BMW「8シリーズ」に、BMW M社が手がけた「M8」が追加された。“M化”の印象はいかに?
ブレーキの快楽。
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4.4リッターV型8気筒ガソリンツインターボ・エンジンの爆音を轟かせながら、ワインディング・ロードを登って降って、また登った。BMW「M8クーペ・コンペティション」は、でっかくて重いクルマなのに、625psと750Nmもの途方もない大パワーと大トルクでもって軽々と登坂路を駆け上がり、カーボン・セラミック・ブレーキの強烈な制動力によって減速する。
「ブレーキの快楽。」
ということばが浮かんだ。正確無比で、信頼感バツグン。スピードという名の悪魔を瞬時にやっつける。
このクルマ、速すぎる。全開にするのはほんの一瞬、うたかたの夢。3000rpmを超えるとグオオオオオッという咆哮の音量がますます増えて、もっと聞いていたいのに……欲望が途中で遮断される。
駆動方式はxDriveの前にMの文字がつく、「M xDrive」なるスペシャルな4WDシステムで、デフォルトのほかに後輪への配分を多めにするスポーツ・モードがある。ドライバーが望めば、純然たる後輪駆動にすることもできる。その場合はDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)をカットしなければならないので、筆者は試していない。
路面の濡れた公道で、後輪駆動で、DSCカットはアブナイと思ったからだ。けれど、安全に速く走るためのシステムである4WDをやめて、後輪駆動にする必要なんてものがあるのだろうか?
8シリーズに“M”が設定される理由
そこで筆者はしばし考えた。
M8とはなんぞや? なるほど、ベースの「M850i xDrive」よりいっそう骨太で、鍛え上げられている。乗り心地はソフト&メロウではなくて、はっきり硬い。ステアリングも重めで、マッスル・カーの趣さえある。
基本的に車重が1910kgもある、4WDのラグジュアリー・クーペだ。コンペティションと名乗ってはいるけれど、メーカーもユーザーも、本気でサーキットを走らせるのだろうか? いかにオプションで120万円ほどのカーボン・ブレーキの設定があるにせよ、625psと750Nmを後輪に解き放って、ドリフトしまくる凄腕が世界に何人いるのか……。
たくさんいるのである。もちろん、日本にも。
そう考えるしかない。スゴイなぁ。そう、スゴイのである。筆者はようやくにして、マレーシアのクアラルンプール郊外にあるセパン・サーキットで開かれたBMW Mの国際試乗会の風景を思い出した。
それは7年ほど前のことで、GQの取材で行ったのだ。BMWがアジア・パシフィック地区の有力顧客を招き、参加者にはもしかしてそれなりの費用が必要だったのかも知れないけれど、M3やM5、X6 MなどのMモデルを思う存分、F1サーキットで走らせることができた。
プレス向けではなかった。筆者は4.0リッターV型8気筒を搭載する当時のE90型「M3」に感激したのだけれど、驚いたのはセパンのパドックにやってきたインドネシアからの有力顧客たちだった。バスから降りてきた20人ほどの全員がグッチやルイ・ヴィトンで身を包んでいたのだ。しかも、彼らは運転がうまかった。筆者がたまたま尋ねた彼らのひとりは、「サーキットは趣味で、よく走っている。ニュルブルクリンクにも何回か行った」と、英語で語った。
アジアの新興国では、若くして富を築いた、精力も行動力もあるクルマ好きが生まれていて、サーキットを楽しんでいる。あれから7年の歳月が流れているから、彼らのドライビング・スキルもいっそう上がっているだろう。
BMWはこうしたイベントをアジアだけではなくて、世界中で開いているはずで、リッチでヤングな顧客が世界中にいる。思えば、BMWは独自のドライバー・トレーニングを1976年に立ち上げ、そうした顧客を育てることにも熱心なメーカーだった。
BMW M GmbHはBMWのMの文字をもつ超高性能モデルの開発と同時に、BMWドライバー・トレーニングの運営を現在も担っている。BMW M GmbHの前身がBMW Motorsport GmbHで、その設立は1972年にさかのぼる。ちなみにGmbHとは、ドイツで有限会社を、AGは株式会社を表すわけだけれど、つまりMはモータースポーツのMなのだ。
M5のパワー・トレインと共通
モータースポーツのMの文字をもつ、新しいBMW M8が、なぜ軽量化を図ったモデルではないのか?
といえば、レース用のモデル、「M8 GTE」はまったく別個に存在するからだ。現代のレースの規則が、かつての「3.0CSL」や初代M3のようなホモロゲーション・モデルを必要としていない。
正直に申し上げれば、筆者はM8コンぺティションという名称から、軽量化してレーシィに仕立てたモデルなのかと思っていた。BMWは8シリーズを復活させるにあたって、生産車より先にM8 GTEなるレース・カーを開発し、ル・マン24時間レースを含むWEC等で走らせてもいる。新しい8シリーズ、わけてもM8がサラブレッド・スポーツカーである、という神話をあらかじめ用意していたのだ。
そのM8 GTEの中身は? というと、シャシーはカーボン・コアのコンポジットで、アウターシェルはCFRP、つまりカーボン製。ホイールベースは2880mmと、量産モデルのM8の2825mmよりも長くて、車重が1220kgしかない。エンジンはV型8気筒ではあるものの、排気量は4.0リッターとむしろ小さい。つまり、カーボン製ルーフと前後のLEDライト類以外は似て非なる、純然たるレーシング・カーなのである。
新型M8は基本的にM850i xDriveクーペ の高性能版である。レーシング・テクノロジーは応用しているものの、レースの世界と直接的には関係がない。
フロント・ボンネットの下に潜む4.4リッターV型8気筒ガソリンツインターボは、M850i用のそれをベースにしながら、サーキット走行での前後横のGに耐えられるように、オイルの冷却系と潤滑系のシステムを強化している。M850i用のV8の型式がN63と呼ばれるのに対して、M8用はBMW M GmbHが開発したS63が使われている。
もっといえば、4ドア・セダンの「M5」のパワー・トレインを、8シリーズの2ドア・クーペ・ボディに移植したのがM8なのだ。
S63型V8のチューンにスタンダードとコンペティション用の2種類があり、前者が600ps、後者は625psを発揮するのもM5とおなじなら、2WDモードまで備えた電子制御の4WDシステムも同じ。8速ATのギア比も同じだ。
ただし、M8は車重1910kgと、M5より40kg軽くてクーペ・ボディということもあってだろう、0-100km/h加速はM5/M5コンペティションよりそれぞれコンマ1秒速い3.3秒/3.2秒を主張している。
3.2秒というのがもちろん、M8コンペティションで、コンマ1秒速いゆえに、M8コンペティションは200万円ほどプライスに上積みされている。
Mの強みとは?
近頃、Mの文字を持つBMWが増えていることに、クルマ好きの読者諸兄はお気づきだろうと思う。「X3 M」、「X4 M」が投入された2019年、BMW M GmbHは販売台数の新記録を打ち立てた。その数、世界で13万5829台、前年比32.2%増という驚異的な成長を達成しているのだ。同年のメルセデスAMGは13万2000台程度だから、台数の上ではBMW M社がライバルを僅差で上まわったことになる。
M3とM5しかない時代だったら考えられないことに、2019年に北米で販売されたBMWの7台に1台がMだった。スイスではBMW全体の22%をMが占めているという。富者はますます富む現代にあって、BMW Mの世界も急速に変わりつつあるのだ。
というわけで、新型M8がなぜ、新型M8のような、つまり後輪駆動にもなる4WDシステムの超高性能クーペであるのか? という自問に戻ると、そういう需要があるから、ということになる。
BMW M車の愛好家たちは、BMW M 社がつくるようなスペシャルなBMWを求めているのだ。それは、日常の足に使える快適性と実用性を備えていて、信頼性と安全性、耐久性に富み、最新のインフォテインメントと運転システムを備えていて、猛烈に速い、繰り返しになりますけれど、現在のBMW Mのようなクルマを。
フェラーリ、ポルシェに代表されるスポーツカー・ブランドとの明確な違いは実用性で、ポルシェ911が実用スポーツカーだとはいっても、それはポルシェであってBMWではない。って当たり前ですけれど、BMWがフェラーリとかポルシェをつくってもしかたがない。BMWの強みはスポーツ・セダンであって、彼らは彼岸ではなくて此岸にあり、リアル・ワールドに軸足を置いている。BMWグループの世界販売台数はおよそ250万台、ポルシェは28万台、フェラーリは1万台である。販売台数が多い分、少なくとも、より幅の広い、いろんなタイプのユーザーを想定している、ということはいえる。
最大のライバルのメルセデスAMGとの違いはというと、BMW Mのほうが繊細に感じる。メルセデスAMGの現行4.0リッターV型8気筒ガソリンターボは、排気量がBMWより小さいのに、6.2リッター自然吸気時代と同様の野生的で野太いサウンドを発し、強烈な大トルクを売りにしている。BMWのV型8気筒は、M8用もそうだけれど、滑らかにまわって洗練されている。AMGが豪快なナタなら、BMW Mはプロ用の切れまくる包丁、というような比喩はこんにちも通用する。
最後にプライスである。M5/M5コンペティションの1782万円/1867万円に対して、M8/Mコンペティションは2241万円/2444万円。2ドア・クーペで2+2という実用性の低さが贅沢でエクスクルーシヴだということになって、定員5名で、ドアが4つある親切なM5より450万円ほど、高価な値づけなっている。いわばエゴの発露なのであるからして、当然である。
BMW M8コンペティションは、富士スピードウェイのストレートを全開走行したい! ドリフトしまくりたい! と、願うだけじゃなくて、実行する男(と女)のための高性能クーペだからして、評価をくだすのはそれからだ。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
この手の車の需要はグローバルで激減しているのが実情。
M8はBMWとしてはフラッグシップでも、クーペのAMG GTの様に専用のシャシーを持つわけでもなく、トランスミッションはATで・・・中身はM5だから開発費からするとボッタクリで2年後のリセールはM5同様に\800万行くかどうかだ。
E63やパナメーラターボ、RS7同様の2トンの重量級の車に過ぎず、サーキットでは13年前の35GT-Rの初期車にも適うかどうかだろう
実質はM6なのにスーパーカーを持たないBMWがM8と呼んでいるだけの様な気がする。