フジガス@2021年トライアルGP開幕戦
モータースポーツの世界最高峰クラスでチャンピオンを獲った唯一の日本人、藤波貴久選手が41歳にして5年ぶりの世界選手権優勝を遂げた。世界選手権参戦26年目の藤波選手にとって34勝目となり、歴代5位の記録になるという。
原田哲也が達人&読者と行った! トライアル世界選手権{わくわく}観戦記
バレンティーノ・ロッシでさえ最後に勝ったのは38歳
41歳での優勝、しかもバランスの極みを競うトライアル世界選手権の最高峰で、初日に優勝した絶対王者のトニー・ボウ選手を抑え込んでの勝利劇。これが5年ぶりの勝利で、世界選手権参戦26年目にして通算34勝目というから驚くほかない。
1993年のロードレース世界選手権250ccクラスで世界チャンピオンになった原田哲也さんをして、「オン/オフ問わず、すべての日本人ライダーの中で一番上手いのは藤波選手」と言わしめる現役トップライダーであり、2004年にはモータースポーツの最高峰 or 無差別クラスで日本人として最初、そして唯一の世界チャンピオンを獲得したライダー、それが藤波貴久選手だ。
1980年1月13日生まれの藤波選手は、3歳からでモトクロスを始め、自転車トライアル世界選手権の10歳以下クラスでチャンピオンを獲ったあと、11歳でバイクのトライアル競技にデビュー。1991年の中部選手権下呂大会にて国内B級デビューし、これに優勝して即座に国内A級へと昇格。翌年には中部選手権で全戦優勝して国際クラスへ……といった化け物級の進撃から、15歳の1995年には史上最年少で全日本選手権チャンピオンを獲得している。
翌1996年に世界選手権へ参戦開始し、1997年にドイツ大会で初優勝。1998年には全日本選手権チャンピオン、世界選手権ランキング5位を獲得。1999年から2003年まで5年連続で世界選手権ランキング2位を獲得し続ける。
そして2004年には、前述のように日本人初のトライアル世界選手権チャンピオンに輝き、2005年、2006年は総合2位。2007年から2011年まで総合3位と上位にランクインし続けてきた。2012年以降の総合順位も5位、5位、5位、5位、3位、5位、6位、3位、7位となっており、なんと21年連続でトップ5入りという大記録の持ち主なのだ。
―― 左のゼッケン1は、目下14連覇中の絶対王者トニー・ボウ選手。ゼッケン7が藤波貴久選手だ。世界選手権デビュー当時のアクセル全開っぷりからファンにつけられたあだ名は「フジガス」。
―― 協議中にコースを読んだり怪我をしないようにサポートしたりする“マインダー”とともに。ゴルフで言うキャディに近い存在だ。真ん中が藤波選手だが、41歳とは思えない若々しさとエネルギー!
チャンピオン争いをし続けてきた相手は、1997年~2003年の7年連続チャンピオンであるドギー・ランプキン選手、2007年~2020年で14連覇という前人未到の偉業を続けているトニー・ボウ選手、そしてその最大のライバルと言われるアダム・ラガ選手ら。MotoGPで言うなら、バレンティーノ・ロッシ選手とマルク・マルケス選手に挟まれながら王座をもぎ取ったようなものかもしれない。
そんな破格の日本人ライダーとして知られる藤波選手だが、最後に勝利したのは2016年7月のフランス・ルルド大会で、さすがに優勝からは遠ざかっている……と思われていたはずだった。
しかしこの日(2016年6月13日)、イタリアのトルメッゾは天候もよく、気温も上昇傾向。セクションは前日よりもテクニカルさが増していて、試合は波乱含みとなった。そんな中、Repsol Honda Teamの藤波選手は1日を通じてしり上がりに調子を上げていき、2ラップ目にはたったの減点4という、圧倒的な好スコアをマークして勝利をもぎ取ったのだ。
当然のごとく2位には、チームメイトでありランキングリーダーでもあるトニー・ボウ選手が入ったが、そのボウ選手に対して8点差という勝利は、勝った藤波選手本人ですら「予想外」と漏らすほどの圧勝劇だった。
ちなみに、トライアル世界選手権は通常、土日の2日間にわたって競技が行われ、各日それぞれに勝利者を決める2レース制。初日にはトニー・ボウ選手が負傷手術からの復活大会で劇的な勝利を飾っている。
藤波選手はこの勝利でランキング3位に浮上。ランキングトップのボウ選手とは8ポイント差につけている。世界選手権第2戦は、2021年7月4日、フランスのシャレードで開催される。こちらは日曜日のみに開催される1日制となる。
―― レプソルホンダチームの藤波選手は、4ストロークのマシンを駆る。
―― トニー・ボウ選手は藤波選手の最強のチームメイト。
#7 藤波貴久選手[Repsol Honda Team]のコメント
「土曜日は楽しく走ることができました。ライディングはよかったと思います。ここ数カ月、トレーニングに精を出していて、その成果はきっちり出ていたと思います。しかし結果は出ませんでした。土曜日の7位という結果は予想外でしたが、5位とは僅差で、改善の余地は多いにあると思っていました。しかしもっと大きな予想外は、今日、勝つことができたことです。もちろん勝利を目指して戦ってはいますが、具体的目標とは言えなかったと思います。それだけに、この勝利はすばらしい成果でした。41歳になって、チームメートのボウもチームも、おそらく私の勝利を期待してはいなかったと思います。自分自身、そうでした。こんな予想外を達成できて、ほんとうにすばらしい1日になりました。今日は、2004年、24歳の時の自分に返ったような気がしました。いつも私のトライアルを支えてくれるみんなに大感謝です。この勝利は、そんな皆さんへの贈り物になりました!」
―― #7 藤波貴久選手[Repsol Honda Team]
#1 トニー・ボウ選手[Repsol Honda Team]のコメント
「今日は、まずチームメートの藤波に、心からおめでとうと言いたいです。41歳という年齢が信じられない、今日の藤波のパフォーマンスは、本当にすばらしかったです。藤波はいつも努力をしているし、チームとの仕事も本当によくやっています。私自身のトライアルについては、この2日間全体として、満足いくものでした。実は今日の第6セクションではラインをまちがってしまい、足を少し負傷してしまいました。しかしそれでも、よい結果が得られたと思います。ダメージが最小限で、次なる世界選手権第2戦までに回復することを願っています」
Miquel Cireraチームマネージャー[Repsol Honda Team]のコメント
「2021年の世界選手権の開幕戦にして、表彰台の1位2位を占める成績をおさめることができて、本当にすばらしい日になりました。今日の藤波の2ラップ目は、ほぼ完ぺきでした。彼のチーム、マインダーとメカニックの活躍に、心からおめでとうと言いたいです。皆、いい仕事をしてくれました。年々、強さを増してくるライバルを尻目に、41歳の藤波がこの日に成し遂げた偉業は、我々にとっても驚異的でした。おめでとうございます。
そしてまた、この日2位に入ったトニー・ボウにも、最大限の祝福を贈らなければいけません。この日のこの結果は、事前に予測できたことだったと思います。次の戦いまでに、3週間あります。ボウが回復して、完ぺきな状況でフランスの大会に戻るために、これは十分なインターバルです。チームドクターのホアキム・テリカブラス先生と理学療法士のオリオル・ネボット先生には、改めて感謝です。ありがとうございます。ではまた、フランスでお会いしましょう」
トライアル競技とは?
数々の障害が設定されたコースを、バイクに乗ったまま走り抜ける競技。体力、テクニック、精神力とすべてが高次元で求められる。トライアル世界選手権の競技は、複数のセクションからなるコースを2周して、各セクションごとに減点方式で採点される。足を着いたら1回につき1点、落車や完全静止、バックなどをすると5点減点され、そのセクションは失格になる。コースを2周して、最後にいちばん減点が少なかったライダーが勝者だ。これを2日間で2レース行う場合と、1日の1レースのみの場合がある。
トライアル世界選手権のほか、クラスや場所によってルールは微妙に異なり、静止やバックがOKだったりすることも。
トライアルライダーの凄さについては、原田哲也さんが日本GPを観戦したときの記事があるので関連記事よりご参照ください。
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