特別仕様車『990S』はファンも納得でベストセラーに!
昨年12月16日に商品改良を受けた、マツダ・ロードスターに試乗することができた。今回の改良における最大のポイントは、キネマティック・ポスチャー・コントロール(KPC)の全グレード採用で、特別仕様車として『990S』が登場したのも話題だ。
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KPCは聞いたことのないワードだったが、キネマティック・ポスチャーを意訳すると、運動・姿勢となり、それをコントロールするための機構ということになる。具体的には後輪左右の速度差からコーナリング状態をリアルタイムに検知し、旋回中リア内側へわずかにブレーキをかけることで、その姿勢を安定させるというもの。
これは元々ABSなどのために付いている車速センサー、エンジンのコントローラー、横滑り防止のためブレーキをコントロールするESCをそれぞれ活用するため、追加パーツゼロ、つまり重量を1gも増やすことなく実現しているのがキモとなる。
ちなみに世界初の技術ということで、ニュルブルクリンクの旧コースでこのシステムのため200ラップはテストし、ブレーキの摩耗増加や温度上昇がないことを確認済み。さらに社外品のブレーキパット、ローター、タイヤを装着しても影響がないことまでテストしたという念の入れようだ。
一方の990Sは、特に期間は限定していない特別仕様。ベーシックグレードである『S』をベースに、レイズ製16インチアルミホイール(ZE40 RS)を装着し4本合計約3.2kgバネ下を軽量化。フロントにブレンボ製大経ブレーキディスク&4ピストンキャリパー(ブラック塗装ブルー文字)、リアに大経ブレーキディスク&キャリパー(ブラック塗装)をそれぞれ採用し、スプリングレートは少し上げつつ、逆にダンパーは伸び側の減衰を緩めてしなやかに動くセッティングに変更している。
また、電動パワーステアリングは車重が軽くなったぶん軽薄にならないよう少し重くし、トルクの応答性を少し早める、スロットル制御をわずか軽快な方向にセッティングしている。当初エンジン関係は予定になかったが、横目に見ていたエンジン担当者が、それならば参加させて欲しいと加わったそう。また幌は新色のダークブルーとし、エアコンのルーバーにもブルーを採用した。
990Sの車名は、Sの車重が990kgで、とある広島在住のSオーナーが元々『990S』と呼んでいて、ステッカーを作るなどしてロードスター・ファン同士で楽しんでいたため、開発陣も990Sと呼んでいたという。今回はご本人に許可を頂いたうえで、その軽さをアピールすべく商品名に採用したそうだ。
厳密に言うとSと990Sの重量はイコールではないが、国土交通省の認証する数値が5kg単位で四捨五入となり、990kgは985~994kgとなる関係で、登録上は両方とも990kgとなる。いずれにせよ1tを切っている新車で買えるFRオープンスポーツカーは今やケーターハム・セブンくらいしかなく、世界遺産級の貴重かつ偉大な存在だと真剣に思っている。
KPCの効果は抜群!コーナリングがより楽しく!
今回の試乗では、KPC非装着となる商品改良前のSと990Sの両方に乗ることができて、結論から言えば、これまでベストバイだと思っていたSを超える感動レベルの仕上がりだった。
走り出しは、直進安定性が増した? と思わせるステアリングの重さにクルマの質感を覚え、コーナリングでは内輪側のタイヤがぐっと踏ん張っているのが身体の右下を通じて伝わってきて、KPCの効果が絶大であることはすぐにわかった。ちなみに別グレードでKPCのオンオフも試すことができて、990Sだけの効果でないことも確認ずみだ。
今回KPCを開発したのは、ND型ロードスターの乗り味を作り、Gベクタリングコントロールの開発を主導したことで知られる、「24時間365日ダイナミクスのことしか考えていない」(本人談)、マツダの走安性能開発部の梅津大輔氏。
そんな梅津氏に試乗後のオンラインインタビューで、Sに対してこれまで抱いていた印象を踏まえ、こんな質問をしてみた。それは、『Sはベストバイだと思っていて一番好きだが、コーナリングでちゃんと荷重をかけて上手に曲げないとキレイに走らない印象があった。そういったクルマへの"征服欲"みたいなものが990Sでは感じられなくなったが、そもそもSのそういった部分は、開発としてよしとしてきたか。だから990Sのようなクルマを作ったのか』という趣旨だ。
すると梅津氏は、クルマには仕方なくコントロールする修正操作と、純粋にコントロールする運転操作の2種類があり、前者はクルマ側に落ち度があると説明。余計なことはせず、シンプルに運転に集中すべきで、ネガを抑え込むドライブは本質ではないそう。
ロードスターは低速での"ヒラヒラ感"が愉しいと好評の一方で、高速・高G領域で頼りない部分も、これは初代からの課題として抱えていた。梅津氏はロードスターをベースとしたアバルト124スパイダーや、Gベクタリングコントロールなどの経験で浮き上がりを抑制することにブレイクスルーを見つけ、それを電子デバイスではなく、キネマティック・ポスチャー、つまり"運動・姿勢"で制御することで解決したのである。
2019年5月から開発主査となった齋藤茂樹氏は、今回狙い通りのクルマができたと胸を張り、ロードスターのファンミーティングで、軽さをリスペクトし、これぞロードスターだと誇って乗っているSオーナーの多さに驚いたと教えてくれた。そんなファンのマインドに合致したのだろう。990Sは2021年9~12月平均で26%の販売比率となり、11月以降は最量販車種となった。
2015年のデビュー以来6年以上が経過する中、もはやこれが完成形ではないかと思わせる進化を果たしたND型マツダ・ロードスター。最後に990Sの価格が289万3000円と聞けば、心がときめく方も少なくないはず。かくいう筆者もそのひとりであり、自信を持って、これは買って後悔しないクルマだと断言したい。
【Specification】マツダ・ロードスター990S
■全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
■ホイールベース=2310mm
■トレッド(前/後)=1495/1505mm
■車両重量=990kg
■エンジン型式=直列4気筒DOHC16バルブ
■内径/行径=74.5×85.8mm
■総排気量=1496cc
■最高出力=132ps(97kW)/7000rpm
■最大トルク=152Nm(15.5kg-m)/4500rpm
■トランスミッション=6速M/T
■燃料タンク容量=40L(プレミアム)
■サスペンション=前:ダブルウィッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ディスク
■タイヤサイズ=前&後 195/50R16
■車両本体価格(税込)=2,893,000円
今回併せて試乗した新規追加機種『ロードスターRF VS テラコッタ・セレクション』。プラチナクォーツメタリックのボディーカラーが非常にエレガントな雰囲気だ。
インテリアにはリラックスする大人の休日をイメージしたという新色『テラコッタ』を採用している。
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みんなのコメント
限界こえて内輪が空転した場合はどうなるんだろう