2022年8月11日から21日の11日間、ジャカルタ近郊のBSDシティにある国際展示場でGIIAS 2022(ガイキンド・インドネシア・インターナショナル・オートショー2022)が開催されました。テーマは「The Future Is Bright」(未来は明るい)です。
新型コロナウイルスの影響で2020年は二度の延期を経て中止、2021年は事前にアプリにのみのチケット販売、時間帯別入場規制などの対策を行った上で開催、今年もワクチン接種及び入退場の記録確認アプリのインストールを義務づける対策を行い開催されました。2019年までの状況に戻るにはまだまだ時間がかかりそうです。
会場入り口までの手続きや雰囲気はコロナ禍を強く意識させるものでしたが、会場に入ってみれば皆マスクをしている以外は3年前と変わらない盛況ぶりでした。
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四輪車25、カロセリ(コーチビルダー)3、二輪車15ブランドの出展があり、会期中の来場者数は38万5487人だったと発表されています。39の新型車(内16のEV)が発表され、のべ1万人以上がEVを体験試乗したとのこと。
本編ではインドネシアのモーターショーならではのあれこれ、概況について紹介いたします。
1981年の東京モーターショーで発表されたマツダ幻のショーカー『MX-81アリア』が40年の時を経て蘇る。同車が辿った数奇な物語とは――?
オープニングセレモニーの規模が凄い!
モーターショーは通常、プレス公開日→特別招待日→一般公開と流れるのが一般的ですが、この地の場合はまず大規模なオープニングセレモニーが行われます。
セレモニーにはVVIPとして大統領、副大統領、関係する大臣から一人、VIPとして州知事、各国大使、ガイキンド会長、各メーカー社長もしくは拠点長らが招待されています。
セレモニーは、国歌斉唱、イスラム教の祈り、インドネシア民族舞踊(現代風アレンジ)、VIPと VVIPのスピーチと進み、最後は全員でスタートのスイッチを押し開会が宣言されます。
VIPであるガイキンド(インドネシア自動車工業会)のヨハネス・ナンゴイ会長は、「車両の輸出が年々増加しており、今年は1月から7月までに24万2201台を輸出した。昨年同期比で45.8%増加であり、インドネシア製部品の比率も3割~8割と高い」
また、「ガイキンドのメンバーが製造した車両はユーロ4適合。持続可能なエネルギーへの移行とEVエコシステムの開発について政府に全面的に協力して進めていく。GIIAS 2022においても、多数のEVが出展され、その体験試乗もできる」と、述べました。
政府は輸出に力を入れているので数字にはかなり拘っていると聞きます。輸入モデルが増えてくると「輸出もしなさい」と圧力をかけたり輸入枠を与えなかったりするらしいので、ガイキンドとしてもこの部分はきっちり数字をアピールしたかったのでしょう。
今回はジョコ・ウィドド大統領のスケジュールが合わなかったため、VVIPとしてエルランガ・ハルタルト経済調整大臣が出席。「前回よりも多くのEVや電動車が出展されている。政府としては電動車に対して税制面で優遇措置を取っている。これにより電動車がこれまでのエンジン車と同等の競争力が持てるようになることを期待している。インフラ面では、PLN(国営電力会社)に対して『充電ステーションの整備を積極的に進めるように』お願いしている」と、述べました。
VIPツアーが終らなければショーが始まらない
開会宣言が終るとVIPツアーが会場を回ります。
記者達もほぼ全員ついて歩き、ブースごとにコメントを取ろうとするので毎回大混乱。大臣だとまだセキュリティが緩めなのでこのような感じですが、大統領だとセキュリティレベルも格段に上がるし、パーソナルスペースも大きめに取られるので、時にSPに弾き飛ばされながらの囲み取材はかなり大変です。
ブースではスクリーンにウェルカムメッセージを表示し、コンパニオンが整列して出迎え準備をします。日系メーカーではダイハツが日本大使館の代表として臨席した田村政美次席公使(在インドネシア日本国大使館のナンバー2)用のウェルカムメッセージを表示していました。
どのブースにどのくらい滞在し、どのクルマを見、質問するのかしないのか?が記者の注目点であり、どれだけ滞在時間を延ばせるのかがブース責任者のウデの見せどころです。
VIPツアーが終わるとようやく各社のプレスカンファレンスが始まります。
ショーのメインはやはりEV
ショーの雰囲気はぱっと見は3年前と変わりませんが、内容は大きく変わりました。それは”中韓勢の躍進”とそれに伴う”EV旋風”です。11月にバリ島で開催されるG20のオフィシャルカーの座をヒュンダイ(注:記事の末尾を参照)が取り、フルラインEVを提供することもあり相当な気合いです。
中国4社(ウーリン、DFSK、MG、チェリー)、韓国2社(ヒュンダイ、キア)全てがEVを前面に展示していました。日系はダイハツ、三菱、トヨタ/レクサス、日産、三菱ふそう(試乗用eCANTER)、いすゞ、日野が、欧州勢はポルシェとBMWがEVを持ち込んでいました。
会場内には屋内EV試乗会場もあり、誰でも「イッキ乗り」できました。四輪車11ブランド、二輪車4ブランドが車両を提供していたので、ウーリン・Air ev、eCanter、ポルシェ・タイカンを同じトラックで試乗でき、とても貴重な機会でした。
タイカンの加速力にシビれる試乗者の姿がおもしろかった。せっかくなので主なEVの2022年1月~8月の販売状況を調べてみました。
ウーリン”Air ev”スタンダードレンジ
173台
同 ロングレンジ
648台
ヒュンダイ”IONIC5”スタンダードレンジ
154台
同 エクステンデッドレンジ
532台
日産”リーフ”
31台
トヨタ”C+pod”
12台
レクサス”UX300e”
8台
DFSK”グロラE”
5台
計
1,647台
同時期の全販売台数が658,232台だったのでEV比率は0.25%だったことになります。思ったより多い印象です。このムードがどこまで続くのかに注目です。
日系は全メーカーが出展
現地生産をしているスズキ、ダイハツ、三菱、トヨタ、ホンダ、当初から輸入車のレクサス、スバル、マツダ、メーカーが撤退したため輸入車になった(三菱“エクスパンダー”のOEM車である“リフィナ”は例外)日産、つまり日本の全メーカーが出展していました。
中韓勢のEV攻勢を迎え撃つ日本勢代表としてダイハツが“アイラEV”のコンセプトモデル、スズキが“エルティガ・ハイブリッド”を発表しました。
トヨタが「全部本気」的な展示、レクサスが新型“RX”のアジアプレミア、三菱はベストセラー車“エクスパンダー”のマイナーチェンジを大々的に、“ミニキャブMiEV”、“アウトランダーPHEV”をひっそりと展示していました。“アウトランダーPHEV”の実績は10数台ですが、いわゆる“意識高い系”の人が買っているそうです。
ローカルモータースポーツにも積極的に取り組んでいるホンダは新型“BR-V”、e:HEVの技術展示、“ブリオ”10周年記念展示にスペースを割いていました。スバルとマツダは他の日本車とは一線を画する独自の道を行く感じでしょうか。コアなファンも多いですし。
中国は過去最高の4社が出展
GMがインドネシアでの生産販売から撤退し「あとは任せた」と託され2017年に進出した上海通用五菱(ウーリン)、同時期に参入した東風系のDFSK、昨年参入したMGの三社に加えて奇瑞(チェリー)が再参入を表明し、計4社と史上最高の出展でした。
全社EVも展開を明言していますし、展示もしていましたが、商用EVバンをひっそりと売っているDFSKと量産が始まった“Air ev”(右ハンドル版宏光ミニEV。とはいうもののかなり豪華な別物)以外は導入目標を表明するのみ。年産15万台規模の大工場を建設したウーリンを筆頭に現地生産ですが、MGだけはタイからの完成車輸入です。
韓国勢はEV推し
EVを全面に押し出しているのは中国勢と同じ。エンジン車ではどうやっても日本車に勝てないと悟り、ガラリと戦略転換をした点においても中韓勢は同じ戦略です。
電池から一貫生産するヒュンダイ“IONIC5”が鳴り物入りでデビュー。
今回発表した内燃機関車“スターゲイザー”がかなりの人気でした。単に物珍しさで集まるのではなく、かなり本気で品定めしていました。競合するエクスパンダーと価格がほぼ同じなので、価格が人気の理由ではなさそう。トータルでもヒュンダイブースはかなりの人だかりで、商談コーナーも盛況でした。
キアもEV(“EV6 GT-line”、“Niro EV”)、“ソレントHEV”を参考出品し、「全部本気」的な展示でした。エンジン車では新型SUV“カレンス”をプレミア。尚、キアは韓国からの輸入のため価格面では不利(関税が高いため)な感は否めません。
BMW&ミニが注目の欧州ブランド
BMW/ミニが正面玄関入った目の前の専用館的なスペースを確保していました。BMWは一般モデル、Mモデル、iシリーズ全て揃える充実ぶり。7シリーズと8シリーズは奥の商談コーナーに並べられプレミアム感をたっぷりと出していました。Mパフォーマンスコーナーも人気でした。VW/Audiは老舗だけどこぢんまりと。
ポルシェが“718ケイマンGT4”、“タイカン・ターボ”がメイン。驚くことにもう30台ほど売れたそうです。こちらもやはり“意識高い系”の人が買っているとのこと。
ポルシェを含む欧州スーパーカーや超高級セダンに価格表はなく、基本は“時価”なのですが、ショー当日の“時価”を訊いたところ、“718ケイマンGT4”が6ミリヤール(60億)ルピア(約6000万円)、“タイカン・ターボ”が3ミリヤール(30億)ルピア(約3000万円)でした。こうなる理由は関税、奢侈税、登録税の違いです。“718ケイマンGT4”の方は2ドア、排気量3L超えということでとても高い。しかし“タイカン・ターボ”の方は流行りのEVのため低く抑えられているためこうなるのです(詳しい料率は未確認)。
ちなみにこの価格はあくまでもこの日に納車された場合の価格なので、納車される日の為替レート、税金の料率によって変わっている可能性が高い。そう、この国でこういうクルマを買うと納車の日まで支払総額がわかりません。それがスーパーカーの価格が“時価”になる理由です。でもこちらの人たちはそんなこと気にしません。そんなのは誤差の範囲としか考えない人たちが買っているから。
以前ランボルギーニオーナーの取材をしたことがありますが、インドネシアでは“アヴェンタドール”50対“ガヤルド”や“ウラカン”1くらいの比率でした。ランボルギーニを買うのになんで“ガヤルド”を買うのか理解できないとのことでした。つまり、「“ガヤルド”が限界」という中途半端なお金持ちはいないということ。
メルセデス・ベンツは欠席。半導体不足で納車が進まないのにショーで売れても後が困るからとかガイキンドともめたときの禍根がまだ残っている(除名処分にされたことがある)からとか諸説ありますが本当のところは不明です。
商用車は日系メーカーのみの出展
三菱ふそう、いすゞ、今年インドネシア進出40周年の日野、UDトラックスが展示していました。中国、インドメーカーの出展がなかったため日系メーカーのみ。UDトラックス以外の三社はEVトラックを参考出品していました。
地元のカロセリ(コーチビルダー)は代表的企業三社ラクサナ、アディプトロ、テントレムが新型車を発表。中でもアディプトロのセミ寝台車“ドリームコーチ”が注目の的でした。
二輪EVも数社が出展
インドネシアローカルスタートアップALVA社がイタリアンデザインの“ONE”を発表。最高時速90キロ、航続可能距離は1電池で70キロ。電池は交換式で2個搭載可能です。これ以外にも二輪EVが何社か出品しており、電池はカセット交換式なのですが、すべてユニークなため汎用性がないのが難点です。
KONPAS誌の「タイムトラベルトンネル」の展示に惹かれる
クルマ以外でグッと惹かれたのは老舗大新聞のKOMPAS(コンパス)のブース。
昔のクルマ広告や記事展「タイムマシントンネル」です。クルマ関係の記事や広告を集めたパネル展示だったのですが、子供のころ紙面で目にしていた広告がそこに並んでいてとても懐かしい気分になりましたし、私が引っ越す以前のため知らなかった広告もあり「そんなクルマもあったんや」と楽しく見られました。
物販もニクい。それらの広告をプリントした会期中限定のTシャツがオンラインショップで販売されていました。早速ポチッと注文したのは言うまでもありません。
新型コロナウイルス感染防止対策はしてるけど
プレスデイも一般公開日も人出は前回と変わらない雰囲気。みんなマスクをしていることと、出入口にいるアプリ確認隊がQRコードのスキャンと状態確認(画面色の赤・黄・青でワクチン接種回数と陰陽状態が判る。出入り口でスキャンするのでそこにいた時間も記録される)をしているのがコロナ禍ならではの景色でした。
会場の至る所に”Pakai Masker(=マスクして)”、”Jaga Jarak(=距離を取って)”の札を持つ係員が立ってはいたものの、クルマを見るのにそれどころではないという感じで、もはや誰の目にも入っていないようでした。
マスクが暑そうなコンパニオン
ずっとマスクをしているのは当然としてもブースによってはアクリル板の向こう側にいるのでとても話しにくかったです。本人もしんどかったことでしょう。せっかくがんばっていたのでできるだけ写真を紹介しようと思います。
VIPカーが気になる
オープニングセレモニーに列席するVIPのクルマ達を見るのも楽しみの一つですが、日本大使館の代表として臨席した田村政美次席公使(在インドネシア日本国大使館のナンバー2)の公用車が日産“リーフ”になっていたことに驚きました。
諸々の事情があり“リーフ”になったようですが、“リーフ”の後席に収まる次席公使の姿、”CD 49 02"のナンバープレート(日本大使館ナンバー2の意味)が付いた“リーフ”を見ることになるとは。時代ですね。
今回は大統領も副大統領も来なかったので、大統領専用車もお召し車列も見られませんでしたが、別の場所で歴代の大統領専用車を展示していたので、代わりにそちらを楽しみました。
まとめ
新興国のモーターショーではいつも感じることですが、クルマを見る目が、本気度がぜんぜん違います。運転席、助手席、後席、三列目、ラゲッジルーム、エンジンルーム、スイッチ類の操作性のすべてを家族総出でチェックしています。
余談ですが、現地(バンドン)駐在数十年の中小電線・ワイヤーハーネスメーカーの日本人に、周囲がドン引きするほどリアシートでどかどか暴れて乗り心地を試す御仁がいます。その彼が言うには、今回のモーターショーでトップツーの乗り心地(シートクッションとサスペンションの動きから推定する)だったのはウーリン“アルマズ”と三菱新型“エクスパンダー”だったそうです。
概況としてはこのような感じでした。やっぱりナマですね。昨年はリモートを試み、今回はリアルで現地取材を行った結論です。やっぱり現場でなければ見えないモノやコトがあります。聞こえない音があるし感じられない雰囲気があります。そしてそれを感じることが重要。リモートの技術が発達してもやっぱりナマには敵いません。
ところでヒュンダイですが、あのアルファベットではヒョンデとは読めません。
ヒョンデとは読めないHYUNDAI表記を強引にヒョンデと読ませるのは韓国と日本だけで、それ以外の国ではヒュンダイあるいはがんばって発音しようとするけどヒュが難しくフンダイになっちゃう発音が一般的。従ってこの記事でもヒュンダイで統一しています。
同様に一部を除いて車名を現地の発音に合わせたカタカナ表記にしています。
(取材・写真・文:大田中秀一)
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