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相場の10倍となる5000万円!! 『女王陛下の007』ボンドガールの愛車マーキュリー「クーガー」とは

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相場の10倍となる5000万円!! 『女王陛下の007』ボンドガールの愛車マーキュリー「クーガー」とは

■ボンドガールのクルマとして『007』に登場するクーガー

 一世紀を遥かに超える映画の歴史においては、数多くのクルマたちが銀幕を飾ってきた。なかでも世界的に人気の高い「007」シリーズにおける歴代ボンドカーたちの存在感は格別である。

007シリーズで活躍したボンドカー5選

 しかし、たとえ劇中でジェームズ・ボンド本人が運転するシーンのないクルマたちであっても、007シリーズに出演した劇中車両は特別視されるのが常である。そのほとんどがスクラップになるほどに酷使されてしまい、残されている個体は多くないのだが、それでもごくまれに現在のオークションに出品されることがあれば、同車種・同年代のクルマよりも格段に高い評価を受けるのが当然とされている。

 さる2020年12月中旬、クラシックカー/コレクターズカー・オークション業界の最大手、ボナムズオークション社が開催した「THE BOND STREET SALE」に出品・落札された1969年型マーキュリー「クーガーXR-7コンバーチブル」も、そのセオリーを如実に示す1台であった。

●フォード・マスタングの、ちょっと高級版

 1930年代末、北米フォード社内での上級ブランドとして誕生したマーキュリーは、第二次大戦後もフォード各モデルとコンポーネンツを共用する、ちょっと高級なクルマづくりを担当していた。

 1967年モデルとして初登場したクーガーは、そんなマーキュリーブランドが初めて開発したスポーツスペシャルティー・コンパクトカーである。メガヒット作となった初代フォード「マスタング」のメカニカルコンポーネンツを流用しつつも、柔らかなプロポーションと上品なディテール。そして「ヒドゥン・ヘッドライト」(消灯時はカバーで隠す)を特徴とする、独自のクーペボディが与えられていた。

 また、特定のグレードを持たないことを前提としていたマスタングに対して、クーガーにはスポーツ指向の「GT」およびスポーティエレガンス指向の「XR-7」という、ふたつのグレードが最初から用意され、今や歴史的伝説と化している初代マスタングほどではないが、当時の新車マーケットにおいても一定の成功を収めることになった。

 そして、1969年に2度目の大規模マイナーチェンジを果たしたマスタングに合わせて、デビューから3年目を迎えるクーガーも、ボディを当時流行の兆しを見せていた「コークボトルライン」へとリファインした。

 このマイナーチェンジでは、クーガーとしては初めてコンバーチブルボディの選択が可能となったほか、トップスポーツグレードとして「エリミネーター」も設定されることになった。

 1969年モデルのエンジンは、すべてV型8気筒OHV。スタンダード指定のスモールブロック351c.i.(5.8リッター/250ps)のほか、オプションで351c.i.(300ps/エリミネーターに標準)、ビッグブロック428c.i.(7リッター/335ps)もセレクト可能であった。

 加えて、レーシングホモロゲート仕様の「BOSS302」専用として、同時代のマスタングと同じく302c.i.(5リッター/290ps)や「BOSS429」専用429c.i.(7.1リッター/375ps)も、ごく少数ながら製作されていたという。

 2020年末のボナムズオークション社「THE BOND STREET SALE」に出品された1969年型マーキュリー・クーガーXR-7コンバーチブルは、オーストラリアの俳優ジョージ・レーゼンビーが「ジェームズ・ボンド」役で一度だけ主演し、1969年に公開された『女王陛下の007(原題On Her Majesty’s Secret Service:英米共作)』の撮影で使用するために、一連の007シリーズを手掛けてきた制作会社「イーオン・プロダクションズ」が購入した、ごく少数のクーガー(3台説と4台説があり)の1台とされている。

 この作品でレーゼンビーと共演したのは、悪の首魁ブロフェルド役のテリー・サヴァラスと、「ボンドガール」にして007史上唯一ボンドの正式な妻となるコンテッサ・テレサ“トレーシー”ディ・ヴィセンツォに扮したダイアナ・リッグ。そしてこのクーガーXR-7は、劇中ではトレーシーの愛車として登場する。

■映画のボンドが乗っただけで、相場の10倍のプレ値に!

『女王陛下の007』は、1969年12月13日に日本で先行公開され、その6日後にあたる12月18日にロンドン・レスタースクエアのオデオン(Odeon)劇場にて、ロイヤルプレミアとして封切りされた。

●1969 マーキュリー「クーガーXR-7コンバーチブル」

 前任のショーン・コネリーや、後任のロジャー・ムーアがそれぞれ一時代を築いたのに対し、レーゼンビーはちょっと冴えない印象もあったのか、この一作のみの出演に終わった。そんなことも相まって、007シリーズのなかでは良くいえば「異色の作品」。失敗作ともいわれているようだ。

 しかし、不条理で悲しいラストに終わるストーリーにくわえて、ボンドの内面を深く描写したレーゼンビーの演技も相まって、1960-70年代に一世を風靡した「アメリカン・ニューシネマ」に属する唯一の007作品という見方もあり、現在では映画通や識者を中心に高く評価されているという。

 一方このマーキュリー・クーガーは、イーオン・プロダクションズによって1969年1月30日にオーダー。当初は2月12日に生産される予定だったが、実際には6日前の1969年2月6日にラインオフしたといわれている。そして完成早々アメリカからイングランドに移送され、1969年2月13日に英国内登録がおこなわれたとの記録が残っている。

 エンジンは、ラムエア吸気システムでパワーアップを図った最高性能版「428コブラジェット」を選択し、3速ATと組み合わせている。

●ボンドカーではないが、ボンドが乗ったクーガー

 劇中ではポルトガルのビーチにおけるオープニングシーンに登場したのち、スイスアルプスではクナイスル社製スキーをトランクに背負って雪中カーチェイスまでこなすなど、縦横無尽の活躍ぶり。この作品における本来の「ボンドカー」である1968年型アストンマーティン「DBSヴァンテージ」よりも登場時間が長いともいわれている。

 今回のオークション出品に際しては、当時のフォード・モーター・カンパニー社の公式ドキュメントと請求書のコピーを収めたファイルも添付され、間違いなく映画に出演した個体であることが記載される。

 また同じく添付される「Marti Auto Works Elite Report」によると、「キャンディアップル・レッド」のボディカラーで、ブラックのソフトトップの1969年型XR-7コンバーチブルは、映画のために製作された3台のみと記されている。

 ただし、007シリーズに登場した約40台の「ボンドカー」を今なお保有する「イアン・フレミング財団(IFF)」では、おそらく4台のクーガーが『女王陛下の007』の製作に使用されたと考えているようだ。

 1台は氷上のカーチェイスシーン撮影中にひどく損傷し、そののち廃棄された。また1台は2008年以来IFFが所蔵しており、もう1台はスペインに生息しているとのこと。そして残る1台が、今回のボナムズオークションに出品された個体ということなのだ。

『007』出演後、このクーガーXR-7の行方はさる人物によって登録された1976年まで不明となっていたが、以後はこのオークション出品者が1990年6月に入手するまでに英国内で7人のオーナーのもとを渡り歩いてきた。

 現オーナーは、1990年5月に英国の中古車専門誌「エクスチェンジ&マート」でこのクーガーを発見したものの、この時の広告では『007』劇中車であることは言及されてなかったそうだ。

 そして昨2020年には、シャシからボディを外してフルレストアが施されることになる。ボディはアシッドディップ(希酸浸漬)で塗装や錆を完全に落とした上で、純正色のキャンディアップル・レッドでリペイント。黒のコンバーチブルトップと赤いインテリアトリムも、英国内のスペシャリストによって刷新された。

 また、エンジンやトランスミッション、リミテッド・スリップ・デフなどのパワートレインもすべてオーバーホールされているという。

 レストアが完了したのち、現在に至る走行距離わずか20マイル(約32km)に過ぎず、現状におけるコンディションはいわゆる「ミント」である。映画で使用されたスキーやスキーラックも完全に再現されるなど、コレクターごころをくすぐる状態となっている。

 そして、ロンドン・ボンドストリートにておこなわれた競売では、ボナムズ側に支払われる手数料込みで、なんと35万6000ポンド、つまり、邦貨換算約5060万円という驚きの高値で落札されることになった。

 現在、欧米のクラシックカーマーケットにて、同年代のクーガーが3万-5万ドルあたりで推移している現況と比べれば、この落札価格は実に約10倍にも相当するもの。

「ジェームズ・ボンドが乗った」という歴史が、いかに現在のマーケットを左右するかを、今一度思い知る結果となったのである。

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みんなのコメント

3件
  • 若い頃に原宿の歩道橋から何気なく下を見たら、真っ赤なボディに真っ白な車内のマーキュリークーガーコンバーチブルが通り抜けて行く姿に一目惚れした。
    いつか買いたいと思ったのに買えるようになった頃には現実的な人間になっていた。
  • どこを観ても濃い!存在感の密度が高すぎる!
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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