一時期は街のあちこちで見かけたビッグスクーター。
その中でも「メガ」と呼ばれたビッグバイク・スクーターがあった。
みんな、ちょっと忘れているこんな快適な乗り物があったのだ。
※月刊オートバイ2018年6月号「現行車再検証」より
巨体なのに俊敏で、重量車だから力強い/スズキ スカイウェイブ650LX
それは2000年代の訪れとともにやってきた。ヤマハ・TMAXと、ホンダ・シルバーウィング。TMAXは500cc、シルバーウイングは600ccの「ビッグ」スクーターだ。
開発者に聞いた、ヤマハ「セロー250 ファイナルエディション」
当時の日本は、実はオートバイの販売が不振を極めていた時期で、唯一といっていい、元気のいいカテゴリーが、この「ビッグスクーター」だった。
ビッグスクーターとは、主に250cc以上のスクーターの俗称。1995年に発売されたヤマハ・マジェスティ250が徐々に人気になって、ライバルも続々誕生。本当は、マジェスティよりも先に、ホンダがスペイシー250フリーウェイを発売していたんだけれど、ビッグスクーター人気に火をつけたのは、マジェスティの方だった。
ひとつのカテゴリーがウケると、どんどんシリーズ展開、拡張していくのが世の常で、ビッグスクーターは250ccから400ccへ、そしてTMAXとシルバーウイングにたどり着く。
その2台に続いたのが、スズキ・スカイウェイブ650LXだった。
排気量は、当時のビッグスクーターで世界最大の650cc! DOHC4バルブ水冷2気筒エンジンを搭載していたから、排気量がほぼ2倍の「GSX1300Rハヤブサ」を半分にしたエンジンともいわれ、スズキ独自のキャラクターを持たせた。
それが「グランドツーリング」(=GT)としての性格づけ。車体剛性を高く、スポーツバイクを目指したTMAX、400と同じ車体で600ccの割には軽量コンパクトさを狙ったシルバーウィングに対し、大排気量ならではの押し出し、ビッグサイズならではの快適な乗り心地を狙ったのがスカイウェイブだった。
なにしろシルバーウイングより30kg、TMAXより60kgは重かった。もちろん、理由あっての、この重量である。
「メガスクーター」とも呼ばれる、500cc超のビッグスクーターは今、存在感を薄くしている。快適で乗り心地がいい、ということは、退屈でスポーティでない、ということにもつながりかねないからだろうか。
けれどスカイウェイブに、乗るべき理由があった。それが、ライバルにはない「超個性」だ。
クルマの世界ならわかりやすいけれど、長距離を走るとき、排気量とボディサイズは大きい方が快適だ、ってことがある。
もちろん、サスペンションやボディ剛性の設定にもよるけれど、スカイウェイブはここを狙っている。スカイウェイブの個性とは、大きくて重いこと。車体剛性も高くなく、サスペンションが良く動く。これが、すべて「長距離を快適に走る」ってことに向かっているのだ。
大きくて重いことのデメリットは、丁寧に消してある。この車体とサイズを選んだ時点で、動きが緩慢で、ハンドリングが重いというネガを出さないよう、出さないように作り込んだのだろう。
開発のコンセプトは「エレガント・コンフォート」。上品で、快適。そこにはスポーツ心を刺激するような匂いは感じられない。いや、感じさせない。
日本ではなかなかお目にかかれない、毎日100km単位の移動をオートバイで、という環境。イタリア・ミラノや、スペイン・マドリッドで見る、郊外からシティセンターに通ってくるスーツ姿の通勤スクーターたち。
例えばそれは、日本でいえば小田原や宇都宮あたりから都内に、しかも高速道路を使って通勤する、というケース。そうなれば、僕はきっと新幹線通勤よりもスカイウェイブを選ぶ。
静と動の差が大きいハイパワーGTだ
装備重量280kg、僕の体重と合わせて350kgを越える車体は、確かに取り回しがズッシリくる。
狭いガレージから引っ張り出すときも、おっとっと。グラマラスなボディも、しばらくは車体感覚がつかめず、あちこちボディをこすりそうになる。
けれど、この緊張感もまたがって走り出すまで。しつけ良く、アクセル開けはじめの力の出方が穏やかだから、この巨体をスッと前に走らせやすい。
アクセルへの反応も、カドがなくドンツキ感がない。特に低速域は、ギクシャクが出てしまうと、とたんに巨体を持て余してしまうから、すごく繊細に力を出しているのだと思う。
スピードに乗ると、振動が少ないのがよくわかる。それでいて、パッとアクセルを開けたときの反応がシャープで、スピードのノリがいい。このあたりから、人車あわせて300kgオーバーということを忘れ始めるのだ。50/125ccとは言わないけれど、ちょっと車体が大きめの250ccのような感覚。
アクセル開度が小さければ穏やかに、大きく開ければドンとダッシュするスカイウェイブ。スクーター的構造である、スイングアームとエンジンが一体となったユニットスイングを使わず、エンジンを車体中央に積んでいるから、スクーターにありがちなリアヘビー感がなく、自然なハンドリングだ。
でも、やはりスカイウェイブが輝くのは高速クルージング。80km/hでエンジン回転数は3000回転+αくらいで、振動もなく、サスが路面の凹凸をきれいに吸収してくれるフィーリングを味わうことができる。
そこから加速する瞬間もスカイウェイブの楽しさで、そのまま開けるもよし、左スイッチにあるパワーボタンを押してからでもよし、それでも一番キビキビ走るのは、マニュアルミッションに切り替えて、手動でシフト操作して走る時だ。
ちなみにパワーボタンは、1500回転ほど回転が上がって、マニュアルミッションでいうとシフトダウンしたような感覚で使える、いわばキックダウンスイッチ。マニュアルミッションは、左手でシフト操作をする6速ミッションだ。
この、クルージングの平和さと猛烈な加速の二面性は、なかなかほかのモデルでは味わえない。ハヤブサだってこんな差は感じないからね。
大きくて重いボディのネガを感じさせないためか、ハンドリングは異常に軽く、ヒラヒラ感を全面に押し出している。特に、高速走行のレーンチェンジや、スピードに乗っているときの切り返しなど、アレッと思うほど軽快。このポイントこそ、スカイウェイブで実現したかったキャラクターなのだと思う。
試乗の時、にわか雨を食らったから、走りながら電動スクリーンを上げ、グリップヒーターとシートヒーターをスイッチON。
走ってるときに体に当たることはなく、気が付けば雨の中を1時間ほど高速走行! もちろん、走り終わって緊張することもなく、疲れも感じなかった。これがグランドツーリング、これがスカイウェイブなのだ。
スカイウェイブ650LX の特徴を解説
スカイウェイブ650LX の足つき性と燃費をチェック!
写真のライダーは178cm/80kg。フロアボードの足を下ろすあたりがえぐられているから、ボディ幅のイメージよりも足つき性は良好。
ただし、車重が300kg近いこともあって、取り回しは慎重に。
シートはバックレストが50mm可動、年の半分はありがたすぎるシートヒーターは、ライダー側/ライダー+タンデム側/オフを切り替えられる。
今回は走行約500km。
平均燃費は、23.5km/Lでした!
文:中村浩史/写真:森 浩輔
SUZUKI SKYWAVE 650LX 主なスペック
[エンジン] 水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ
[排気量] 638cc
[ボア×ストローク] 75.5×71.3mm
[最高出力] 53PS/7000rpm
[最大トルク] 5.9kg-m/4750rpm
[変速機形式] Vベルト無段変速(6速マニュアルモード搭載)
[全長×全幅×全高] 2265×810×1420mm
[ホイールベース] 1585mm
[シート高] 760mm
[車両重量] 281kg
[燃料タンク容量] 15L
[タイヤ前・後] 120/70R15・160/60R14
[ アルバム : スカイウェイブ650LXの写真をまとめて見る! はオリジナルサイトでご覧ください ]
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