この記事をまとめると
■スーパーGTのGT300クラスに投入されているBMWの新型車両をピックアップ
あのロゴは何? スーパーGTのマシンに付いているスポンサーの正体とは
■M4をベースとしたGT3マシンとなっており、コーナリング性能の高さが目立つという
■日本のコースレイアウトと相性がいいので、今後の活躍にさらに期待が高まる
GT300に投入された新型のBMWが持つポテンシャルを探ってみた
2022年のスーパーGTにはGT500クラスの「日産Z GT500」や、GT300クラスの「トヨタGR86 GT」のように、今年は注目のニューマシンが登場している。いずれもスーパーGTだけの専用モデルだが、国際規定のFIA GT3モデルにおいても日本初上陸のマシンがGT300クラスで活躍しているのをご存知だろうか?
なかでも注目を集めているマシンが、BMW Team Studie × CSLが7号車として投入する「BMW M4 GT3」だ。BMW専門のガレージであるStudieは、BMWのサテライトチームとしてスーパーGTのGT300クラスおよびGTワールドチャレンジアジアに参戦しており、スーパーGTでは荒 聖治選手/アウグスト・ファルファス選手/近藤 翼選手らが素晴らしい走りを披露。第3戦の鈴鹿では同チームの7号車がポール・トゥ・ウインを達成したのだが、果たしてBMW M4 GT3とはどのようなマシンなのか? というわけで、第5戦の鈴鹿で同チームのピットを直撃。まずはチーフエンジニアの高根裕一郎氏にマシンの特徴を語ってもらった。
──昨年まで「BMW M6 GT3」でスーパーGTに参戦していましたが、「BMW M4 GT3」は何が違いますか?
高根氏:M6 GT3のデビューから約6年の時間が経過していますので、M4 GT3は洗練されていますよね。最新の技術とアイディアが注ぎ込まれていると思います。
──マシンのキャラクターとしてはコーナリングマシンといった感じでしょうか?
高根氏:もともとBMWは運動性能を重視していて、重量配分やバランスを追求していますからね。それはZ4 GT3、M6 GT3も同じでしたが、同時に空力性能も進化しているので、当然ながらコーナリング性能も良くなっています。
──たしかに第3戦の鈴鹿はコーナリングコースで、予選、決勝ともに速かったですからね。ほかのコースはどうですか?
高根氏:岡山と富士と鈴鹿しか走っていなくて、SUGOとオートポリス、もてぎはまだ走っていないんですけど、もともとM4 GT3はボディが大きいのでハイスピードコースに合っていると思います。トリッキーなコースは苦手なんですけど、開幕戦の岡山は思った以上に走れましたからね。M6 GT3と同様に大柄なマシンでも戦えそうなので、SUGOやオートポリスも悪くないと思います。
──たしかM6 GT3が4400ccのV型8気筒ターボエンジン、M4 GT3が3000ccの直列6気筒ターボエンジンだと思いますが、燃費性能はどうなんでしょうか?
高根氏:エンジンも新世代になって良くなっていますね。排気量が小さいので過給圧はM6 GT3よりも高くなっていますが、パワーとしても十分だと思います。
──なるほど。ところで、GTA-GT300(旧JAF-GT)はベース車両との共通点は少ない印象ですが、FIA-GT3はどうなんでしょうか? ベース車両のM4とM4 GT3は何か共通点はあるんでしょうか?
高根氏:エンジンでいえば、ブロックとヘッドは量産車と同じですね。キャビンも量産車のモノですが、ボンネットやドア、トラックリッドも専用パーツです。あとは量産車の面影を残しているものとしてはヘッドライトぐらいですかね。
──ほとんどレース専用で、量産車とはまったく別物といった感じですね。
高根氏:もともとクラス分けでGT1、GT2、GT3に別れていて、GT3がもっともロードカーに近かったんですけどね。GT1、GT2がなくなり、GT3がグランドツーリングカーのトップカテゴリーになったことで性能を求めるようになり、いまのようなレーシングカーになったんだと思います。
──ところで、GTA-GT300はシーズン中も各チームで自由に改造ができますが、FIA-GT3はダメなんですよね?
高根氏:基本的にダメですね。自由に変えていい部品はホモロゲーションシートに乗っていないものだけなので、ブレーキパッドとエンジンオイルぐらいです。
──ダンパーもブレーキキャリパーも交換できないんですね?
高根氏:ダメですね。でも、作り込まれたクルマですし、パーツに関してもBMWモータースポーツより、いくつかバリエーションが設定されているので、日本のどのコースにおいても不満はなく走れると思います。
──なるほど。逆にいえば、このクルマを買ってしまえば、GTA-GT300のように独自にパーツを作らずに走れるわけですね。ところで、このクルマはいくらなんですか?
高根氏:ざっくり言えば6000万円です。
──安い! いや、マンションや一軒家が買える値段なので庶民からすれば高いけれど、トヨタGR86 GTが1億円ということを考えるとお得な気がします。
高根氏:お得ですね(笑) ただし、どうしても輸入車なので、為替レートが影響してきます。
──輸入車という部分ではスペアパーツのロジスティックなんかも気になりますが、その辺りは大丈夫なんでしょうか?
高根氏:外装パーツはすぐに来ますよ。でも、モノコック交換とかになるとどうなるかわかりません。
ドライバーからも好印象! ポイントは「コーナリング性能」
以上、高根氏にGR86 GTの特徴を解説してもらったが、実際のフィーリングはいかがだろうか? というわけで、BMW Team Studie × CSL でM4 GT3を駆るレギュラードライバーの2人、アウグスト・ファルファス選手および荒 聖治選手にインプレッションしてもらった。
──M6 GT3とM4 GT3はまったく違うクルマですか? それとも似ている部分はありますか?
ファルファス選手:完全に違うクルマだよ。M6 GT3の良いところをキープしながら、ゼロから作り上げたクルマだからね。すべてが新しいマシンだよ。
荒選手:M6 GT3とM4 GT3は違うマシンで、M4はコーナリングマシンになっていますね。M6はハイスピードが速くて富士を得意としていたんですけど、M4はコーリングが速くて鈴鹿に合っています。それにエンジンもV8から直6になったことでフィーリングもまったく違います。
──M4 GT3の最大の特徴は?
ファルファス選手:とても運転しやすいところ。M6 GT3は少し難しかったけれど、M4 GT3はジェントルマンドライバーがドライビングしても好タイムをマークすることができる。スーパーGTはタイヤがコンペティションで、すべてのレースで異なるタイヤが使われているし、タイヤのマッチングによってはアップダウンするけれど、クルマのフィーリングに助けられている。とくにM4 GT3はハイスピードコーナーを得意とするから鈴鹿は合っていると思う。
荒選手:たしかにスーパーGTはタイヤの要素は大きいですよね。でも、マシンとしては重量バランスが良くなっているし、空力面も良くなっている。ダウンフォースが進化しているし、ボンネットのダクトも大きくなってエンジンがコンパクトになったことで、エンジンルーム内の風の流し方も変えられる。M4 GT3はクルマのパッケージとして、トータルで良くなっている。その結果としてコーナリングが良くなっていると思います。どこのコースにいっても安定して走れると思いますよ。
──量産モデルと共通点はありますか?
ファルファス選手:エンジンのフィーリングは量産車と似ている部分はあるけれど、それ以外はまったく違うかな。
荒選手:GT3はレーシングカーなのでまったくの別物ですけど、グリルが大きくなったM4は以前のクルマよりシャープに曲がるようになった。量産モデルで鈴鹿を走っても速いので、そもそもベース車両が進化している。そういったキャラクターはGT3にも引き継がれていると思います。
──手応えはありますか?
荒選手:M4 GT3とミシュランタイヤというパッケージでスーパーGTを戦うのは1年目ですが、第3戦の鈴鹿で勝てましたし、ミシュランの戦略も信頼しているので手応えはあります。これからもっと良くなってくると思います。
残念ながら第5戦の鈴鹿で同チームのM4 GT3は予選23位、決勝12位に終わったが、最新のFIA-GT3車両として高いパフォーマンスを持つだけに今後の躍進に注目したい。
なお、第5戦の鈴鹿では、平峰一貴選手/ベルトラン・バケット選手の12号車「カルソニックIMPUL Z」がGT500クラスで最後尾から逆転優勝。GT300クラスでは谷口信輝選手/片岡龍也選手の4号車「グッドスマイル初音ミクAMG」が優勝している。
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