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優しさを捨て、戦う意志を見せたノリス。宿敵出現で追い込まれたフェルスタッペン【中野信治のF1分析/第11戦】

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優しさを捨て、戦う意志を見せたノリス。宿敵出現で追い込まれたフェルスタッペン【中野信治のF1分析/第11戦】

 オーストリア・シュタイアーマルク州シュピールベルクに位置するレッドブルリンクを舞台に行われた2024年第11戦オーストリアGPでは、首位争いを展開していたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とランド・ノリス(マクラーレン)の接触に伴い、ジョージ・ラッセル(メルセデス)2年ぶりの勝利を飾りました。

 今回はフェルスタッペンとノリスの戦い、そして接触について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

フェルスタッペンの動き方に不満を述べたノリス。レッドブルのマルコは「無線での振る舞いは情けない」と一蹴

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 メルセデスのラッセルが2年ぶりの勝利を飾ったオーストリアGPではありますが、グランプリの主役は間違いなくフェルスタッペンとノリスだったと思います。

 まず、今回のレッドブルとマクラーレンのそれぞれのマシンの特性ですが、前戦スペインGPから変わらずでした。マクラーレンのマシンはステアリングの舵角が少なく、よく曲がっている。対するレッドブルはリヤがどっしりとグリップしていますが、依然としてステアリングの舵角が多く、ステアリングを切っていかないと(舵角を多くしないと)フロントが曲がっていかないというクルマです。

 そのため、Rの小さな低速コーナーではマクラーレンに分がある一方、ターン7やターン9といった高速コーナーでは両者はほぼ互角だったと思います。ただ、高速コーナーにおいてレッドブルの2台のデータを比較すると、フェルスタッペンに対しチームメイトのセルジオ・ペレス(レッドブル)がぜんぜん(アクセルを)踏めていませんでした。

 そういうデータを見ると、必ずしも“高速コーナーでレッドブルが速い”とは言い切れず、またもフェルスタッペンがマシンのポテンシャル以上のタイムを出す技を見せたのかもしれないと思います。一方、クルマなりの速さを見せたのがノリスでした。

 クルマなりに走ればタイムが出るというマクラーレンのマシンはセットアップが決まっていましたね。ノリスとオスカー・ピアストリ(マクラーレン)の比較を見ると、ふたりには大きなはありませんでした。ただ、ふたつほどのコーナーで経験の差が出たのか、ピアストリは予選でまとめきることは叶わず、一旦は3番手。さらにはトラックリミット違反で7番手に後退とはなりましたが、その小さな差がなければマクラーレンの2台はほぼ互角だったと思います。

 それゆえに、レッドブルのフェルスタッペンとペレスの差が気になるところです。レッドブル内でも大きな差が出ているからこそ、レッドブルとマクラーレンの直接の比較が難しくなっています。レッドブル&フェルスタッペンの速さがマシンによるものなのか、それともドライバーによるものなのかは現状ではわかりません。それゆえに、もしかしたらすでにマクラーレンのマシンはレッドブルのマシンのポテンシャルを上回っているかもしれません。ただ、この部分は今後に向けた疑問として残る部分となりました。

 そうして迎えた決勝。前戦のスペインGPではポールポジションを獲得しながらも、フェルスタッペンと戦略をずらして2位に終わったノリスでしたが、今回のオーストリアGPでは2番グリッドからスタートを迎え、ポールスタートのフェルスタッペンの戦略に合わせてきました。前戦終了後のマクラーレン首脳陣は戦略の失敗について特に認めていませんでしたが、結果的に戦略をずらしたことが失敗だったと私は考えています。

 そのため、前戦の失敗を反省した結果、ノリスはフェルスタッペンの戦略に合わせてきたのだと思います。その結果、2度目のピットでフェルスタッペンの左リヤタイヤの交換が遅れ、さらにはアウトラップのターン4でフェルスタッペンがあわやコースアウトかというミスもあり、2台のギャップは2度目のピットストップ前の7.5秒から1.6秒に詰まる結果となり、マクラーレンとノリスは大きなチャンスを得ることになりました。

 また、第2スティントでのギャップをノリスが7.5秒にまで抑えていたことも重要です。フェルスタッペンとノリスはともにミディアム→ハード→ミディアムという戦略で、第1スティントの新品ミディアム装着時はフェルスタッペンに軍配がありました。

 ただ、第2スティントでユーズドのハードタイヤを履いて徐々にギャップを縮めたノリスに対し、新品のハードタイヤを履いたフェルスタッペンのペースが上がりませんでした。これがマシン特性に起因する部分なのかは疑問です。

 第2スティントでのフェルスタッペンのペースダウン、そして2度目のピットの際のタイムロス、アウトラップのミスにより、1.6秒までギャップが縮まり。さらには第3スティントで、フェルスタッペンはユーズドのミディアム、決勝に向けてミディアムタイヤを2セット残していたノリスは新品のミディアムを履いたことも、ノリスの2勝目獲得に向けた大きな後押しになるはずだったと思います。

 ギャップの縮まった2台は激しい攻防戦を展開し、そうして迎えた64周目のターン3(右コーナー)でイン側のフェルスタッペン、アウト側のノリスが接触という結末に至りました。64周目の接触の前に、ノリスはターン3で何度もフェルスタッペンに揺さぶりをかけていましたが、その際はずっとインからフェルスタッペンの内側に飛び込もうかという動きでした。

 ただ、64周目はそれまでの周回よりも2台のギャップが縮まっており、フェルスタッペンにとってはこの周回で抜かれてしまう可能性が大きかった。それゆえにイン側に来るであろうノリスを抑え込む動きを取るのは予測されました。そこでノリスはフェルスタッペンの裏をかいてアウト側に飛び込みましたが、そこで接触が起きてしまいました。

 フェルスタッペンが左(アウト側)に寄せたという見方もできますが、難しいのはターン3というコーナーが、緩やかな左コーナーのターン2を抜けて、ステアリングを左に切った状況でターンイン迎えるコーナーということです。ターン3にインから来るだろうノリスを抑えたいフェルスタッペンは、サイドミラーで右サイド(イン)を見るもノリスはいない。その直後に左サイドミラーを見て、ノリスがアウト側から仕掛けていることを理解すると、フェルスタッペンはステアリングを一瞬左に切りました。

 その一瞬ステアリングを左に切ったあとはステアリングはまっすぐになります。ただ、緩やかに左に曲がっているコース特性もあり、進行方向はノリスのいる左側に寄っているのです。その動きに対し、ノリスも反応する時間はあったと思います。ただ、映像を確認する限り、ノリスはアウト側の縁石に対し余裕のあるポジション取りでした。つまり、ノリスは本気で避けようとすれば避けることができたのではないかと私は感じています。

 ただ、ノリスはあえて完全に避けることなく、そのままターン3を迎えました。これはノリスの“絶対に引かない”という意思の現れに感じました。戦う意志を見せたことが、接触に繋がってしまったというかたちです。なぜ、ノリスがここで戦う意志を見せたのか。それは前戦のスペインのスタートで、ジョージ・ラッセル(メルセデス)とフェルスタッペンに1コーナーの進入でポジションを譲ってしまったことも起因していると思います。

 前回のコラムで「あの場面ではノリスの優しさと言いますか、そういう一面が少し出ていたのかなと感じます」とお伝えしました。また、オーストリアGPのスプリントでも、ノリスは一旦はかわしたフェルスタッペンにオーバーテイクを許してしまうシーンがありました。あのシーンもポジションを“譲ってしまっている”のですよね。前戦のスタート、そして今回のスプリントと、易々とポジションを明け渡してしまう“戦いを避けている”という事実に、ノリス自身も危機感を抱いていたのかと思います。

 ある意味クレバーな戦いを見せるノリスですが、直接対決を避けたままではチャンピオンシップを手にすることはできません。それゆえに、オーストリアGPの決勝では真っ向勝負を挑み、戦う姿勢を見せたのだと思います。私はこの戦いを見て、ようやくフェルスタッペンとノリスの本当の戦いが始まったと感じています。

 2022年シーズン以降フェルスタッペン&レッドブルと互角に戦えるライバルは不在だったと思います。ただ、今回の戦い、フェルスタッペンに対するプレッシャーを与えた様子を見るに、マクラーレンとノリスという存在が互角に戦えるライバルにまで上がってきた、ここまでフェルスタッペンを追い込めるところまで来たのだなという印象を抱いたのが、今回のオーストリアGPでした。

 さて、シルバーストンで開催される次戦イギリスGPは、マシン的にはマクラーレンが合っているとは思いますが、フェルスタッペンもタイムを引き出す技を持っているドライバーですので、両者の戦いは依然として続きそうですね。また、オーストリアGPのウイナーであり、イギリス人ふたりを要するメルセデスも、いつも以上のポテンシャルを出してくるような予感もあり、ふたたび目が離せない週末となりそうです。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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