レンジローバー・スポーツに似た横姿
AUTOCARの読者なら、ニオというブランドはご存知かもしれない。だが、英国の道路で筆者は目撃したことがまだない。洗練されたクルマづくりで欧州市場での存在感を拡大している、新興の中国メーカーだ。
【画像】ライバルはBMWやアウディ! ニオEL8 競合サイズの電動SEVはコレ 全182枚
ドイツとデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、オランダ(ネザーランド)では、既に販売が始まっている。英国で買えるようになる日も近いらしい。グレートブリテン島南部のオックスフォードに、同社は「国際R&Dセンター」を保有している。
恐らく先鋒を務めるのは、今回試乗した大型SUVのニオEL8だと考えられる。ブランドのフラッグシップモデルだ。
スタイリングはスッキリまとまっている。横姿はランドローバー・レンジローバー・スポーツに似ているかも。22インチ・アルミホイールのデザインも。ただし、アグレッシブさが薄い代わりに、強く印象に残る見た目ではない。
フロントガラス上部に飛び出ているのは、自律運転システム用のレーザーセンサー、ライダー。フロントピラーの上端にも、カメラが突き出ている。グーグル・ストリートビューの撮影車両のような雰囲気がある。
全長は5099mm、全幅が1989mm、全高が1750mmと大きく、レンジローバーより約50mm長い。グレートブリテン島の公道では、少し大きすぎるように思う。この巨体にも関わらず、空気抵抗を示すCd値は0.25と優秀といえる。
巧妙な素材と優れた品質で高級感漂う車内
アルミニウムと超強力鋼を使用したプラットフォームは、同社のサルーン、TE7や、ひと回り小さいSUV、EL7などと共有。フロア部分の駆動用バッテリーと、前後の駆動用モーターなども同じものが載る。
ドアを開くと、ミニマリスティックなインテリアが広がる。テスラのように、ダッシュボード中央の大きなタッチモニターへ、殆どの車載機能の操作系が集約されている。
内装は、巧妙な素材選択と優れた製造品質で高級感が漂う。BMWやアウディをライバルに掲げるニオだが、確かに車内からはそんな意志を感じ取れる。シートレイアウトは3列で定員は6名。2列目は広々としたセパレートシートで、特別感が演出されている。
タッチモニターは巨大だが、サイズを有効に活用できていない印象。反応自体は素早いものの、アイコンが小さく項目を選択しにくい。運転席の正面には、スピードなどを表示してくれる、小さなメーター用モニターが備わる。
インフォテインメント・システムは、音声操作へ対応。ニオ独自のアシスタント、ノーミも実装する。ダッシュボードの奥に小さなモニターがあり、表情が描き出される。筆者の言葉を上手く聞き取る場面もあったが、そうではないことも多かった。
小物入れなどは、全体的に不足気味。3列シートだから、荷室容量は265Lと狭め。3列目を折りたためば、810Lへ拡大できる。装備は充実しており、50度の温度を保てる保温庫や、マッサージ機能とヒーター内蔵のシート、アンビエントライトなどが標準だ。
過剰なほどのパワー 柔らかすぎる足まわり
それでは公道へ出てみよう。EL8はツインモーターの四輪駆動。前はAC永久磁石ユニット、後ろがAC誘導ユニットと異なる仕様で、個別に制御し電費を高める狙いがある。
システム総合の最高出力は653ps、最大トルクは86.5kg-mと、かなりのもの。車重は2558kgと重いが、0-100km/h加速を4.1秒で処理してみせる。パワーデリバリーは淡白で、ファミリーSUVとして過剰なほど力強い。
複数のドライブモードがあり、コンフォート・モード時はだいぶパワーが絞られる。実際、少し鈍く感じてしまう。スポーツ+へ切り替えると、ボッシュ社製の強力なブレーキが控えているが、不安になるほど速い。
サスペンションは、不自然なほど柔らかい。乗り心地を重視したのかもしれないが、気持ちが悪くなる人もいるだろう。まるで、海に浮かぶ小舟のよう。筆者は稀にクルマ酔いするのだが、珍しく運転中でも気持ち悪くなった。
構成自体は高度で、ツインチャンバーのエアスプリングとアダプティブダンパーが前後に組まれている。シトロエンのように、フルバンプ時の衝撃を和らげるため、油圧バンプストッパーも装備する。
ところがコンフォート・モード時は、前後左右にボディが揺れて安定しない。路面の凹凸を通過したり、カーブを旋回するだけで、フラットに戻るまで時間を要する。ステアリングホイールは軽すぎ、直進を維持するのにも気を使う。
スポーツ+モードでは若干引き締まるものの、現代の水準ではまだソフト。ステアリングは、適度に重くなるけれど。
実際の航続は480km 総合的な実力では及ばない
駆動用バッテリーの容量は、小さい方が73.5kWhで、航続距離は389km。大きい方は90.0kWhで、510kmが主張される。今回の試乗車は後者で、交通量の少ない早朝に運転して、480km近く走ることができた。
ニオは、駆動用バッテリーの交換ステーションで、充電済みユニットと交換できることを特長としている。現在の欧州では、5か国に計56か所が展開されている。ただし、バッテリーを含まない車両を購入し、バッテリーのレンタル料金を支払うことになる。
英国価格は未定。ドイツの価格を換算すると、駆動用バッテリー込みのロングレンジ・エグゼクティブでは、約9万1500ポンド(約1775万円)相当になる。
スッキリ整ったスタイリングで、上質なインテリアを包んだEL8。しかし柔らかすぎるサスペンションが、乗り心地や操縦性の足を引っ張っている。最も引き締まるスポーツ+モードでも、プレミアムSUVに期待される落ち着きや身のこなしは得られない。
航続距離は充分。動力性能は高い。しかし、欧州ブランドの同価格帯のライバルへ、総合的な実力では及ばないことは否めない。見た目はレンジローバー・スポーツに似ていても、運転体験は大きく異なる。
◯:上質なインテリア スポーツ+モード時の圧倒的パワー 航続距離
△:ソフトすぎる乗り心地 軽すぎるステアリング 高くはない実用性
ニオEL8 ロングレンジ・エグゼクティブ(欧州仕様)のスペック
英国価格:約9万1500ポンド(約1775万円/予想)
全長:5099mm
全幅:1989mm
全高:1750mm
最高速度:199km/h
0-100km/h加速:4.1秒
航続距離:487-510km
電費:4.5-4.6km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2558kg
パワートレイン:AC永久磁石モーター(前)+AC誘導モーター(後)
駆動用バッテリー:90.0kWh
急速充電能力:−kW
最高出力:653ps(システム総合)
最大トルク:86.5kg-m(システム総合)
ギアボックス:1速リダクション(四輪駆動)
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