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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回】ケビンとニコのフィードバックを信じたフルウエットスタートは「正しい判断」

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回】ケビンとニコのフィードバックを信じたフルウエットスタートは「正しい判断」

 2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。今年のカナダGPは、ウエットからドライに変わる難しいコンディションでのレースとなった。スタートではハースだけがウエットタイヤを履くという珍しい光景も見られたが、この判断は正しかったという。カナダGPの週末を小松代表が振り返ります。

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ヒュルケンベルグ「最初の10周はうまくいったが、路面が乾きそれまでの努力が“巻き戻し”に」:ハース F1第9戦決勝

2024年F1第9戦カナダGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選14番手/決勝12位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選19番手/決勝11位

 今年のカナダGPはウエットからドライへとコンディションの変わる、難しいレースになりました。スタートではうちだけがフルウエットタイヤを選択するというちょっと珍しい状況になったので、その背景を説明していこうと思います。

 スタート前にガレージからグリッドに向かうまでに3周走るのですが、ケビンもニコも最初の2周はフルウエット、最後の1周はインターミディエイトタイヤで走りました。ウエットコンディションのレースでは、セーフティカー先導でのスタートでない限り基本的にインターでスタートします。感触を知るために両方のタイヤを試したのですが、彼らの意見は「インターでは全然ダメで、とにかく走れないしコースオフ寸前」というものでした。

 クルマがガレージを出たのはスタートの40分前で、当時の天気予報ではそこから30分は雨が降らず、スタートの1、2分前に再び降り始めることになっていました。スタート前の雨については少し雨脚が強まるという予想だったので、ふたりのフィードバックを聞く限りうちのクルマはインターでは走れないと判断し、フルウエットでスタートすることを決断。ニコから2台でスタートタイヤを分けた方がいいのではないかと聞かれたのですが、ふたりの状況が同じだったので、今回はふたりともフルウエットが正解だと判断しました。

 しかしタイヤを決めた後、スタートの6分ほど前になって、天気予報のレーダーを見ていたストラテジストから「強い雨が降るはずだったけど、弱くなりそう」と報告を受けました。とはいえもうタイヤを変えることはできないし、僕たちはタイヤを決める時に持っていた情報をもとに正しい判断をしたと思っています。本当に雨が弱まるなら運がなかったと思うしかないし、僕はこの判断に満足していると彼らにも伝えました。実際にスタート前に雨が降り、当初の予想よりも弱かったものの、1~3周目のふたりのパフォーマンスを見れば正しい判断でした。

 フルウエットがそこまで長く保たないのはわかっていたので、スタート後はフルウエットで走れるうちにピットストップ以上のマージンを稼げるかどうかが重要でした。14番手からスタートしたケビンは、3周目には4番手まで上がり、その後は9番手のダニエル・リカルド(RB)を先頭とする集団とのギャップを見ていました。リカルドより遅くなったところでケビンをピットに入れようと考えていて、7周目にセクター1でリカルドを下回り、セクター2も同じくらいのタイムだったので、これ以上伸ばすとゲインがないのでピットに呼びました。

 問題は、ピットストップコール後にクルーが取りに行くタイヤを間違えたことです。ガレージ内には全5種類のタイヤが置いてあり、次にどのタイヤを使うかをライトで示すシステムになっています。ケビンはフルウエットからインターに変える予定だったので、インターを示すライトがついていたにもかかわらず、クルーはハードタイヤを取りに行ってしまいました。インターのライトがついていたことに気がついていたクルーが誤りを指摘し、間違えたクルーたちが正しいタイヤを取りに戻ったことで作業が遅れてしまったんです。タラレバですが、このミスがなければケビンは9番手あたりで戻れていたはずだったので、その点から見てもスタートにフルウエットタイヤを選んだこと、7周目にピットストップをしたことは正解だったと考えています。

 反対にニコの方はフルウエットで引っ張りすぎてしまいました。レース中は8周目あたりにはフルウエットよりインターの方が速い状況になり、乾いているラインも見えてきました。金曜日は路面が乾くのがとても早かったので、レース当日もいったん乾き始めたら早いのではないかと思い、フルウエットから直接ドライタイヤに変えられる可能性もあるのではないかと思ったのです。

 今振り返ってみれば、遅くとも9周目にはフルウエットで引っ張ることを諦めていればよかったです。でもたとえば、フルウエットで走ってインターに対して10秒ロスしても、そこからドライに交換できれば、ロスするタイムはピットストップ1回分(ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットの場合は19秒)よりも少なくなります。つまり20秒ロスしない限りはフルウエットでステイアウトしていた方がよかったのですが、引っ張りすぎて11周目には1周あたり4秒くらい遅くなり、結果として間違った判断になってしまいました。

 その後25周目にセーフティカーが導入され、このセーフティカー中に最初にドライタイヤに交換したのはシャルル・ルクレール(フェラーリ)でした。あの時点でうちにもドライに変えようと言っていたメンバーがいましたが僕はまだあの状況ではドライに変える自信がなかったので、ルクレールを見て「やられたな」と心配したんですけど、彼はコースオフしてしまいましたし、すぐにピットインしてインターに履き替えていました。結果的に、フェラーリは大きく判断を間違ったことになりましたが、紙一重のところではありました。

 40周目にピエール・ガスリー(アルピーヌ)がハードタイヤに交換した時も、うちもいつドライにしようかと話し合っていて、この段階ではまだ早すぎるという認識でした。しかしケビンが「どうしてもドライに交換したい。ターン2でコースオフしないよう気をつけるから」と言うので、41周目にケビンをピットに入れましたがやはり早すぎました。そのケビンとニコのセクタータイムの比較があったので、逆にニコは44周目に完璧なタイミングでドライに履き替えることができましたね。

 最後に、少しだけ2025年のドライバーラインアップについても触れておこうと思います。カナダGPのFIA会見でも話した通り、来年は若手ドライバーと経験のあるドライバーのペアでいこうと考えています。経験あるドライバーというのは、F1で結果を出しているのはもちろんのこと、速いだけではなく、サーキットを離れたところでもチームと一丸となって仕事ができるドライバーです。数名の候補のなかからふたりまで絞っていますが、まだ決まっていません。今すぐにドライバーを発表することはできませんが、近いうちにお知らせできると思います。

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