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【F1座談会企画(1)2019年タイトル争い編】ベッテルの課題はフェラーリの内部問題か。ハミルトンの対抗馬を探せ

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【F1座談会企画(1)2019年タイトル争い編】ベッテルの課題はフェラーリの内部問題か。ハミルトンの対抗馬を探せ

 2018年シーズンのF1が幕を閉じました。2018年はフェラーリがメルセデスに一矢報いるのではないか、そんな期待の中でシーズンがスタートし、フェラーリのセバスチャン・ベッテルが開幕2連勝。しかし、シーズンの中盤以降は徐々に形成が傾き、ご存知のように最終的にはメルセデスのルイス・ハミルトンが5度目のチャンピオンに輝き、メルセデスが5年連続でコンストラクターズタイトルを獲得する結果となりました。

 結果だけを見るとこれまでの4シーズン、まったく変わらないように見えるF1の勢力図。でも実際はどうだったのか。歴戦のジャーナリストたちはどう捉えたのか、その裏側をこの座談会で暴露してしまいます。座談会に参加して頂くメンバーは、オートスポーツwebでもお馴染みのF1ジャーナリスト、1987年よりF1の取材を行う柴田久仁夫氏と、16年以上にわたって毎年全レースを現場で取材している尾張正博氏のおふたり。

元F1ドライバーのウエーバー「ハミルトンの予選ラップの速さはアイルトン・セナに匹敵」

 2018年シーズンを振り返りつつ、2019年のF1をズバリ推測します。初回となる今回は、『2019年もハミルトンが勝つのか? 対抗馬は誰なのか』というテーマでお届けします。

■F1史上に残る名ドライバー、5度の王者ハミルトンの実力と人気は妥当?

──(MC:オートスポーツweb)2018年シーズンのF1ですが、ルイス・ハミルトンがミハエル・シューマッハーの7回に次ぐ、通算5度目のタイトルを獲得しましたが、これだけ圧倒的な強さを見せているのに、日本ではあまりハミルトンのタイトル獲得で盛り上がる雰囲気はなかったような気がします。

尾張正博氏(以下、尾張)「勝っている人のニュースがあっても盛り上がらないというのは、スポーツの報道として一番良くない状況だよね」

──オートスポーツwebではもちろん、トロロッソ・ホンダのニュースはアクセスがいいのですが、やはりハミルトンよりもキミ・ライコネンやフェルナンド・アロンソの記事の方が読まれていましたね。

柴田久仁夫氏(以下、柴田)「実力と人気が比例しないというのは、わりと世界的な傾向なんじゃないのかな。そういう意味で、今までで一番、ハミルトンの人気が出たのはデビュー年(2007年)?」

尾張「そのデビューイヤーでも、ハミルトンだけの人気で引っ張ってきたっていうわけではないですよね。2007年はマクラーレン内で(フェルナンド)アロンソとの確執があったから注目を浴びた。だから、ハミルトンはもしかしたらイギリス国内ですら、あまり人気はないのかもしれない。むしろその時点ではチャンピオンになっていない(ジェンソン)バトンの時の方が盛り上がっていたのかもしれないですからね」

柴田「(ニコ)ロズベルグとタイトルを争っていた時(2014年~)のことも、決して『ハミルトン/ロズベルグ』時代とは言わなかったもんね」

尾張「それはベッテルにも言える。ベッテルが勝っていた時(2010年~)も、ドイツ国内では(ミハエル)シューマッハーがいた時のような現象は起こらなかった。それが問題だと思う」

柴田「ベッテルが4連覇した時も、『ベッテル時代』とは言わなかったし、ドイツでF1が盛り上がっていたわけでもなかった」

尾張「(2015年と2017年には)ドイツGPがなくなったし……」

──ドライバーの実力と人気が比例しない時代がしばらく続いているということですね。その原因はどんなところにあるのでしょうね?

柴田「今のチャンピオンには物語性がないというか……シューマッハーも、そういうのは少ししかなかった」

尾張「それでもカリスマ性はあって、今でもサーキットでシューマッハーの帽子をかぶっている人はたくさんいる。だけど、どのスポーツでもカリスマ性のある人が減っていると思う」

柴田「F1で最後に『◯◯対◯◯』と言えたのは、『シューマッハー対アロンソ』(2005年~)でしょうね。ハミルトンはドライバーとしてはすごい実力の持ち主だし、F1史上に残るような速いドライバーなのに、どうして感情移入できないんだろう?」


尾張「今はSNSがあるから、なんでも明るみに出てしまう。彼の大きな欠点は、2年前の日本GPで、木曜日の記者会見中にスマートフォンのアプリを使って写真を撮っていたことを批判された後に、記者会見をボイコットしたこと。あれで母国のイギリス人ジャーナリストもファンも引いてしまったんじゃないかな。たとえばアロンソは、もちろん生意気なところはあるけれど、どこかでビシッと言い返してメディアから逃げない。(キミ)ライコネンもシューマッハーもそうだった。だけどロズベルグとかベッテルとかって、失敗すると言い訳したりする。ハミルトンも甥の服装についてSNSに投稿して、それを批判された(※1)。そういうのが報じられると、ドライバーとしての価値というか存在感が下がってしまうんだよね。それはこのスポーツだけの話だけではないけれど」

※1. 昨年ハミルトンはSNSに投稿した動画の中で、ドレスを着ていた甥に対して「男の子はドレスなんか着るものじゃない」と発言し、批判を浴びた。その後動画は削除され、ハミルトンは謝罪を行った。


■最大のライバル、ベッテルは手薄なサポートの中で孤軍奮闘状態

──まだまだ新車の出来も分からない段階ですが、2019年、ハミルトンのライバルになるタイトルを争えるドライバーは誰になりそうですか?

柴田「ベッテルが2019年もハミルトンに敵うかどうかというと、かなり悲観的な感じがする。だけどクルマ次第だからね」

尾張「いろいろな意見があった方が面白いと思うんだけど、自分はベッテルがハミルトンに勝てる可能性はあると思う。それでも数字としては30%くらいかな。レースにタラレバはないけれど、今年に関して言えば、フランスGPでの(バルテリ)ボッタスとの接触やドイツGPでのクラッシュがなければ、あるいはイタリアGPで1周目にライコネンとやり合っていなければ、シーズン終盤までベッテルはハミルトンとタイトルを競っていたはずだった」

柴田「だけど、ベッテルがなぜそれをやらかしてしまったのか、というのを考えると、2019年もやりかねない」


尾張「たとえばボクシングに当てはまることだけど、一度負けた相手に再び勝つというのは難しい。それはF1でも歴史的にそうで、カルロス・ロイテマンはアラン・ジョーンズに勝てなかったし(81年はジョーンズにポイントでは上回ったが、タイトルは逃した)、ナイジェル・マンセルはネルソン・ピケに勝てなかった。そういう意味では、唯一の例外がロズベルグ(2016年)。ロズベルグはよくやったよね。勝てなかったチームメートに初めて同じクルマで勝ってチャンピオンになったのだから。ベッテルはチームが違うし、どうしてああいうミスをしたのかが問題。フランスGPとドイツGPは良くなかったけれど、イタリアGPはもう少しなんとかなったと思う。あれはフェラーリのミスだった」

──ベッテルはシーズン中盤あたりからミスが出始めて、後半にかけてチーム全体で取りこぼしが多くなりましたね……。

柴田「ベッテルがフェラーリから十分なサポートを受けていないというコメントがあったけれど……精神的なサポートも含めて、チームの歯車が狂っている時に、ベッテルはきちんとチームからサポートを受けられていない感じがあるよね。メルセデスのハミルトンと比べても」

尾張「ドライバーは、チームからサポートを受けているかどうかにものすごく敏感。例えばメルセデスのチーム内では実質ハミルトンのナンバー1体制ができているけれど、彼を納得させるのはとても大変なこと。ブラジルGPではコンストラクターズタイトルも決めて、チームはお祝いムードだった。だけどレース中はタイヤのブリスターが酷かったので、戦略担当のスタッフはレース後に血相を変えてピレリのマリオ・イゾラと話し込んでいた。みんなが思っているほど、メルセデスは楽勝ムードではなかった。だけどおそらく、フェラーリはモンツァの後あたりで『もうダメかもしれない』と気が付いていたんじゃないかな。だから今年のベッテルとハミルトンの差には、本当の実力差は反映されていないと思うし、2019年もベッテルにチャンスがあると思う」

柴田「ベッテルは新しいチームメイト(シャルル)ルクレールにやられる可能性もある。だからハミルトンの対抗馬はベッテルだけではないんじゃないかな」

尾張「クルマ次第ではボッタスもあると思う。今年のメルセデスのクルマはそれほど良くなかったし、本当だったらフェラーリがタイトルを獲らなければいけないシーズンだった。というのも2018年はアメリカGPでライコネンが優勝していることからも、今季のフェラーリのクルマは良かったということ。つまり、ベッテルは取りこぼしが多かった。もし2019年のメルセデスのクルマが良ければ、ボッタスが対抗馬になるだろうし、今年のようなマシンの出来だったら、フェラーリのふたりが対抗馬になる。だからメルセデスのクルマの出来がどちらに転んでも、ハミルトンの独走はないと思う」


■2019年もハミルトンが勝つのか。気になるチャンピオン予想

──では、ちょっとお題を変えまして、ドライバーの実力とは別に、2018年に一番優れていたパッケージ(シャシー&パワーユニット)はどのチームだったと思いますか?

柴田「やっぱりフェラーリかな。メルセデスにはタイヤの問題も残っていたけれど、シーズン後半は良くなっていった。車体だけだったら、一番良かったのはレッドブル。あの(ルノーの)パワーユニットであそこまでやれるんだから、普通じゃない」

尾張「一番分かりやすいのが、ナンバー2ドライバーが勝てているかという部分。同じチームのドライバーがふたりとも勝っていれば、それはマシンは悪くないということだからね」

──戦略やスタッフを含めたチーム体制でのナンバー1チームとなればどうでしょう?

尾張「チーム体制で言えば、一番良かったのはメルセデスかな。トト・ウォルフ(メルセデス代表)、マウリツィオ・アリバベーネ(フェラーリ代表)、クリスチャン・ホーナー(レッドブル代表)というチーム上層部を見れば、やっぱり人望が厚いのはトト・ウォルフ。フェラーリはスタッフがアリバベーネの顔色を伺って仕事をしているし、そういうのはレースだと結果に出るよね」

柴田「かといってアリバベーネにリーダーシップがあるかというと、そうじゃない。マッティア・ビノット(テクニカルディレクター)とは全然口をきかないし」

尾張「そのふたりの問題が解決しないと、フェラーリは良くならない」

柴田「7月にセルジオ・マルキオンネ(フェラーリ前会長)が亡くなった影響は大きいと思う。それまでのフェラーリはみんなマルキオンネを見ながら仕事をしていたけれど、なんだかんだチームはまとまっていた。だけど突然、彼が亡くなってしまったことで、チーム内が混乱したんじゃないかな」

──それでは現時点で2019年のチャンピオン候補を挙げるとすれば?

尾張「今の時点では、2019年のチャンピオンの可能性はハミルトンが70%。ベッテルが20%で、ボッタスとマックス・フェルスタペンが5%ずつ。ルクレールはまだかな」

柴田「クルマ次第だけど、可能性としてはハミルトンが60%。残りの40%をフェラーリのふたりが分け合うという感じかな。ルクレールに関しては贔屓の引き倒し。だけど彼は、おそらくメンタル面でベッテルよりも強いんじゃないかと思う」


座談会(2)に続く

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柴田久仁夫
 静岡県出身。TVディレクターとして数々のテレビ番組を手がけた後、1987年よりF1ライターに転身。現在も各国のグランプリを飛びまわり、『autosport』をはじめ様々な媒体に寄稿している。趣味はトレイルランニングとワイン。

尾張正博
 宮城県出身。1993年よりフリーランスのジャーナリストとしてF1の取材を開始。一度は現場からは離れたが、2002年から再びフリーランスの立場でF1を取材を行い、現在に至るまで毎年全レースを現地で取材している。

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