エンジン版と並行して売られる新世代
text:Mark Tisshaw(マーク・ティショー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
最新のフィアット500が登場する。初代500の登場から3回目のモデルチェンジとなる。デザインチームには、お疲れさまでした、と声をかけてあげたいところ。1957年と、2007年の頃のように。
美しいと感じる人もいるだろう。手堅くまとめた、と見る人もいるかもしれない。フィアット500の購買動機を考えれば、見た目はとても重要だ。
登場から13年が経っていた従来のフィアット500は、マイナーチェンジ後の3年間も販売が好調。運転環境や安全機能など、変化が大きい時代にあって、驚くべき人気だった。
最新の500は、見た目は500らしいが、これまでとは大幅に異なる。完全な電気自動車になった。2気筒のガソリンエンジンもない。ハイブリッドもない。
ただし従来のフィアット500は、最新版と一緒に当面販売が継続される。フィアットのショールームに行けば、エンジン版の500も、しばらくは買える。ただし名前は同じ。混乱する人もいるかもしれない。
外観は紛うことなき500ながら、新開発された、スケートボード状の純EVアーキテクチャを基本骨格としている。フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)としては、初の量産版純EVとなる。
今回は、純EV版フィアット500のプロトタイプへの試乗。見た目と同じくらい走りが良い、という決り文句は、このクルマにも当てはまるものだった。
大きくなったボディに320kmの航続距離
フロアに敷き詰められた、リチウムイオン・バッテリーの容量は42kWh。満充電での航続距離は320kmと、やや控えめ。
フロントに搭載するのは、118psと22.3kg-mを発生する永久磁石モーター。ダイレクトドライブ方式で、前輪を駆動する。
DC急速充電器に標準対応し、85kWの容量のDC充電器なら35分で満充電にできる。11kWのAC充電器なら、4時間15分かかる。
純EV版のフィアット500にとって、最大のライバルはミニ・エレクトリックやホンダe。ライバルの航続距離は200km前後と短く、フィアット500が優位に見えてくる。
ボディサイズは、ひと回り大きくなった。従来のフィアット500と並ぶと、明らかに大きい。それでも実際の寸法は、それほど大きいわけでもない。
比較すると、全長は61mm伸び3632mm、全幅は56mm広くなり1683mm、全高は29mm高くなり1510mmへ成長している。ホイールベースは22mm長い。
リアトレッドが広がり、17インチという大きめのホイールを履く。新しい500は、見た目の安定感も良い。凛々しい佇まいだ。
運転席に座れば、まだまだ小柄。混雑した都市交通をすり抜けるのに、最適なボディだといえる。
試乗した500カブリオレは、量産版に限りなく近い。来月以降、量産版の試乗が許される予定で、英国では2021年1月から販売がスタートするという。今回のルートは、トリノ周辺のエリアに限定された、短いものだった。
改善したドライビングポジション
プロトタイプということで、車内のプラスティック製パーツや、インフォテインメント・システム、レベル2に対応する自律運転支援システムなどは、完全ではないと説明を受けた。10月には調整が終わるのだろう。それ以外は、ほぼ完成版と考えて良いようだ。
運転席に座って真っ先に気付くのが、ドライビングポジションの改善。これまでの500の場合、シートの上に乗っかっているような雰囲気があった。
新しい500では、快適な運転姿勢をすぐに取ることができる。シートとステアリングホイール、ペダル類の位置関係も良い。
とはいえ、シート自体の快適性は、もうひとつ。高速道路を長時間運転する相棒には、なりにくいかもしれない。
車内は、従来より広くなっている。フロントシート側では、頭上や肩周りの空間に余裕が出た。小物入れのスペースも増え、使いやすい工夫もされている。リアシートは、背の高い大人には少々狭い。1時間も乗りたいとは思わないだろう。
荷室空間も広くなっている。しかし今回はカブリオレで、ソフトトップが畳まれるぶん、大きさが限られている。リアシートを起こした状態だと、小さなかばん2・3個くらいしか入らない。
この最新の500は、多くの人にとって初めての電気自動車にもなるだろう。電気自動車だから買うのではなく、500を買ったら電気自動車も選べた、という動機にもなりそうだ。
観察はこのくらいにして、後編では走り出してみよう。
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