スーパーツアラーだと主張されるDB12
グランドツーリング・クーペを発明したのは、どのメーカーか? これを決めるには、短くない議論が必要だろう。最初期の代表的なモデルは、1951年のランチア・アウレリア B20 GTだと、筆者は思う。
【画像】スーパーなGTクーペ生誕か DB12/ローマ/グラントゥーリズモ スパイダーとフォルゴーレも 全158枚
1948年の、フェラーリ166 インテルだと主張する読者もいらっしゃるはず。1947年のマセラティA6が、代表例かもしれない。少なくとも、イタリアでグランドツアラーが大きく開花したことは間違いない。
フェラーリ・デイトナも、素晴らしいグランドツアラーだった。アルプス山脈を北に越え、メルセデス・ベンツ300SLや、アストン マーティンDB5も忘れてはならない。だが、最近のグレートブリテン島では少々言葉足らずな表現なようだ。
アストン マーティンは、新しいDB12をスーパーツアラーだと主張する。果たして、それは正当なものだろうか。ビッグ・アップデートを受けた最新のDBシリーズは、イタリアの最新グランドツアラーによる挟み撃ちに、耐えうるだろうか。
グレートブリテン島の北部、冷たく濡れた北ペナイン山脈にやって来た真っ黒なボディは、モデルチェンジしたばかりのマセラティ・グラントゥーリズモ・トロフェオ。右ハンドル車も、もうじき提供が始まるそうだ。
真っ白なボディは、DB11が超えることができなかった、フェラーリ・ローマ。胸が苦しくなるほど美しく、息を呑むほど機敏で、唸るほど実用的な、圧倒的地位にあるグランドツアラーだ。視覚的にも聴覚的にも、非の打ち所はない。
鮮烈な心象を残すエレガントなボディ
対して、これまで一連の成功を残してきたアストン マーティンも、目覚ましい後継車を生み出した。大排気量エンジンに空力的なボディ、圧巻の快適性。DB12は、サラブレッド級の操縦性と、高速域での安定性、洗練された乗り心地を実現させたようだ。
豪奢なインテリアは、ドライバーを上質に包み込む。ダイナミックなスタイリングが、これらを1つにまとめ上げている。DB12の比較試乗をする時、ローマとグラントゥーリズモというイタリアの2台しか、適役は思い浮かばなかった。
ローマの、クラシカルなプロポーションに展開されるエレガントな造形は、鮮烈な心象を残す。1964年の275 GTBから続く伝統を、現代へ見事に昇華させたようだ。
DB12は、比較すると幅が広く、面構成は筋肉質。視覚的な刺激は強い。美しいというより、凛々しいと表現した方がしっくりくる。
グラントゥーリズモのプロポーションは、完璧ではないかもしれない。フェンダーと一体になった「コファンゴ」ボンネットは、少し引っ張られたように、不自然に長い。
ウエストラインは低いが、全長は3台で1番長い4959mmあり、視覚的な主張は強い。それでも、万人へ響くようなデザインの魅力では、2台に届いていないように思う。
ローマを凌駕するパワーウエイトレシオ
グラントゥーリズモの最高出力は550psで、今回の中では最も控えめ。エンジンもV型8気筒ツインターボではなく、V型6気筒ツインターボだ。しかし、有能なパートタイム方式の四輪駆動システムを内包する。
雨がちで古いアスファルトが残る道では、馬力は大きい方が有利とは限らない。どのように引き出せ、展開できるかの方が、重要な可能性は高い。
DB12は最も強力。メルセデスAMG由来の4.0L V8ツインターボは、DB11のユニットとは桁違いの能力を発揮する。最高出力は680psで、ローマを凌駕するパワーウエイトレシオを実現させた。
シャシーは徹底的に見直され、DB11より軽量化されている。0-100km/h加速は3.4秒対3.6秒で、ローマの方へ軍配は上がるのだが。
ずぶ濡れのワインディングへ出発する前に、インテリアを観察しよう。3台は現代のグランドツアラーとして、求められる実用性の基準を満たしている。2+2の範囲を超えないが、リアシートも備わる。
小学生の子供なら、多少狭くても、スタイリッシュなクーペへ乗りたがる。筆者も試しに座ってみたが、グラントゥーリズモは小さなサルーンと同じくらい、快適に過ごせることへ驚いた。フロントシートを前方へ寄せる必要はない。
DB12のリアシートにも、筆者の身体は収まった。だが、フロントシートは少し前へスライドする必要がある。ローマは、小学生の低学年までしか対応できない。荷室も、一番広いのはグラントゥーリズモだ。
過去のアストンと一線を画すインテリア
とはいえグランドツアラーの場合、フロントシート側の印象の方が大切。グラントゥーリズモのダッシュボードには、大きなタッチモニターが備わるものの、高級感に欠けるプラスティック製のスイッチ類などが散見される。
センターコンソール上のシフトボタンも、16万1250ポンド(約2999万円)の高級車には不釣り合いだろう。ドアのリリーススイッチは、一般的な量産車の部品のように見えてしまう。
空間には、不足ない余裕がある。ドライビングポジションは、ローマとDB12の方が低く、背もたれは倒れ気味だ。
DB12のインテリアは、過去のアストン マーティンのそれと一線を画す。10.3インチのタッチモニターへ目がゆきがちだが、特筆すべきは、ローレット加工された金属製ノブなど、高品質なディティールだろう。本物の豪華さを漂わせている。
デザインは、完璧ではないかもしれない。ドアパネルやセンターコンソールなど、製造品質に若干の疑問を抱く部分もある。だが、前例ないほど訴求力は高い。これほどラグジュアリーな車内は、歴代のDBシリーズで初といっていい。
ローマは、快適に過ごせるものの、小ぶりなボディサイズが故に少しタイト。内装のデザインは、もう少し華やかさが欲しいと感じた。
この続きは、DB12 ローマ グラントゥーリズモ 3台比較試乗(2)にて。
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