2種類ある日本のライドシェア
以前から議論されていたライドシェアが、この春から全国各地で導入され始めた。すでに多くのメディアで報道されているが、厳密にいえば日本のライドシェアには2種類ある。
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ひとつは4月から東京都内などで、タクシー会社の運営により始まったもので、自家用車活用事業というのが正式な名称だ。タクシーが不足している地域や時間帯で、タクシー会社に登録した一般ドライバーやマイカーを活用する仕組みで、タクシーの配車アプリを使い、運賃はタクシーと同一。タクシー会社は登録したドライバーの研修や運行管理を行い、事故が起きた場合の対応も行う。
ニュースではこれを「日本版ライドシェア」と呼び、まるでこの国のライドシェアサービスは1種類しかないように思ってしまうけれど、実はもうひとつ、地方では以前から展開している、
「自家用有償旅客運送」
というものがある。自家用有償旅客運送はこれまで、福祉目的か交通空白地での運行しか許されなかったが、後者について交通空白という定義を時間帯にも適用し、実施主体からの受託により株式会社が参画できるようなことが明確化され、タクシーの半額程度だった運賃を約8割まで高めることなどが、2023年末までに決められた。
タクシー会社ではなく、自治体が主体となって展開していくことから、自治体ライドシェアと呼ばれることもあるこの制度、実は自家用車活用事業に先駆けて、一部地域で運行が始まっている。そのひとつが、石川県南部に位置する小松市の小松市ライドシェア「i-Chan」だ。
そこで同市の地域振興課を訪ねるとともに、実際に利用してみた。東京都などで展開しているライドシェアは、S.RIDEやGOなどのアプリを見る限り、ライドシェアだけを使う設定はできないので、筆者(森口将之、モビリティジャーナリスト)が日本でライドシェアと呼ばれるモビリティサービスを使うのは、これが初めてとなった。
ライドシェア導入の背景
小松市を訪れた筆者は、利用前に地域振興課を訪れ、まずライドシェア導入の背景を聞いた。
「ライドシェアを考えたのは、市内の路線バスは小松駅を中心に放射線状に路線が伸びていて、バスが走っていない地域があったことに加えて、新型コロナウイルス感染症によるバスの利用者減少で市の財政負担が増え、運転士不足という状況もあったからです。持続可能な公共交通体系の展開やニューモビリティの活用を核とする小松版MaaSを構築し、そのひとつとしてライドシェアを考えました」
ちなみに小松市が考えるニューモビリティはそれ以外に、自動運転バスもある。こちらは2020年から実証実験を行っており、3月9日から小松空港と小松駅の間で定常運行を始めている。
さらに小松市長も名を連ねる「活力ある地方を創る首長の会」では、2023年秋にアンケートをとったところ、95%が
「現在の地域公共交通に満足していない」
という結果が出たという。これを受けて、前に書いた自家用有償旅客運送の改革が動き出したことから、会の有志でライドシェア研究会を作る一方、この研究会の事務局を務める小松市は市内のタクシー会社への相談も始めた。
そこではライドシェアに対する反対の声もあったというが、
「ドライバー不足に加えて高齢化も話題に上がり、運転業務を日中に限りたいという要望が多く、夜間や早朝のドライバーが不足しているという話が出てきたので、夜間を交通空白とみなして導入」
という方向性が定まった。
そのさなかに起こったのが能登半島地震だった。小松市では市内の粟津温泉で2次避難者を受け入れることとなり、マイカーを持たない避難者の足の確保もライドシェアで担うことに決めた。
出だしは避難者限定「復興ライドシェア」
こうしてまず2月29日に避難者限定の「復興ライドシェア」として走り始め、北陸新幹線が開業した翌月16日と17日に市民向けにサービスを拡充し、22日から定常運行が始まった。
運行時間は17~24時で、4月下旬時点で11人のドライバーが毎週木・金・土曜日に運行を行っている。ドライバーがもっと増えれば毎日運行したいという。営業区域は小松市内全域で、発着地のいずれかが小松市内であれば、隣接する能美市および加賀市でも乗り降りできる。ドライバーの条件は、
・年齢21~69歳
・免許保有歴3年以上
・2年以内の免許停止なし
・月4回以上の運行
などとなっている。自動車保険の内容にも条件があり、車両は法定定期点検を受けてから8か月以内で、ドライブレコーダーを車内の前後に設置することが定められるなど、安全対策は万全に思えた。
運賃は2次避難者は無料。市民や来訪者は初乗り1kmまで400円、それ以降300mごとに100円で、国の指針どおりタクシーの約8割となっており、ドライバーの報酬はそのうちの7割。それ以外に燃料代、通信費、22時以降運行の場合の夜間手当を支給している。
今回筆者は、小松空港から粟津温泉までライドシェアを利用し、帰りはタクシーを考えた。ところが旅館でタクシーをお願いしようとしたら、
「台数が少ないのでかなり時間が掛かります」
といわれて、地方の現状を知り、30分刻みで時間指定ができるi-Chanに帰路も頼ることにした。
いずれもマイカーを使っていたので車種はバラバラだが、運転マナーは安心できるものだった。旅館でのタクシーの1件と合わせて、交通空白をなくしたいという小松市の話に納得した。
利用者の声としては、高齢者からはアプリの設定が大変という反応はあるもの、運行区域を金沢市まで伸ばしてほしいという要望が出ていることに加え、2次避難者からは、能登地域でも導入してほしいという意見もあるという。
外国人旅行者も安心の移動術
ニュースで目にする東京など大都市のライドシェアと、今回体験した小松市をはじめとする地方のライドシェア。後者のほうが重要で、ライドシェアというサービスに合っていることは明確だ。だからこそ大都市のライドシェアばかり取り上げられる現状には不満を抱いている。
4月に発出された国土交通省の通達により、自家用有償旅客運送の運賃を弾力化することにより、タクシーとの共同運営の仕組みを構築することが可能となった。これが実現すれば小松市でも、その形態への移行を考えているという。このスキームになって初めて「日本版ライドシェア」と呼べるのではないだろうか。
海外でライドシェアを利用した人の多くは、日本での導入を支持している。先日もインドに行った人が、ライドシェアのおかげで助かったという話をしていた。逆にいえば、日本に来る外国人旅行者にとっても、日本語を知らず円を持っていなくても必要な移動ができるライドシェアは重宝するはずだ。
ライドシェアがあればタクシーはいらないとは思っていない。移動の選択肢をできるだけ多く用意し、利用者が自由に選べる社会が理想だ。ライドシェアが不安なら乗らなければいい。でも一方で、ライドシェアがなければやっていけない場があることも事実なのである。
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みんなのコメント
事業(業務)として活動するなら
事故リスクが当然上がることになるね
だったら「自家用自動車保険」はダメだよね
きちんと「事業用」の自動車保険に加入させなきゃ