Team KAGAYAMA(チームカガヤマ)からの正式発表があったのは12月22日。全日本ロードレース選手権JSB1000クラスと鈴鹿8耐に、DUCATI Team KAGAYAMAとしてドゥカティ パニガーレV4 Rのファクトリーマシンを走らせることを明かした。ライダーは水野涼、監督は加賀山就臣氏が務めるという内容だった。
2月15日には東京都港区の駐日イタリア大使館で体制発表会を開催。ライブ配信で意気込みを話して、マシンをお披露目したのち、メディアへの囲み取材でこの体制に至った経緯を説明した。さらに、全日本ロードが盛り上がるための考えも語った。
DUCATI Team KAGAYAMAがイタリア大使館で体制発表。ファクトリー仕様のパニガーレV4 Rをアンベイル
選手と監督を務めてきた2023年までの33年間をスズキ一筋で過ごしてきた加賀山が2024年からイタリアのドゥカティ社とタッグを組んだワケとは。
■スズキからドゥカティへ
2022年7月13日にスズキ株式会社より正式にMotoGPとFIM世界耐久選手権(EWC)へのワークス参戦を2022年シーズンをもって終了することが発表された。スズキはこれまでにもレースの参戦休止をしたことがあったが、今回ばかりは状況が異なることを加賀山は感じていた。
「少し言いづらいけど、スズキのモータースポーツ部が2年前に『なし』になった。そこに33年いたから、それがどれだけ重大なことかがわかった。過去にレースを休止したことは何度もあったけれど、それは開発グループが残った状態での話だったから何とも思わなかった。今回はそのグループ全体が解散、全てがなくなったわけ」と、今になってはこの時から状況を変えなければならないと加賀山は感じていた。
「近い将来にモータースポーツ部が復活しないことがわかったので、次を探していたのは確か。“なぜならば勝ちたいから”。勝つためにはモータースポーツの車両を出さないメーカーではキツくなって、1~2年後には確実に取り残されていくだろうから。そこでやっぱり加賀山就臣としてほかの人がやれないことを探した」
■加賀山就臣にしかできないこと
海外レースの参戦歴も長く、国内レースでの活躍とその話題性が多い加賀山。スーパーバイク世界選手権(WorldSBK)に参戦していた時代にトロイ・ベイリスに憧れて、ドゥカティのチームに遊びに行っていたという。その当時のドゥカティの監督・コーディネーターだったパオロ・チャバッティとの関係が今回につながった。
「自分にしかできないと思ったから。(現ドゥカティ・コルセの)パオロ・チャバッティやジジ(ルイジ・ダリーニャ)たちがいまだに仲間だった。ダメ元で、『こんなことしたいんだ。鈴鹿8耐で勝ちたい、全日本で勝ちたい。ドゥカティが日本のホンダ、ヤマハの目の前で勝つことが世界に発信する情報になるんじゃないか』と企画書を送った。それが2023年の夏前くらいかな」
「『面白い』といって、すぐに受け取ってくれたのも、やっぱりワールドスーパーバイク時代に仲良くしていたおかげもあるし、ボスがみんなもてぎ(MotoGP日本GP)に連れていくからミーティングをしようと言ってくれた。その間、2カ月ぐらいは音信不通だったので、半分ダメだと思っていたし、ダメでもキット車を買って戦おうとしていた。1~2年目は自分の力で頑張って、3~4年目に認めてもらってファクトリーパーツが入ればいいなと思っていたのが本心」
「日本GPで、ドゥカティの上層部とミーティングをして、それで逆に向こうから、自分が日本でやってきた活動、例えば鈴鹿8耐でケビン(・シュワンツ)を呼んだり、Moto2ライダーを呼んだり、パレードやイベントをしたり、ハヤブサ会をしたり、自分でレースもう一回クラシックレースをやったり、というのを全部調べ上げられていた。彼らも本気で俺のことを調べてくれた。それがすごく嬉しかった」
■ファクトリーマシン使用の提案はドゥカティ側から
「やってきたイベントを全部考えたら、今回の計画も結構面白いと思うって。“どうせやるなら勝ちに行け”って。その意味が最初わからなくて、『それはそうだよ勝ちたい』と思ったけど。『今年の我々のチャンピオンマシンを使え』って言われた。何を言っているのかと思った、全然理解できなかった」
「みんなには伝わらないかもしれないけど、30年間以上この業界にいると、ファクトリー車を外に出すことがどれだけ大変なことかを知っている。しかも(イタリアからすると)目の届かない海外。しかも、今までチームとして付き合ったこともない1年目のチームカガヤマ。だけど彼らは『お前だったら出す』って言ってくれた」
「その場で理解したときには『喜んで』と言った。やっぱり1年目だから、サテライトチームの扱いで、予算も自分で集めないといけない、転倒パーツ、必要パーツは全部自分持ちなので、大変だけどそんなの関係ないと。いくらかかろうと、これを受けなかったら男じゃないと思った。日本GPの10月から、数週間で運営を確実にするために予算集めを進めて、50%ぐらいまでいけたから、“絶対いける”と自分の中で覚悟した」
「1年目のチームに預けてくれるという決断をしてくれたドゥカティには本当に感謝しかない。だからこそ、覚悟を決めて日本の4メーカーに真っ向から勝負します」
■国内4メーカーのワークス復活の足掛かりに
もちろん自チームの活躍だけでなく、全日本ロードが再び盛り上がること、日本メーカーによるワークス体制復活のきっかけになる可能性があることも考えていた。
「我々の力を発揮すれば、多分日本のメーカーよりも上に行くと思う。日本メーカーは国内レースでワークスマシンを出さないから。(ドゥカティが)獲った後は、日本メーカーも頑張らないとダメだと思ってもらって、4メーカーが本気でもう1回、国内のレースも戦ってほしいし、盛り上げてほしい」
「カワサキにだってヨーロッパのWorldSBKで走らせているファクトリー車があるから持ってくればいい。ホンダも埼玉に置いてある鈴鹿8耐で勝ったマシンを出せばいい。なんで出さないの、イタリアに獲られるよというのを現実にしたいというのが想いかな。メーカーが帰ってくれば必ず日本のレースが盛り上がるはずなので、そうすると、またファンがいっぱい振り向いてくれると思う」
■体制発表の場所は『イタリア大使館』。2輪モータースポーツも野球やサッカーと同じようになるのが夢
この体制発表会は駐日イタリア大使館で開催された。海外での活動も長かった加賀山は、ヨーロッパにおける2輪レースと日本における2輪レースの立ち位置が違うことを感じていた。
加賀山が理事長を務める一般社団法人MRS(モトライダースサポート)によるモトライダースフェスタも昨年で2度目の開催となった。この活動ではバイクにおけるマナー悪化や取り巻く環境の解決、バイクを楽しむ機会を作ろうとしている。バイクやレースの素晴らしさを加賀山は、多方面で表現している。
「今は日本の2輪レースの知名度、ポジション的にも認知されてないことをすごく感じる。日本の公的機関ではこんなことは絶対やれないと思う。イタリア大使だったり、ヨーロッパの公的機関は快く受け入れてくれる。(ヨーロッパでは)2輪の認知度が全く違うし、ポジションや地位が日本とは違い、歓迎してくれて、大使が喜んでくれることを日本のみなさんに伝えたい」
「モータースポーツは本来ここにいる、公的機関を喜んで貸してくれるという文化の違いを伝えたい。そこに日本の2輪レースを持ち上げていきたい。イタリア大使館でやれたことを伝えたいし、いろんな公的機関でモータースポーツの会見をしていいんだという社会的地位を上げていきたい。野球やサッカーと同じようになるのが夢」
「ドゥカティユーザーが応援し甲斐のあるネタを作ち続けたら、必ず応援しに来てくれると信じている」
加賀山がイタリア大使館に希望を伝え、ドゥカティジャパンなどのフォローがありこの体制発表会が実現したことも大きな要素だ。ただ自分のチームでレースに勝ちたいだけでなく、レース業界やメーカー、バイク業界、そして公的機関にまで目を向けて、もう一度全日本ロードを盛り上げたいという加賀山の活動に賛同せざるを得ない。
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みんなのコメント
加賀山さんの凄さももちろんあるんだろうけど、実情を読めば読むほどメーカーの凄さも感じる。
高くて買えないから乗って応援って訳にもいかないが応援したいね。