1月23~26日にモナコおよびフランスで行われた2025年WRC世界ラリー選手権第1戦『ラリー・モンテカルロ』にて、TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム(TGR-WRT)の勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)は、デイ4のスペシャルステージ16でアイスバーンによってコントロールを失ったことでコースアウトを喫し、その後スタックしてしまったことでリタイアとなった。
ラリー後に日本のメディア向けに開かれたオンライン取材会にて勝田は、「すごく悔しい終わり方」をしてしまったと気持ちを明かしながら、SS16のアタック中の状況や、カギとなったこの日のタイヤ選択の詳細を振り返った。
オジエ、ラリー・モンテカルロ通算10勝の快挙。最終日は勝田含む3台が完走ならず【WRC第1戦レポート】
■チーム代表に「タイヤ選択のことは申し訳ない」と告げられたSS16
迎えた2025年は、ハイブリッドシステムが非搭載になるといった技術規則の変更や、コントロールタイヤがピレリからハンコックに変わるなど、マシンフィーリングに影響が及びやすいシーズンとなっている。
そういった状況の中、勝田は木曜日のシェイクダウンから土曜日のデイ3にかけて、まだ経験の少ない新たなラリー1マシンのセッティングや、自身のドライビングを調整していくことでペースを向上させ、土曜日にはステージウインも飾りながら自信を高めていった。そうして迎えた日曜日の状況を、次のように振り返る。
「日曜日は、自分の競争力がある程度あるという手応えもあったので、『ペースを発揮しながらポイントを取っていきたい』というアプローチで挑みました」
「朝1本目のステージはまだ暗い7時前ぐらいに行われました。路面は、前日に降った雨が残る状態で、所々でそれがアイスバーンや霜になっている非常に難しいコンディションでした」
「最終日のタイヤ選択について僕たちは、そのあとのステージで氷が解けたなかで高いパフォーマンスを発揮するために、スリックタイヤ4本とスタッドタイヤ2本を選んでいました。なので朝の1本目のステージは、スリックとスタッドのクロス配置(異なるスペックのタイヤを前後左右で互い違いに装着)で走りました」
「ステージ前半のフィーリングは悪くなかったのですが、長い右のロングコーナーのところで、スタッドタイヤで削れた氷のような状態が一瞬見えて、『ちょっとやばいな』と思って早めに減速しました。そこにはペースノート上に(情報が)なかったアイスができていて、(その路面では)スリックタイヤもあまりグリップせず、そのままコースオフして外側の草むらのところにグサッと刺さったような形で止まってしまいました」
勝田は観客の助けを借りて一度は脱出を試みたというが、それでもコースに復帰することはできなかった。
こうしてスタックしたマシンから降り、チームのヤリ-マティ・ラトバラ代表と連絡を取った際には、「タイヤ選択のことは申し訳ない。スタッドタイヤは4本で行かせるべきだった」と告げられたという。ただ、ここでスリックが多めのタイヤ選択となっていたのには、あとで追い上げるという算段のほかにも別の事情があったようだ。
■サービスパークを出る瞬間まで悩んだ選択
WRCでは、各デイの始まりやミッドデイサービスなどを経る度に、その都度使用するタイヤを選択するのが基本の流れとなる。そして、日曜日の1本目はまだ日が昇り切る前のランだったこともあり、それにつれてタイヤ選択の期限となるサービスパークからステージへ出発する時間も早まっていた。
このとき勝田は、事前にステージの状況を伝えてくれるチームの部隊である『グラベルクルー』(別名:ルートノートクルー)から送られてきた写真等をもとに、スリック4本/スタッド2本という選択をしたが、総合優勝を掴んだセバスチャン・オジエや2位のエルフィン・エバンスらは、スリック2本/スタッド4本という異なる組み合わせでステージに向かっていた。この違いが生まれた背景について、当日の状況を振り返る。
「最終日のタイヤ選択の瞬間というところでは、僕たちは出走順が前の方なのでチームメイトたちより先に出ていく状況で、最初はチームとしてもスリック4本とスタッド2本でいくような状況で考えていました」
「ですが、時間帯が5時半ぐらいのタイミングだったこともあって想像以上に気温や路面温度が低く、スリック4本で行くことに対するリスクの大きさを懸念するような話も出ました」
「ただ、そのときは僕たちはもう出発する1~2分前とかで。ちょうどセブ(セバスチャン・オジエ)たちがやっぱりスタッド4本にすると決めたであろうタイミングには、もう出発する直前でした」
「それでも僕的には、グラベルクルーからも『そこまでアイスバーンにはなってない』という話も聞いていたので、その後のステージを見越してスリックメインで行きたいというふうに思ってはいたのですが、セブとエバンスがスタッド4本に変えたということは知らないまま出発したような状況でした」
スタート順が5番目だった勝田と、9、10番目だったエバンスとオジエ。この違いが影響してサービスアウトのタイミングは勝田の方が早く、その数分の差によって僚友と運命が分かれた。さらに土曜日までは、『アイスバーンと思って走ってみたら溶けていた』といったような、まさしく反対の状況も起きていたとのことで、最終日のタイヤ選択はもはやデータのみで図れるような話ではなかったのかもしれない。
また勝田は、「(スリック4本の)リスクは大きかったですが、間違っていたとは思っていないです。それでも、ちゃんとコースのインフォメーションがあったうえでリスクをマネジメントしながら走り切れていれば、その後にしっかりと取り返せた」のではないかと語り、課題はタイヤ選択のみならずグラベルクルーとの連携にもあるとした。
続く第2戦は、2月13~16日に行われる『ラリー・スウェーデン』だ。こちらは勝田が得意としているラリーでもあり、ちょうど一年前の同大会では総合優勝を争う激しい戦いを演じたことも記憶に新しい。ただ、シーズン唯一のスノーラリーとなるために路面状況への対応が重要な要素となることも間違いない。勝田は開幕戦モンテカルロで見えた課題に答えを見出し、マニュファクチャラー登録の選手としてチームに貢献する戦いができるだろうか。
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