6年連続で輸入車ブランド販売NO.1に輝いたメルセデスベンツ。かつては、大排気量エンジンのパワフルなモデルが多かったが、昨今は時代の流れに乗り、ダウンサイジングターボや、クリーンディーゼル、プラグインハイブリッドなど、環境対応技術もいち早く取り入れてきている。
しかし、性能が重視されるプレミアムブランドであるだけに、なんとなく「燃費悪いのでは!?」と思っている方は多いだろう。そこで本稿では、メルセデスの各クルマと、国産車でのライバル車との燃費の違いを比較、考察してみようと思う。
文/吉川賢一
写真/メルセデスベンツ
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■Aクラス:A200dが比較的良燃費
メルセデスベンツのエントリーモデルであるAクラス。ボディのラインナップは幅広い
メルセデスのエントリーモデルにあたる「Aクラス」。しかし、Aクラスといってもボディのラインアップは広く、ハッチバックとセダン、派生車として、クーペルックのCLA、そのCLAのワゴン版シューティングブレークと、4モデルに分類される(SUVのGLAとGLBは、ここではいったん除外)。
想定ライバルとしては、カローラスポーツのGASとHYBRID、そしてMAZDA3ディーゼルをとりあげた。
Aクラス(ハッチバック)のパワートレインだが、通常モデルには1.3リッターターボ、メインモデルには2リッターターボディーゼル、そしてスポーツモデルのAMGモデルには2リッターターボに加え、同排気量でハイアウトプット仕様をラインアップしている。それぞれのWLTCモード燃費は下記の通りだ。
趣味性が高いスポーツモデルのA35、A45は、高速走行では14km/Lとまずまずだが、決して褒められる燃費ではない エンジンのパワーやフィーリングを重視するユーザー向けモデルとして割り切っている
このなかで特徴的なのは、ディーゼルモデルA200dの燃費の良さだ。WLTCモード総合で19.2km/Lは、MAZDA3と比べてもまずまずで、市街地ではMAZDA3に及んでいないが、高速モードでは、MAZDA3よりも優れている。
実際に、両車に乗った印象でも、Aクラスは街中発進時のキビキビしたレスポンスよりも、高速走行での巡行走行に長けたエンジンの印象を受けた。
そして、その特徴は、ベーシックモデルA180(1.3リッターターボ)にも共通する。カローラスポーツGASと比べ、WLTC総合燃費はほぼ互角だが、市街地での燃費は苦手だ。
しかし、このクラスでは電動車のないメルセデスに、国産ハイブリッド車を比較してしまうと、まったくお話にならない。欧州の厳しい燃費規制において、電動化も待ったなしの状況には変わりないメルセデスが、Cセグメントのニューカーをいつどのような形で作ってくるのか、今後の戦略が楽しみなところだ。
■Cクラス:ディーゼルターボの良燃費が際立つ
ハイクラスエントリーグレードのCクラス。バリエーションの豊富さはAクラス以上だ
エントリー高級メルセデスのCクラス。セダン、ステーションワゴン、クーペ、カブリオレと、Aクラス以上にバリエーションが多い。だが搭載されるエンジンのラインアップは、共通しており、以下の表のように、5パターン程度に分けられる。
レクサスのハイブリッドの強さは目立つが、ディーゼルターボのC220dの燃費も侮れない
現時点でのベースモデルは1.5リッター4気筒ガソリンターボエンジンのC180だが、これは次第に、48Vハイブリッドシステムを搭載したC200へと置き換えらえるだろう。
通常のスターター・オルタネーターに48V電気システムを組み合わせ、発進時のトルクをモーターで発生させてくれるBSG(Belt-driven Starter Generator)というマイルドハイブリッドシステムにより、ターボラグをカバーし、発進時は力強くスムーズになる。
回生充電もしてくれるので、燃費も良くなるといった効能もある。C200とC180 を比較したとき、WLTCモード燃費の上では、12.7km/Lが13.6km/Lへと約7%の改善代があるが、高速モードでは両者の差はほぼなく、フルハイブリッドのレクサスIS 300hの燃費18.0km/Lには、遠く及ばない。
しかし、Aクラス同様、ディーゼルターボに関しては、優秀な燃費だ。高速シーンであれば、19.2km/Lの低燃費であり、IS300hも真っ青のレベル。1600~2800rpmの間で400Nm(40.8kgfm)ものトルクがあり、どこからでも悠々と加速をして進む様子は実に頼もしい。
AクラスもCクラスもディーゼルターボの燃費は優秀だ
このディーゼルエンジン(OM654)は、ディーゼル特有のノイズを許容できれば、現時点でCクラスのベストバイグレードといえる。
このOM654というディーゼルエンジンは、2018年10月のビッグマイナーチェンジで更新されたもので、ノイズは前型OM651の「ガラガラ」という音から、「ジャラジャラ」という音に若干改善してはいるが、ガソリンの滑らかなフィーリングを期待すると、ひっくり返るレベル。それくらいノイズはやかましい。
筆者は、ビックマイナーチェンジ前のC220dに乗っているが、冷間スタート時は、なかなか激しいガラガラサウンドを響かせる。ただ、エンジンが温まった高速走行中には、エンジンの存在感が消えていくのは面白い。
しかし、これを凌駕しているのが、マツダ6の2.2Lディーゼルだ。しかも、半額ほどの価格。マツダ6のディーゼル6MTに乗ったことがあるが、トルクフルでとても扱いやすく、実燃費もめちゃくちゃよかった。マツダ6は、もっと評価されていい。
ハイパワーグレードのC43 4MATICエンジンは、最高出力390ps/最大トルク520Nmの3リッターV6ツインターボ(390ps/6100rpm、520Nm/2500~5000rpm)だ。
WLTC総合燃費は9.7km/Lと、えらいことになっているが、これは、スカイライン400Rの3リッターV6ツインターボ、最大出力405psと同じくらいの燃費。C43の燃費は、現存する3リッターターボ車のレベルとしては、妥当といえるのかもしれない。
■Sクラス:S400dの良燃費は、LS500hでさえ及ばない
最高級クラスのベンツ Sクラス
現行型メルセデスSクラスは、2021年1月28日に日本発売が開始になった最新型のモデルだ。Sクラスは、ハイエンドサルーン属する欧州Fセグメントに分類されるクラスであり、動力性能や静粛性、環境性能の高さなど、オールマイティである必要がある。
現時点は、3リッター直6ターボのS400dと、3リッター直6ガソリンターボの、2グレードとなる。
旧型Sクラスには、27マイル(約43km)のバッテリー航続距離をもつ、プラグインハイブリッドモデルの560eが日本市場にもあったが、現時点はラインアップから外れている。おそらく、そう遠くないうちに新型Sクラスへもプラグインパイブリッドが投入されることだろう。
直6ディーゼルを搭載するS400dは高速燃費が非常に良く、LS500hですら、追いつくことができていない領域に到達している
Sクラスと車格で張り合える国産車は、レクサスのフラッグシップ「LS」しかないが、LS500hであっても、S400dの高速燃費のよさには届いていない。LSも、欧州市場の速度域に合わせて作られているクルマなのだが、S500とLS500のガソリン車同志を比べても、LS500のほうが不利にも見える。
「日本車メーカーの強みは燃費」といわれることがあるが、現時点(2021年2月)のこの2台に関しては、メルセデスの方が燃費は良い、というのが実情だ。
フラグシップとして、どちらのほうが優秀だ、とまではいえないが、ノイズや振動の大きいディーゼルエンジンを、フラッグシップにまで持ち込むまでに進化させたメルセデスのエンジニアリングは非常に素晴らしいことだと思う。
■SUV/ミニバン:小型では国産HVに劣るが、大型は有利
ベンツのSUVはディーゼルエンジンメインなので総じて良好な燃費をもつ
現在、国内発売しているメルセデスベンツのSUVは、主にディーゼルエンジンをメインとしている。そのため、総じて燃費が良い傾向にある。
例えば、メルセデスの小型SUVであるGLA、GLBの場合、WLTC燃費は16km/Lを越えており、国産SUVのガソリン車は敵わない。THSIIを積んだRAV4ハイブリッドのようなストロングハイブリッド車でない限り、この水準の燃費をたたき出すことは難しい。
メルセデスベンツのSUVは、主にディーゼルエンジンをメインとしている 高速走行時の燃費の伸びは、国産ガソリン車や、ハイブリッド車でも得られない
しかしながら、ラージサイズSUVに属するGLCになると、レクサスRXのハイブリッドでも及ばない燃費となる。しかも、高速巡行になるとさらに燃費が伸びる。GLEとレクサスLX570は、比べるまでもない状況だ。
ミニバンでは、Vクラスの車格と近い国産車として、グランエースとアルファードを並べてみた。V200dの燃費は、グランエースよりも良く、アルファードHYBRIDよりは悪い、という位置づけだが、ディーゼルエンジンであるだけに、高速燃費では、アルファードHYBRIDにより近くなっている。
■ディーゼルエンジンのよさが際立った
どのカテゴリでも高速走行時のディーゼルエンジンの燃費のよさを再認識する結果となった
今回取り上げた、いずれのカテゴリでも、ディーゼルエンジン車の魅力である高速走行時の燃費の伸びは、国産のガソリン車はもとより、ハイブリッド車でも得られないメリットだ。
今後、日本の高速道路の平均速度が上がってくることがあれば、メルセデスをはじめとした欧州車については、燃費の良さが再認識されることとなるだろう。しかしながら、走りの質感が大きく違う点は、しっかりと把握しておかねばならない。その旨は、また別の機会にご紹介したいと思う。
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