現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 効果は同じ? 違いは呼び名だけ? ではないアトキンソンサイクルとミラーサイクル トヨタはアトキンソン、マツダはミラー

ここから本文です

効果は同じ? 違いは呼び名だけ? ではないアトキンソンサイクルとミラーサイクル トヨタはアトキンソン、マツダはミラー

掲載 更新
効果は同じ? 違いは呼び名だけ? ではないアトキンソンサイクルとミラーサイクル  トヨタはアトキンソン、マツダはミラー

アトキンソンサイクルとミラーサイクル。ともに高膨張比サイクルをなすためのバルブタイミング制御による運転方法である。理論としてはまったく別の手段なのだが現実的には同じ──という昨今。何が違うのか、どこが同じなのかをあらためて考えてみる。TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 トヨタのハイブリッドシステム「THS」と、マツダの「SKYACTIV」に使われるガソリンエンジンのキー技術が「可変圧縮比(膨張比)」システムである。どちらも同じ機構なのだが、トヨタは「アトキンソンサイクル」と称し、方やマツダ(他メーカーも)は「ミラーサイクル」と呼ぶ。
 4ストロークガソリンエンジンは、吸気(下降)行程でシリンダーに取り込んだ混合気を圧縮(上昇)し、プラグ点火することで発生した熱エネルギーを膨張(下降)行程で運動エネルギーに変換することで成立する。カッコで記した行程とはすなわちピストンストロークであり、カタログに記載されているようにストローク量は各行程同じだ。しかし膨張時にピストンが下死点まで下がり切ってもまだ熱エネルギーは残っており、そこからさらにピストンを下降させることができれば、より多くの運動エネルギーが取り出せる。言葉を換えれば「熱効率が上がる」のだ。

フェラーリの主力となるV8ダウンサイジングDIT、2018年インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞

 そのことはピストンエンジンが実用化された時点で既に理解されていた。カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーが世界初のガソリン動車を作った4年前の1882年に、イギリスのジェームス・アトキンソンが、圧縮行程と膨張行程のストローク量が異なるエンジンを開発して特許を取得している。
 アトキンソンの作った可変圧縮膨張比エンジンは、昨年市販化された日産のKR20DDETと原理的に同様の機構と言って過言ではないが、百数十年前の技術ではそれを自動車用エンジンとして実用化するのは困難で、早くも忘れられた存在になっていた。



 クランクシャフトとコンロッドを複数のリンクと組み合わせるアトキンソン・サイクルは、高度に洗練された機械技術がないと成立しないが、同様の効果を吸排気のタイミング制御で得られることを、アメリカのラルフ・ミラーが1957年に提唱し、特許を取得した。
 丁度その頃、ポルシェとフィアットがエンジン回転数と負荷によってバルブタイミングを変えることのできるシステムの研究に着手しており、1980年代には可変バルブタイミング機構が実用化されて、市販車に投入されるようになった。それを利用してラルフ・ミラーの案を初採用したのがマツダであった。1993年のことである。
 マツダはミラーに敬意を表してか、このシステムを「ミラーサイクル」として大々的に喧伝した。

 一方、当時のトヨタは自動車用パワートレーンの近未来形をハイブリッドと定め、ガソリンエンジンと電動モーターを併用する独自のシステムを構築。そのエンジンにミラーサイクルを採用する。だが彼らはなぜかこの機構のことを「アトキンソンサイクル」と名付けてしまった。おそらくは商業的に失敗したマツダの初代ミラーサイクルと同じ扱いをされることを嫌ったのだろう。



 不思議なのはホンダの場合だ。
 ホンダは定置用エンジンとして「真性アトキンソン機構」のエンジン・EXlinkを21世紀初頭から開発に着手し、2011年にはコジェネ用として市販化している。ところが、可変バルブタイミングを使った可変圧縮膨張比エンジンにも「アトキンソン」の名を冠している。効能が同じだから、ということなのだろうが、機械的な成立要件がまるっきり異なる機構に同じ名前を付けるのはいかがなものだろう。



 ネーミングにまつわる場外乱闘はここまで。次回は「ミラーサイクル」の技術的実態を採り上げよう。

こんな記事も読まれています

「ジャパンモビリティショー2024」開催決定 新しい事業つくるビジネスイベントに
「ジャパンモビリティショー2024」開催決定 新しい事業つくるビジネスイベントに
グーネット
アウディ A4/A5シリーズに“傑作”うたう2つの特別仕様車 インテリアの質感アップ
アウディ A4/A5シリーズに“傑作”うたう2つの特別仕様車 インテリアの質感アップ
グーネット
SUBARUサンバーを快走仕様!「誰もやらないスピーカー修復」2
SUBARUサンバーを快走仕様!「誰もやらないスピーカー修復」2
グーネット
小さいことに価値があるGLAのベストバイがコレ!【メルセデス・ベンツ GLA】
小さいことに価値があるGLAのベストバイがコレ!【メルセデス・ベンツ GLA】
グーネット
昭和世代じゃなきゃ理解不可能!? マツダがこだわる[ロータリーエンジン]って何がそんなにスゴい?
昭和世代じゃなきゃ理解不可能!? マツダがこだわる[ロータリーエンジン]って何がそんなにスゴい?
ベストカーWeb
新型[コスモスポーツ]復活!! 特許庁に出願されたから市販化秒読み!? しかもリトラクタブルも続行
新型[コスモスポーツ]復活!! 特許庁に出願されたから市販化秒読み!? しかもリトラクタブルも続行
ベストカーWeb
彼女のマツダ「RX-7」は175台限定の「タイプRZ」でした! ドレスデザイナーがFD3Sを選んだ理由と愛車に巡り合ったストーリーとは
彼女のマツダ「RX-7」は175台限定の「タイプRZ」でした! ドレスデザイナーがFD3Sを選んだ理由と愛車に巡り合ったストーリーとは
Auto Messe Web
鉄人リードのル・マン連続出場途切れる。ドライバー変更のプロトン、マスタング3台目のカラーリングを公開
鉄人リードのル・マン連続出場途切れる。ドライバー変更のプロトン、マスタング3台目のカラーリングを公開
AUTOSPORT web
中国GP以降伸び悩むセルジオ・ペレス。契約更新の保留が大きなプレッシャーに
中国GP以降伸び悩むセルジオ・ペレス。契約更新の保留が大きなプレッシャーに
AUTOSPORT web
ハイブリッドでクラシックな「アメリカン」 ジープ・グランドチェロキー 4xeへ試乗 悪路性能は圧巻
ハイブリッドでクラシックな「アメリカン」 ジープ・グランドチェロキー 4xeへ試乗 悪路性能は圧巻
AUTOCAR JAPAN
人はなぜ「◯◯界のロールス・ロイス」を目指すのか? 最高であり文化の香り漂うのは「ベル・エポック」という豊かな時代に誕生したから!?
人はなぜ「◯◯界のロールス・ロイス」を目指すのか? 最高であり文化の香り漂うのは「ベル・エポック」という豊かな時代に誕生したから!?
Auto Messe Web
フォード・マスタング躍進。チャズ・モスタート&キャメロン・ウォーターズが今季初勝利/RSC第4戦
フォード・マスタング躍進。チャズ・モスタート&キャメロン・ウォーターズが今季初勝利/RSC第4戦
AUTOSPORT web
2024スーパーGT第3戦鈴鹿のGT300クラス公式予選Q1組分けが発表
2024スーパーGT第3戦鈴鹿のGT300クラス公式予選Q1組分けが発表
AUTOSPORT web
ふたつの心臓を持つ猛牛!ウルスにプラグインHVが登場【ランボルギーニ ウルスSE】
ふたつの心臓を持つ猛牛!ウルスにプラグインHVが登場【ランボルギーニ ウルスSE】
グーネット
5速MTのみ! オープントップの新型「スポーツモデル」発表! レトロデザインに「タテ型マフラー」採用した「小さな高級車」に反響あり
5速MTのみ! オープントップの新型「スポーツモデル」発表! レトロデザインに「タテ型マフラー」採用した「小さな高級車」に反響あり
くるまのニュース
フォード・マスタング 史上初「4ドア仕様」導入か 派生モデル展開を示唆、しかしEV化は否定
フォード・マスタング 史上初「4ドア仕様」導入か 派生モデル展開を示唆、しかしEV化は否定
AUTOCAR JAPAN
アンドレッティ、元FIAチーフテクニカルオフィサーのパット・シモンズを獲得。2026年に向け技術規則の知識が活きるか
アンドレッティ、元FIAチーフテクニカルオフィサーのパット・シモンズを獲得。2026年に向け技術規則の知識が活きるか
AUTOSPORT web
ブガッティの正規アイテムがネットで購入できる! アパレルからビリヤード台まで…実車は果たして購入可能!?
ブガッティの正規アイテムがネットで購入できる! アパレルからビリヤード台まで…実車は果たして購入可能!?
Auto Messe Web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村