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奇才が手掛けたミニはユーモアで溢れていた!

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奇才が手掛けたミニはユーモアで溢れていた!

コラボレーションモデル発表のため来日した、ミニのデザイン部門の責任者、オリバー・ハイルマー氏とファッション・デザイナーのサー・ポール・スミス氏に今尾直樹がインタビュー。両者が考えるこれからのミニのあるべき姿とは?

豊かな発想はひとを楽しい気分にしてくれる

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ミニとポール・スミスとのコラボレーションによって生まれたワンオフのコンセプト・カー「ミニ・ストリップ」と「ミニ・リチャージド」の2台が日本にやってきて、もう終わっちゃいましたけれど、さる10月7日から同月12日まで、「MINI × Paul Smith in東京」と題して、東京都渋谷区神宮前にあるアート・ギャラリーで一般公開された。

このイベントに先立ち、ファッション・デザイナーのサー・ポール・スミス氏とミニのデザイン部門の責任者、オリバー・ハイルマー氏が来日し、10月5日、同じギャラリーで彼らのコラボ作品について語り合う、プレス向けのイベントが開催された。

ミニ×ポール・スミスというと、1998年、オリジナル・ミニをベースにつくられた特別仕様車、ポール・スミス・エディションを、筆者なんぞは思い出す。限定1800台で、そのうちの1500台が当時のミニのメイン・マーケット、日本で販売された。あれはとってもカッコよかった。

それから20年以上の歳月が過ぎ、時代はすっかり変わった。「サステイナブルな未来のため」にミニとポール・スミスが再びタッグを組む。と発表されたのは2020年11月のことで、その果実の第1弾が、10カ月後の2021年8月にロンドンで初公開された「ミニ・ストリップ」なのである。

一見、シルバーの、なんの変哲もない現行ミニの3ドア・ハッチバックのようだけれど、ストリップという名前が示すごとく、ミニの装備や内張、飾りの部分をどんどん剥いで、裸にしていったようなモデルで、近くに寄って室内を覗き込むと、う~む。こんな手があったか……と、たまげるような新しいアイディアがいっぱい詰まっている。

たとえば、外装は基本素材そのままで、透明の防錆剤が使われているだけ。なめらかで美しいペイントではなく、スチール表面の小さなキズをあえて見せている。

え、ホントにこのままでいいの? と、ミュンヘンのミニのチームは戸惑ったそうだけれど、「擦り切れたジーンズとかジャケットのように、ボディのキズはそのクルマだけの個性になる」というサー・ポール氏のアイディアを受け入れた。

内装ではリサイクルしたものか、リサイクルを想定した素材が用いられている。ルーフにはリサイクルした透明のアクリル・ガラスが用いられ、構造物が見えるようになっている。シートにはレザーではなくて、見慣れないニットが使われ、ダッシュボードとドア・パネルの上部はコルクが貼られていて、自然素材ならではの温かみを感じさせる。

サー・ポール氏が特に気に入っているというこのコルクは、使用済みのコルクを再利用している。コルクは植物由来だから化石燃料を原料としていないし、加熱することで結合するので、化学的な接着剤を必要としないからリサイクルに適している。使ってみたら音響面でも効果大で、しかも断熱にも優れているから、自動車用の素材としても優れているという。

液晶スクリーンの類も省略されている。現行ミニの特徴である大きなセンター・メーター部分はスマートフォンを設置できるようになっており、これひとつでインフォテインメントをまかなう。時代を巻き戻そうとしているわけではない。発想のヒントは、ドイツ人プロダクト・デザイナーのディーター・ラムス氏のこのことばだ、と配布された資料にある。

「Less is more.(より少なく、より豊かに)」

もう1台の「ミニ・リチャージド」は、前述した1998年のミニ・ポール・スミス・エディションを電気自動車に改造したもので、今年6月にミラノの国際家具見本市で発表された。自動車を丸ごとリサイクルしよう、という大胆な提案である。

特徴的なブルーのボディ色は、当時、サー・ポールがミニのオックスフォード工場に打ち合わせに行き、ペイント・ショップで、どんな青色にする? と、訊ねられて、そのとき着ていたシャツを示し、「こんな色」と答えたことから生まれた。というエピソードをポール・スミス自身が語った。このとき、見本として生地の一部をカットして担当者に渡したという。そのときのシャツが一緒に展示してあって、イギリス人はやっぱりモノを大切にするんだなぁ。と筆者は感心した。

EV化を手がけるのはイギリスの「リチャージド・ヘリテイジ」という会社で、ミニはこの会社とパートナーシップを結び、公式にオリジナル・ミニをEVに転換して販売することを認めている。自分で車両を持ち込んでも、改造費用は4万2500ポンド(およそ700万円)から。

ということだけれど、ミニ・ファンの多い日本でも同様のプログラムを展開すれば、一定の需要が望めそうだ。内装もステキだし、エンジンのパーツとそっくりコンバートするから、再びエンジン車に戻すこともできるという。

「ミニ・リチャージド」は、自身の長い足が入りやすいようにステアリングホイールを取り外せるようにするなど、サー・ポール氏自身のアイディアが加えられている。

豊かな発想はひとを楽しい気分にしてくれる。ミニとポール・スミス、2台のコラボ作品はその見本だ。自動車に関するデザインは出尽くしたと思っていたけれど、そうではなかった。新しいアイディアというのは、あるところにはあるものなのだ。

未完成なものが好きなんですと、感心しているだけではなくて、この日の夕方、渋谷にあるオシャレなホテルの一室で、ポール・スミス氏とオリバー・ハイルマー氏のおふたりにインタビューすることもできた。以下はそのときのQ & Aです。

Q:素晴らしいアイディアの数々に驚きました。

ポール&オリバー:おお、ありがとうございます。

ポール:ミュンヘンのチームとの素晴らしいコラボレーションの結果だと思っています。よかったのは、みんながやりたいことがすべてできた機会になったことです。オリバーはデザインの責任者なので、クルマをデザインするだけではなくて、各国の安全規制についても考えなければならない。その点、コンセプト・カーは、アイディアに集中してできる。

Q:生産車には使えないということですか?

オリバー:そうですね、残念ながら使えません。問題はホモロゲーションです。

ポール:ホロモゲーションって?

オリバー:生産するための認可のことで、国によって異なっていて、時間もコストもかかる。たとえば、シートの素材を変えるとクラッシュテストをもう1回やらないといけない。エアバッグがなかに入っているからです。安全性というのはお金がかかるのです。

Q:ルーフやドアをスケルトンにして、内部を見せるというアイディアは建築から来ていると思うのですが、自動車では初めて見ました。

ポール:多くの人は、ボディの構造の美しさに気が付いていない。でも、僕は個人的にとても美しいものだと思っています。

オリバー:同意します。

ポール:一種の中毒ですね。(筆者の手帳をチラリと見て)おお、あなたは質問のリストをすごく用意している! 今日のランチの中身をお伝えしましょうか?(笑)。

Q:シートの素材がニットで、あれも新しい試みだと思いました。

ポール:あのインスピレーションはトレーニング・シューズから得ました。アッパーのニット素材を使っているシューズは多いから。いまはすごく軽くて、履き心地がいいものが多い。

オリバー:ニットは3次元性があるから無駄がないんです。

ポール:イスとピッタリのカタチでつくることができるから無駄がないんですね。

オリバー:で、これもリサイクルの素材です。

Q:1998年のポール・スミス・エディションのあと、もう1回ミニとやろうというプロジェクトがあった、と午前中の発表会でおっしゃっていましたが、どうしてそれは実現しなかったんですか?

ポール:そのときミニのチームはカントリーマンでやろうということで、でも私はハッチバック、ハッチバックって呼んでいる?(と、オリバーに確認する)がよかったから。カントリーマンではなくて、オリジナル・ミニに近いほうが私にとってのミニだから。関係が悪化したわけではなくて、ただ、やらないといっただけです。

オリバー:僕はそのとき、まだ会社にいなかったな。

Q:ボディを塗装しないというアイディアも量産化は難しいんですか?

ポール:RAW(未加工の)ボディですね。そうです。

Q:どうしてですか?

オリバー:お客さまは20年後もそのままであることを望んでいるからです。ステンレス・スティールはそのままだと、ボディを何十年経ってもキープするのはむずかしい。

ポール:今日見せたクルマ(ミニ・ストリップ)はテイストがあるとわかってはもらえると思いますけど、多くのひとは欠陥だと思います。洋服だったら、手染めとかハンドメイドだとか、注意書きのある洋服がありますけど……。

オリバー:僕たちはともに未完成なものが好きなんですけど、自動車産業はまだそこまでいっていない。

ポール:ストリップのなかで、将来、ひとつでもミニが採用することを、私たちは期待しています。

オリバー:自動車でステンレス・スチールのまま、というのは、デロリアンだけでしょうね。

Q:デロリアンができるなら、ミニもできるでしょう。

オリバー:そうですね。サンキュー。

ともに楽しみながら手掛けた1台Q:今回のコンセプト・カーの製作の目的は何だったのでしょうか。そして、それは達成されましたか?

ポール:もちろん、私のゴールは達成しました。なぜ、製作したかいうと、すごくよいことだと思ったんです。ミニという会社がチームとして、私に機会を与えてくれて、それは量産して金銭的な利益にはならないにしても、チームに異なる考え方を誘発するという利益がある。

Q:もし量産化して、1800台とか販売することになったら、ビジネスとしてはそっちのほうがいいでしょう。

ポール:そうかもしれませんが、できないということは初めからわかっていたから。1台完成して、それが公道で走れたら最高ですが。私も個人的に運転したい。

オリバー:ハンドメイドなんです。アッセンブリーに6カ月。モデラー、テクニシャンの10人が参加しました。これは全部コストですから。

ポール:ドリーム・カーだね。

オリバー:もちろんです。ワークショップをスタートしたときはどうなるかわかりませんでした。でも、すべてのコンセプトカーはクリエイティブです。インパクトがあって、エンジニアたちも私たちももう1度考えることができた。目的は達成できたと思います。

ポール:イノベーションですよね。将来への投資だと思っています。

Q:そもそも、なんでポール・スミスだったのですか? ミニからコラボレーションを持ちかけたんですよね。

ポール:(黙って耳をふさぐポーズをする)。

オリバー:私にとっては理にかなったことです。お互いにアイコニックなブランドで、会ったときに考えていたのは、お互いの未来についてです。われわれの未来について、もう1度適応する必要がある。再挑戦していこうと。同時に、ヘリティッジを失いたくなかった。それが共通の思いでした。

ポール:洋服のデザインからアプローチしたというのは面白い試みだと思います。ご存じのように、ポール・スミス・ブランドは日本では80年代初期から動きはじめました。グローバルでは、現在60カ国以上で展開しています。特に1990年代、日本は非常に豊かで、たくさんのブランドがヨーロッパ、アメリカからやってきて、ポピュラーになり、2年、3年後には消えてしまった。幸運にもポール・スミスは長く続いていて、ヘリティッジがあって、非常にブリティッシュで。それはミニも同じです。とてもよいパートナーシップです。

Q:いまのミニは、みんな、いっていることですけど、ミニと呼ぶには大きすぎると思いますが、そのへんはどうお考えでしょうか?

ポール:「もう少しでミニ」と呼ぶ(笑)。ニアリー・ア・ミニ。

オリバー:そうですね、どう正しく答えるべきか考えているんですけど、デザイナーとしては、ホントに同意します。私たちのエンジニアは、次の世代はもう少し小さくしようということで一所懸命やっています。

ポール:これ以上、大きくはなって欲しくないよね。

オリバー:同時に安全性の需要が大きくなっていて、想像してみてください。ミニと大きなフォードのピックアップ・トラックが衝突したときのことを。それにはスペースが必要なのです。でも、電動化は助けになります。アーキテクチャーの上で、またミニになることができる。スペース・レイアウト上、違うレイアウトができますから。

ポール:昔に比べると、日本に来たとき、私は毎回同じホテルに泊まっていたのですが、徐々にファックス・マシンとか大きなテレビとかコンピューターのためのプラグとかが導入されて、同じ部屋がどんどん狭くなってきた。世界中の多くのホテルがそうなっています。それが現代社会です。ミニもホテルの部屋と一緒です。1台のミニのなかには5万3000もの部品が詰まっているというのですから。

オリバー:ホントです。でも、テクノロジーによって再び減らすことができると思っています。全部が必要ではない。ファックス・マシンはもういらないですからね。

ポール:ミニと呼ぶにはむずかしいけれどね。

オリバー:サイズは相対的なものです。1970年代のクルマと、2000年代のクルマを較べてみると、同じセグメントでもすべてのクルマが大きくなっている。ところで、僕は日本の軽自動車が大好きなんですよ。将来、EVは軽自動車みたいになって、また大きくなると予想しています。なぜなら、EVはある航続距離が必要で、それにはバッテリーがさらに必要になり、電池が増えれば、ホイールベースはさらに長くなる。おそらくその方向にいく。現在のカスタマーは内燃機関のクルマと同じ航続距離をEVでも期待しますから。

ポール:私のミニの航続距離は100マイル(160km)だよ。それ以上は歩く(笑)。

オリバー:まあ、少なくとも大きくならない方向で考えたい。

Q:ミニ・ブランドの可能性を広げるためにジャンボ・ミニをつくったらどうかと思うんです。5mぐらいの。

オリバー:ミニ・マキシですね。

ポール:ミニのブラザー。

Q:つまり、ミニというのは、サイズではないとしたら、どういうブランドだと定義していますか?

オリバー:最初に、マーケティング出身じゃないから、僕自身の考えですけど……。

ポール:彼らだったらすぐに答えを出せるよね。

オリバー:われわれはデザイン・チームとして、クリエイティブなマインドセットをしています。サー・アレックス・イシゴニスのオリジナル・アイディア、1960年代に起きた小型車の革命ですね、われわれもデザインのプロセスのなかで、ハート・ビート、好奇心、責任、そしてデアデビル(向こうみずな、無謀な)、デアデビルというのはなにか新しいことをやる勇気、だれもが期待していなかったことをやってみる、ということを意識しています。デザインからいえば、我々のブランドは止まっているのではなくて、我々は我々の考えで会社をステア(動かす)しようと思っています。

ポール:小型車をつくっているブランドはたくさんあって、ミニの精神、モダニティと同時に歴史を踏襲していくことも必要です。

オリバー:だから、こういうことは恐れています。たとえば、イタリアではイタリア人はパスタを食べている、みたいな捉え方ですよね。ミニに対する思い込み。そういう罠に陥ってはいけない。

ポール:面白いのは、当初ミニ・ストリップのコンセプトアイディアは、私の頭のなかにまったくなかったんです。それは自然に出てきた。まったくノー・プランでした。それで、我々はテレパシーで通じ合ったのです。ミュンヘンとロンドンで。1回しか会ったことがないから。いちばん面白かったのは、オリバーとの打ち合わせの際に、小さなラップトップの小さなカメラに向けて、こんな小さな紙に小さく絵を書いて、カメラの前に置いて……。

オリバー:焦点が合っていないんですよ。ポール、見えてないよ。と僕はいっていたんだけど、僕の後ろでラップトップを見ていたチームの面々は、「イエイッ、OK!」と(笑)。

ミニ・ストリップが楽しいオーラを放っているのは、ユーモアと才気あふれるサー・ポール・スミス氏と、オリバー・ハイルマー氏率いるミニのデザイン・チームがともに楽しみながらつくったからなのだ。

なお、よりよい未来のために、ミニ・ブランドは2030年代の始まりには完全EV(電気自動車)のブランドになるという。新世代のミニEVは2023年に登場することが、2021年の11月に発表されている。

この新型EVのニッポン上陸は2024年となり、それまでに充電設備の整備を進めることが午前中のプレス向けイベントで明らかにされた。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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