2019年2月8日、東京都墨田区にガレージをオープンした「UK CLASSIC FACTORY」は、代表である勝見祐幸氏の趣味が高じて設立された会社だ。3年ほど前から最初期型、2ドア時代の初代レンジローバーを中心としたランドローバー車のレストアや販売を手掛けてきたが、このほど英国リスターベル社が開発・製作するランチア・ストラトスのレプリカ「the STR」および、同じく英国AKスポーツカーズ社が製作するACコブラ427のレプリカ「AK427」の日本国内での輸入販売を開始することになった。
生粋のエンスージアストの立場から自動車ビジネスの世界に参入した勝見氏が、英国訪問中にたまさか出会ったというリスターベル社とAKスポーツカーズ社もまた、極めてエンスー的なスペシャリスト。昨夏、縁あって2社を訪ねる機会を得た筆者が、彼らの情熱の結晶である「the STR」および「AK427」についてお話させていただくことにしよう。
あのランチア ストラトスが復活?!──超本格的なレプリカモデル「The STR」日本上陸!
「the STR」についての解説に入る前に、まずはモデルとなったランチアHFストラトスを説明する必要があるだろう。1970年代のスーパーカー世代には懐かしい1台でもあるHFストラトス。名門ランチア社がWRC(世界ラリー選手権)制覇を目的として開発し、FIA(国際自動車連盟)のホモロゲーション(認証)を取得するべく1974~75年に生産したモデルである。生産台数は少なく約500台。
エンジンはフェラーリがディーノ246GTのために開発したV6ユニットで、ミドシップレイアウトとなる。1974、75、76年とWRCでマニュファクチャラーズタイトル(製造者部門)3連覇を果たしたHFストラトスは、そのスーパーカー的資質も相まって、1970年代のアイコンとしての評価を獲得。その人気から英国では小規模コンストラクターがいくつものレプリカを開発、販売してきた。
リスターベル社の代表であるクレイグ・ホワイト氏は、若き日からそれらレプリカ車の開発に関与していたのだが、既存のストラトス・レプリカには満足できなかったのだという。そこで、レーシングドライバーを志したのちにエンジニアに転向し、2010年に独立。自身が理想とする「2019年モデルのHFストラトス」として開発し、2013年に発表したのが今回紹介している「the STR」になるわけだ。
レース畑出身のホワイト氏が自ら開発した、ロールケージ組み込みの鋼管スペースフレームに、これもレーススペックのサスペンションが組み合わされたthe STR。筆者は英国の私有地内で少しだけステアリングを握る機会に恵まれたが、トリッキーな挙動で知られるHFストラトスと共通のディメンションながら、実に安定したハンドリングであることに驚いた。またホワイト氏の操縦で工房周辺のカントリーロードに出ると、さすが元レーサーらしく、あっという間に200km/h超(!)にまでスピードを上げられてしまったのだが、そんな強烈なドライブでもFRP製のボディはミシリとも言わない。
英国の権威「AUTOCAR」誌の元名物記者、スティーヴ・サトクリフ氏がそのハンドリングを絶賛したというのも、さもありなんと納得させられてしまったのである。
この「the STR」だが、日本上陸第1号車にはアルファ166用のアルファロメオ製3リッターV6エンジンが搭載されるのだが、ほかにも2.5リッターや3.2リッター、希望によってはフェラーリV8だって選ぶことができるという。また、エアコンディショナーも装備できるため、クラシックカーの弱点をしっかりと克服。このあたり、実用性のアップも買う側には非常にうれしい点になるだろう。
そしてこの日はもう1台のレプリカモデルも発表された。ジョン・フリーマン氏とその家族で運営されるAKスポーツカーズ社が開発した「AK427」は、こちらも人気の高いACコブラ427のレプリカで、代表のジョン・フリーマン氏が30年にも亘って綿々と製作してきたモデルだ。
まずベースとなるACコブラ427の説明を先に。別名「シェルビー・コブラ427」として親しまれているこのモデルは、1953年にデビューしたイギリスの2リッター級スポーツカー「ACエース」に北米フォード製V8エンジンを詰め込んだモンスターマシンである。1959年のル・マンで優勝したアメリカ人ドライバー、故キャロル・シェルビーがプロデュースし、こちらも伝説的なスーパースポーツとして知られている。アメリカだけでなく、ヨーロッパのレースでも大活躍し、1970年代のランチアHFストラトスと同等かそれ以上に、1960年代スポーツカーのカリスマ的存在となった。
それだけの知名度、人気があるためコブラは最もレプリカ化されたクルマのひとつとして知られ、アメリカやイギリス、ヨーロッパ大陸、南アフリカなどでも作られてきた。フリーマン氏は自身のAK427が、少なくとも英国製レプリカの中では最もクオリティが高いと胸を張る。
もともとFRP専門業者であったフリーマン氏の父、ケン・フリーマン氏がコブラ・レプリカの製作を始めたのは1988年のこと。それまでボディ製作の委託を受けていたものを含めて、既存のコブラ・レプリカたちのボディラインやクオリティに不満を抱き、自ら開発・生産に乗り出したという。
息子であるジョン氏に代替わりしたのちは、サーキット走行を趣味とする同氏が自らテストドライバーとして、メカニズムをチェックしブラッシュアップ。現在では自社製の鋼管スペースフレームに同じく自社製のFRP製ボディを組み合わせ、シボレー・コルベットにも搭載される6.2リッターV8のLS3エンジン(430ps)を搭載した最新世代に進化を遂げている。
AK427については、すでに日本上陸を果たしていたAKスポーツカーズ社の元デモカー、オプションのスーパーチャージャー付きLS3ユニット(600ps!)を搭載したメタリックブルーの個体に試乗する機会を得たが、非常にコントロールしやすいことに感銘を受けた。ただし、スーパーチャージャーのフルパワーを不用意に解き放たない、という条件付きではあるのだろうが、それでもシャシーの剛性感とサスセッティングの巧みさ、そしてFRPボディの圧倒的とも言いたくなるクオリティと作りの良さは特筆に値すると思われる。
品質と性能から選ばれた2つのブランド
型式認定や法規のクリアが困難なため、日本ではあまり例を見ないレプリカ車というカテゴリー。しかし、欧米ではかつて憧れた名車たちを比較的気軽に楽しめることから、常に高い人気を誇るという。とくに、アマチュアリズムが尊重されるイギリスにおいては数多くのレプリカ車が製作されているのだが、数多い英国製レプリカの中、UK CLASSIC FACTORYの勝見代表がクオリティやパフォーマンスの面で吟味を重ねて選んだのが「the STR」と「AK427」だったとのことである。
リスターベル社、AKスポーツカーズ社ともに、英国内では税制上有利なキットカーとしてのフォーム販売が多くを占めるとされるが、年間数台程度はコンプリートカー(完成車)として製作されるそうで、日本総代理権を獲得したUK CLASSIC FACTORYではその一部を輸入することになるという。
日本での販売価格は装備やオプション、あるいは契約時の為替などによって変動する。勝見代表によると現状での「the STR」はおよそ1200万円~、「AK427」はおよそ1350万円~と設定しているとのこと。このあたりは問い合わせをするタイミングに大きく左右されるため、興味を持たれた方は、直接確認をして「男の夢」がつまったクルマへの第一歩を踏み出して頂きたい。
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