話題の新車や最新技術を体験&試乗する『オートスポーツWEB的、実践インプレッション』企画。お届けするのは、クルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。
第6回は、8年ぶりにフルモデルチェンジを実施した欧州ミッドサイズ・スポーツセダン、ボルボS60を取り上げます。
3世代目となる新型S60は、落ち着いた佇まい、そしてシンプル&質感の高さが秀でるボルボお馴染みのスカンジナビアデザインのインテリアを継承した、王道路線のスポーツセダンです。
ボルボのミドルセダン『S60』が8年ぶりフルモデルチェンジ。ポールスターを冠した特別限定車も登場
今回は日本デビュー時に登場した限定30台の特別仕様車『S60 T8ポールスターエンジニアード』をクローズアップ! すでに完売していますが、今後のボルボ、そしてポールスターの未来を示す大事な1台です。
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■新章の幕開け。約2年ぶりのボルボ+ポールスターのコンプリートカーが 登場
ポールスターといえば、以前はボルボのワークスチームとして各国ツーリングカー選手権で活躍し、ボルボの高性能車ブランドとしても名を馳せた。
そんなポールスターは2017年6月、ボルボも含めた吉利汽車(ジーリー)傘下で、独立した電動車ブランドというポジションが与えられた。
その第1号車となる『ポールスター1』は純粋な電気自動車(EV)ではなく、プラグインハイブリッド車(PHEV)だが、電動車の一種であることは間違いない。
2017年秋に最初のプロトタイプが公開されたポールスター1は、2019年末に量産型が登場。新型コロナ感染拡大の影響で不透明なところもあるが、現時点では2020年中にデリバリーが開始され、約3年間で1500台がつくられる予定だという。
その一方で、かつて人気を博したポールスター名義のボルボコンプリートカーは、2017年10月に国内発売されたS60ポールスター/V60ポールスターを最後に姿を消していた。
というわけで、今回のS60 T8ポールスターエンジニアードは、約2年ぶりとなるボルボ+ポールスターのコンプリートカーである。
ただ、今回から“ポールスターエンジニアード”という少しもったいぶった表現になったのは、ポールスターがボルボの一部門だった以前とは違って、あくまで独立した自動車メーカーと主張するためかもしれない(まあ、実際の技術内容や各部の仕立ては、ほぼボルボだが)。
今回の取材車は、2019年11月に国内発売された初回限定車で、その時は限定30台が2日間で完売した。ただし、2020年夏にV60とXC60を加えて、3種類のポールスターエンジニアードが発売される予定とのこと。
いまポールスターを名乗るのだから、このクルマも当然ながら電動車だ。ボルボに詳しい人なら、車名の『T8』という文字から想像できるように、そのパワートレインは、ボルボが現在“ツインエンジン”と呼んで各車に搭載しているものと共通である。
つまりPHEV。ただし、そこはポールスター、ほかのT8よりはエンジンが性能アップしている。
■ボルボが追求したPHEV化の独特な味わいが、新しい魅力に繋がる
このポールスターエンジニアードを含めたボルボのPHEVはFF車をベースとする。2リッター4気筒ダブル過給(ターボ&スーパーチャージャー)エンジンに8速ATとアシストモーターを組み合わせて前輪を駆動する。
同時にリヤに後輪専用モーターを搭載して、必要に応じて駆動や回生を行なう。室内の立派なセンターコンソールには350V・34Ahのリチウムイオン電池が内蔵されており、外部充電(=プラグイン)も可能。
エンジン停止時はリヤモーターのみの後輪駆動となる。ちなみに、冒頭のポールスター1もボルボのツインエンジンがベースだが、リヤモーターが左右1個ずつの2モーターとなっている。
それはともかく、このクルマのパワートレインには、走行モードがいくつか用意されている。
低燃費≒通常モードといえる“ハイブリッド”だと、低負荷時はモーターのみで走り、負荷がかかってエンジン始動するとモーターアシスト付きFFへと切り替わり、減速時は前後のモーターで回生(=運動エネルギーを電気として蓄える)といった具合に、エネルギーの流れを変えながら走る。
逆に、もっともスポーティなモードの“ポールスターエンジニアード”を選ぶと、走行中はエンジンがずっと回り続けて、リヤモーターも常時稼働するフルタイム4WDになる。しかも、エンジン音も明らかに攻撃的になる。
このクルマにも搭載されているエンジンは、もともとレスポンス良好なタイプだが、いくら高性能なエンジンでもアクセル操作から実際に反応する、ごくわずかな“間”は存在するのが宿命だ。
しかし、そのわずかな間を前後ふたつの電動モーターがうまく埋めてくれる『ポールスターエンジニアード』のパワートレインは、純エンジン車では味わえない右足に操作の吸いつくような加減速レスポンスを生み出している。
これは素直に気持ちいい。この価格帯の欧州スポーツモデルとなると、電子制御の連続可変ダンパーを備えるケースも多いが、このクルマはオーリンズ社製のマニュアル調整ダンパーを使う。
よって乗り心地は、いかにも体育会系に引き締まったものとなるが、アシそのものの動きはスムーズ。
加速側だけでなく減速側も鋭くレスポンスするパワートレインのおかげもあって、積極的なアクセル操作による荷重移動をからめたコーナリングを心がけると、とても活きいきと走る。
パワートレインはシステム出力で420psに達するが、少なくとも乾いた舗装路では破綻する兆候すら見せない。シャシーの基本フィジカル性能の高さと4WDのトルク配分のうまさには素直に感心する。
繰り返しになるが、このクルマはPHEVである。プラグインで満充電させると、純粋なEVとしての航続距離はWLTCモードで42.0kmという。昨今のPHEVとしてはEV航続距離は短めといわざるをえないが、欧州の排ガス/CO2排出規制では“プラグインである”ということが有利に働く建てつけになっている。
だから、少なくとも今後しばらくは、欧州の高性能モデルはPHEVが常識になっていくと思われる。まあ、電動ならではのレスポンスを走りの面白さにうまくつなげてくれれば、それはそれで面白いクルマはできると思う。
■ボルボ S60 T8ポールスターエンジニアード 諸元
車体全長×全幅×全高4760mm×1850mm×1435mmホイールベース2870mm車両重量2030kg乗車定員5名駆動方式AWDトランスミッション8速ATタイヤサイズ 235/40R19エンジン種類直列4気筒DOHCターボ+スーパーチャージャーエンジン総排気量1968ccエンジン最高出力245kW(333ps)/6000rpmエンジン最大トルク430Nm(43.8kgm)/4500rpmモーター型式/種類T39(前)、AD2(後)/交流同期電動機モーター最高出力34kW/2500rpm(前)、65kW/7000rpm(後)モーター最大トルク160Nm/0ー2500rpm、240Nm/0ー3000rpm(後)使用燃料/タンク容量プレミアム/60L車両本体価格919万円(2020年モデルは販売終了)
■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano
1968年生まれ。モータージャーナリストとして多数の雑誌、Webに寄稿。国産の新型車の取材現場には必ず?見かける貪欲なレポーター。大のテレビ好きで、女性アイドルとお笑い番組がお気に入り
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みんなのコメント
走りの質の高さ、安全性の信頼度、車内の美しさや快適性など、これだけバランス取れたスポーツセダンはなかなか見当たらない。
メルセデスの筆頭株主も吉利汽車なんだよね。
コピー品作らない事を祈る。