2024年シーズンは、多くのF1チームがアップデートに失敗し、パフォーマンス向上の足枷となった……そういう事例が目立っている。それらには、共通するテーマがひとつ存在する。車体のバランスの問題に悩まされたということだ。
最近ではマックス・フェルスタッペンが今季のレッドブルのF1マシン”RB20”が「モンスターに変わってしまった」と不満を漏らした。またフェラーリはアップデートを投入したことで高速域でバウンシングに悩まされることとなり、メルセデスも特に予選でナーバスなマシンの挙動に苦しんだ。またアストンマーティンも、昨年の躍進から打って変わって、今季は開幕から苦戦している。
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いずれのチームも、アップデートを投入したことでダウンフォースは増加したものの、ハンドリングのフィーリングが悪くなるという副作用を伴うという、ほぼ同じシナリオを経験してきた。
多くのチームが同じ問題に苦労したのは、決して偶然ではない。いずれも、現行のグラウンド・エフェクトカーに内在する技術的な課題が、徐々に明らかになってきたということに起因しているとみられる。
その中心にあるのは、ふたつの性能要因がハンドリングを左右するということだ。ひとつは速度変化によってダウンフォースの発生量が変わり、路面と車体の距離も変わるということ。そしてサーキットを1周走るうちに、タイヤの温度が刻々と変わるということだ。
これらの要素はいずれも動的であり、チームが完璧な解決策を見つけるのはほぼ不可能。最悪ではない、妥協点を追求することを余儀なくされている。
これらのことは、以前から指摘されてきた。メルセデスのテクニカルディレクターであるジェームス・アリソンは昨年末、現在のマシンでダウンフォースを発生させる時の苦労について打ち明けた。
「現在のルールには、マシンの車高が下がれば下がるほどダウンフォースが大きくなるという、根本的な難しさがある」
そうアリソンは語った。
「それは無制限ではない。ストレートエンドで車体が路面に磁石のようにくっつくというのは、望ましくない。なぜなら、ストレートエンドでコーナーを曲がるわけじゃないからね」
「もしそこが最大のダウンフォースを生み出す場所であるならば、それは単に空気抵抗を生み出すだけだ。だから、ストレートエンドで生じる負荷に対処するためには、スプリングを硬くするか、車高を高くする必要がある」
「車高が高いということは、ダウンフォースを発生させられる場所に車体がないということだ。つまり、スプリングが硬いということでもある。現在のマシンでは、路面に一番近いところにダウンフォースの宝庫がある。そこにたくさんのダウンフォースがあるんだ。しかしその一方で、ストレートエンドを乗り切る必要もあるんだ」
「つまりストレートエンドのダウンフォースが車高を無駄に消費してしまい、その分低速で不利になってしまう。そういうある種の限界があるんだ。そして低速域でパフォーマンスを失うことなくストレートエンドで発生する負荷を支えることができなくなる。ストレートエンドでダウンフォースが出ていても、もはや速くはないんだ」
「誰もが、ストレートエンドでそれほどダウンフォースが発生しないようにしている。そしてそのすぐ近くで負荷がかかるようになっている。なぜなら、ストレートエンドのすぐ先には、通常は高速コーナーがあるんだ」
「また低速走行時には、車体が路面から浮き上がってしまい、ダウンフォースを失ってしまうのが常だ。にもかかわらず、十分なダウンフォースを維持する必要もある」
ダウンフォースの変化
各チームは今年、こういう妥協にさらに苦労しつつあるようだ。アストンマーティンのエンジニアリングディレクターであるルカ・フルバットは、現在のマシンに起きていることを説明するのは非常に簡単だが、それを克服するのは非常に難しいと示唆する。
F1で問題となっているバランスの問題について、フルバットは次のように語った。
「これは我々の問題だが、チームの無線を色々と聞いていると、かなり一般的なことのように感じられる」
「現在のマシンは、コーナーに進入する段階で旋回するのが難しい。空力のプラットフォームは、旋回中の様々な段階で、フロントに悪影響を及ぼしながらも、リヤに負荷をかけるのに役立つと言えるだろう」
「つまりコーナー進入時にニュートラルなマシンであれば、エイペックス前まではアンダーステアになり、コーナー出口ではオーバーステアになることがある。以前はそれほど極端ではなかったこの変化は、これらのマシンが非常に高いダウンフォースを発生するようになっているため、ますます明確になってきている」
フルバット曰く、現行のレギュレーションが2022年に導入されて以降、ダウンフォース量は約45%増えたと示唆する。このことは、チームがパフォーマンス向上を目指しながらもポーパシング(フロア下で発生するダウンフォースが増減することで、車体が上下に跳ねるように動いてしまう現象)を引き起こすことなく、常に綱渡りのような形でマシンを走らせていることも意味している。
「マシンの下の空気の流れが適切であるため、バウンシングが少し減ると、ダウンフォースを少し増やすためのアップデートを試みることができるようになる。すると、ポーパシングが戻ってくる」
そうフルバットは語る。
「このレギュレーション下でのマシン開発を進めれば進めるほど、バウンシングが発生するリスクが高まる。これは2025年末までは対処しなければならないことだ。そして、2026年に別のレギュレーションを導入する理由のひとつになっていると思う」
「ドライバーたちは、公には言わないものの、ポーパシングについて不満を言っていて、腰痛を訴えるドライバーも数人いる。これは、対処が必要なレギュレーションの要素だと思う」
しかし完璧なラップを走るためには、ダウンフォースの問題に対処するだけでは不十分だ。なぜなら、前述の通りタイヤの挙動も重要だからだ。基本的には、片側のタイヤがもう片方のタイヤよりも発熱してしまうと、グリップのレベルが安定せず、オーバーステアやアンダーステアが過剰になってしまう。つまり、トラブルの原因になる可能性があるのだ。
フルバットはこれについて、次のように続けた。
「車体のフロアを上下させる空力的な力によるマシンの挙動変化だけでなく、タイヤのグリップがどう変化するかも重要だ」
「モンツァの予選で、アウトラップのウォームアップの手順が、全く異なるモノになったのは偶然ではない」
「予選では、レースで見られるよりも深刻になる可能性があるバランスの問題を隠すため、タイヤを特定の温度まで上げようとするものだ」
フロントウイングの問題
バランスの問題を解決するのが難しいのは、パフォーマンスに影響を与えるエリアが以前とは大きく変化し、今ではフロアが最も重要な要素になったためだ。
以前は各チームとも、マシンのバランスを整えるために、フロントウイングのデザインを活用していた。しかし今ではフロントウイングは、それほど大きな影響を及ぼすツールではない。
フルバットはこれについて、次のように付け加えた。
「以前のレギュレーションでは、ダウンフォースはフロントウイングで1/3、フロアで1/3、リヤウイングで1/3を発生していた」
「そのため、ダウンフォース全体の約7割をフロアで発生するようになった今のマシンと比較すると、バランスを調整するという面で、ウイングがより重要だったのだ」
「バランスを取るためにフロントウイングが果たせる能力は、実質的に半分になってしまった」
最近では一部のチームがフロントウイングを故意に動かす……つまりフレキシブルウイングとして活用しているのではないかとして、話題となっている。これも、よりバランスを取るための施策である。低速でのアンダーステアと高速でのオーバーステアを克服するための最善の方法のひとつは、空力の負荷に伴い角度が変化するウイングを使うことだと、各チームは認識したのだ。
ウイングの角度を変えることで、低速コーナーで追加のダウンフォースを得ることができる。また高速走行時にはウイングが寝る格好となるため、空気抵抗を削減することができる。このフレキシブルウイングを使うことができなくなれば、バランスの問題に対処する上で、さらに苦労することになろう。
FIAはこの点において2025年から変更すべきか、それを見極めるために様々な検証を行なってきた。しかしフルバットは、状況が変わることはないだろうと考えている。
「2025年のレギュレーションを変更する意図はないと思う。なぜならルールで許されている中でウイングが曲がるという事実は、マシンの最適なバランスを見つけようとする試みの一部だからだ」
そうフルバットは言う。
「これは、グラウンド・エフェクトマシンの必要悪だと思う。より硬いウイングでは、ドライバーがコントロールするために有効なセットアップを見つけることはできないだろう」
結局のところ、今季多くのチームがバランスに苦労していることは、現行のレギュレーションが非常に複雑であり、それに対処するためにさらに複雑な妥協が必要であったということを示唆している。そして2026年に次世代のレギュレーションが導入されるまで、バランスに関する悩みは尽きないということだろう。
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