先般パシフィコ横浜で開催された人とくるまのテクノロジー展。内外数多くの自動車関連産業の会社が出展し、大いににぎわったのはご存じのとおりだ。その取材においてうかがったお話をひとつ。海外から日本の市場を眺めたときに見える風景とは──。TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)
ダッソー・システムズという企業がある。飛行機に詳しい方なら「あぁ、ミラージュ作ったところね」とピンと来るであろう。ダッソー社の航空機設計システム部門から1981年にシステムソフトウェア企業として独立。当初は航空機産業が主な顧客であったが、BMWとホンダが同社の3Dソフトを採用して以来需要が拡大し、今では国産メーカーとサプライヤーのほとんどがダッソー・システムズのCATIA(3Dソフト)やABAGUS(解析ソフト)を使用するに至っている。エンドユーザーには馴染みがない名前だけれど、機械設計の世界ではマイクロソフト級の企業なのだ。
JSAEこぼれ話―――ブレーキディスクに溶射コーティングする理由
自動車メーカーはすべてと言ってよいほど設計手法に3Dモデリングを取り入れているものの、サプライヤーレベルではまだまだらしい。というより、日本全体で3D化が進んでいないようなのだ。つまり未だに2Dの「図面」をベースに設計作業が行われているということ。現場はそれで構わないのかもしれないが、生産まで踏まえると大問題だ。
3D化は単に可視化ができるだけでなく、データを設計から生産まで共有でき、シミュレーションによる検証も容易。全体での効率・製品化までのスピードが格段に向上する。昨今よく使われる「モデルベース開発」も、3D設計がベースにあってこそ可能となる。
なのに未だに2D設計が多くの企業で行われているのは、日本の場合、理工系の大学で3Dモデリングを教えていないかららしい。欧米はもちろん、中国や韓国でも3Dは必修で、マスターしていないとメーカーへの就職は不可能だという。そうした風土で3Dソフトウェアを販売するためには、まず3D設計の意義と海外での実績を示すことから始めなければならないそうだ。日本の工業は今や開発スピードで立ち後れている分野があると見聞するし、欧米のメガサプライヤーが、メーカー系サプライヤーの牙城である日本で市場を拡大しているのも、背景に開発スピードの差があるといわれている。
ソフトウェアは端的な例かもしれないが、要素技術でも日本が立ち後れている事例をヘンケル・ジャパンできいた。
同社はコンポジット素材と接着技術に強みを持っており、欧米で採用されているボディ部材用の接着剤をJSAEで開催の度に展示している。その都度メーカーやサプライヤーからは多くの耳目を集め、資料請求も多数引き合いがあるそうだが、実際に製品が採用された例はほとんどないらしい。
溶接から接着への技術置換に於いて、最も懸念されるであろう耐久性についても十分な検証がされており、すでに製品への適用事例もたくさんあるにもかかわらず二の足を踏むのは、既存の手法を新しいモノに変えるのに、必要以上に手間と時間がかかるからではないだろうか。
教育現場の硬直化、バブル期の過大投資、終身雇用制の弊害等々理由は多岐に渡るだろうし、それらが一朝一夕に変わるとも思えない。しかし、旧弊に縛られて新しいステップを踏み出せないことで、日本の自動車そのものが魅力を失わなければよいのだが。
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