホイールベースは1800より25mmほど短いだけで、不格好に縮小したよう。しかもドア以外、マキシは1800と効率を高められるほど部品を共有していなかった。

オースチン・マキシは、BL社として発売された最初の新モデル。トライアンフのもとで900万ポンドもの資金が投じられ、表面上は素晴らしいコンセプトを持っていた。

大きな1800と、人気の強かった1100と1300(ADO16)とのギャップを埋めることが狙いだった。ところが、1960年代後半のニーズを充分には掴めていなかった。郊外に住む人々は、フォード・コルチナMk2へ流れた。

英国価格は1000ポンドを切った、実用的で小柄なオースチン・マキシ。それでも、シンプルでハンサムなコルチナの人気は奪えなかった。

BL傘下に収まったブランドのうち、モーリスは伝統的な後輪駆動モデルを担当。オースチンは、前輪駆動を主軸とする先進モデルを受け持つという戦略が立てられていた。

そのため、ハイドロラスティック・サスペンションに横置きエンジン、MT内の特殊なサンプシステムなど、高度な技術が開発時に疑問視されることはなかった。バーミンガムには工場が設けられ、オーバーヘッド・カムの新エンジンが組み立てられた。

このEシリーズ・エンジンも一筋縄ではなかった。6気筒化も視野に入れつつ、サイドマウントのラジエターのためにブロックを短くする必要がっあった。ボアアップできる余地は小さく、不自然なほどロング・ストローク化された。

カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した16

ところがADO17に搭載されたEシリーズの6気筒では、ラジエターをフロントに搭載。苦労して短くした横幅は無駄になっている。高さの嵩む、鋳鉄製の1500 Eシリーズの圧縮比は9:1。最高出力は73psで仕上がった。

量産にこぎつけたマキシは、1968年5月にポルトガルから発売。当初は5速MTによるクルージング性能やビッグミニといえる軽快な操縦性、巧妙な車内パッケージングが称賛を集めた。フロントシートを倒せば、198cmの大人が横になることも可能だった。

ハイドロラスティックと呼ばれたサスペンションは、これまでにない優れた乗り心地を実現していた。ところがエンジンは非力でにぎやか。引っかかりのあるシフトフィールに、多くの不満の声が出た。

マキシの実力は低くなかった。1970年には改良を受けた1500に加えて、1750cc仕様も登場。さらにストロークを伸ばし、12馬力を上乗せした。マニフォールドの改良で、トルクも太くなった。

ケーブル・リンクだったMTは、歪みの少ないロッドに変更。1968年当初はデラックスのモノグレードだったが、HLとHLSが追加。ツインキャブ仕様とATも選べるようになっている。

他方、ドーバー海峡の反対側では、サルーンとステーションワゴンを混ぜ合わせたようなルノー16(セーズ)が1965年から作られていた。15年のモデルライフで180万台以上が生産された、名モデルだ。

美男子とはいえないものの、ガストン・ジュシェが描き出した2ボックス、6ウインドウのボディは紛れもなく機能的。個性的な優雅ささえ漂わせている。1965年のカー・オブ・ザ・イヤーも受賞している。

先進的な技術に安価な価格、快適性と洗練性

雨だれが一体化されたボディは、少々背が高い。シビエ社製のヘッドライトは、レバーで角度調整が可能だった。タイムレスなデザインで、長い生産期間へも充分に耐えた。ワンピースのサイドプレスなど、多くの世界的特許も取得している。

1951年から作られていたフリゲートの後任車として、大規模な費用が投じられた先進的なモデルだった。マキシの登場以前、折り畳み可能な後席を持つ5シーターの5ドア・ファミリーカーは、ルノー16以外になかったといえる。

16が目指したのは、フランス中産階級へ向けたライフスタイル・カー。短い余暇を楽しむためのクルマだ。ルノーは仕事にも遊びにも使えるという、隙間市場を発見した。

当時のフランスは、まだ道路網が完全ではなかった。安価で簡素でありながら、長旅にも耐えられる快適性と洗練性も兼ね備えていた。

ストロークの大きいトーションバーを採用し、乗り心地はシトロエンDSに迫るといわれたほど。ちなみにトーションバーの位置が左右で異なり、ホイールベースは左右で70mmも違っている。

ディスクブレーキも積極的に導入。高負荷時にリアタイヤ側のブレーキ圧を抜くアンチロック構造を採用するなど、新しい技術も搭載していた。当時としては珍しくシャシーのグリスアップが不要で、メンテナンスの手間も少なかった。

新設計の4気筒エンジンも特徴の1つ。鍛造工程の精度を高めるため、アルミに圧力を加える製法を採用。電動ファンと、密閉型の冷却システムも導入している。

この続きは後編にて。

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