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「ニュルブルクリンクこそ我が人生」ノルトシュライフェに取りつかれた人々

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「ニュルブルクリンクこそ我が人生」ノルトシュライフェに取りつかれた人々

90年の歴史を誇る世界屈指の難サーキットの抗えぬ魅力

ニュルブルクリンク・・・。

「ニュルブルクリンクこそ我が人生」ノルトシュライフェに取りつかれた人々

ドイツ・エイフェル地方にあるこのサーキットは、90年以上にもわたって多くの人を惹きつけてきた。それは恐怖ゆえだろうか。この地を訪れた人は、アスファルトを越えたストーリーを伝え続けてきた。ノルドシュライフェ(北コース)は、常に彼らの心の中に思い出として存在している。

90歳という年齢であれば、ストレスから解放されて気楽に生きても許されるだろう。そう、立ち止まって過去に目を向けてもいい。気候も変わればファッションも変わる。テクノロジーはいうまでもなく大きく進化を遂げた。

ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェにおいて、初めてレースが開催されたのは1927年6月18日のこと。現在のコース全長は20.832kmと当時より短くなったものの、数えきれないほどのコーナーやアップダウンは当時のままだ。標高800mの山と谷をリボンが縫うようにコースが走り、その高低差は実に300mにも及ぶ。そしてかつての剥き出しコースは、現在クラッシュバリアとFIA規定に則ったフェンスが設置されている。

かつて「近づいてくる車両もなく、速度制限のないシングルトラックの田舎道」と言われていたこの偉大なトラックは、この地に住む人たちによってその歴史や遺産が守られ続けている。

リンク・タクシーのドライバー、サビーネ・シュミッツ

47歳のサビーネ・シュミッツ(Sabine Schmitz)はレーシングドライバーであり、英国の人気テレビ番組「トップ・ギア(Top Gear)」のプレゼンターとしても知られている。彼女こそ、数万ラップもノルドシュライフェを走行してきた人物だ。

サビーネが初めてノルドシュライフェを走ったのは、自転車でだった。その後、こっそりと母のクルマを拝借し、さらに自分自身が購入したフォルクスワーゲン ポロ GTでもアタックしている。

「父がタイヤ代を払ってくれたんです(笑)。これまでにノルドシュライフェを3万ラップくらいは走っています。言い換えれば、60万km以上を走破したことになりますね」と、サビーネは肩をすくめた。

彼女はチケットを購入することでレーシングドライバーとノルドシュライフェを同乗走行できる「リンク・タクシー(Ring Taxi)」のドライバーを務めており、ニュルブルクリンクでは幾度となくレースを戦っている。24時間レースでは3度の総合優勝を飾り、VLN(ニュル耐久シリーズ)でも6勝を挙げた経験を持つ。

ホテルを継がずにレーシングドライバーの道へ

サビーネは、パートナーであるクラウス・アブベレンが運営するフリカデリ・レーシング・チームの一員として幾度となくポルシェをドライブした。夫妻は現在もニュルブルクリンクからほど近いバルヴァイラーにある牧場に居を構えており、今シーズンもアメリカとカナダからのジェントルマンドライバーと共に、レースを戦うことになっている。

サビーネの実家はニュルブルクリンク・ノルドシュライフェにある「ホテル・アム・ティアガルテン(Hotel am Tiergarten)」。ソムリエやホテルマネージャーとしての教育を受けてきた彼女はホテルを継ぐことになっていたが、家族の希望にはそえなかったという。

「レースが本当に大好きだったんです。祖母は本当にイライラしていましたけど(笑)。彼女はレーシングドライバーなんて、男の仕事だと思っていましたから。でも、毎日ジャガイモの皮を剥き続けるなんて、私の性に合っていなかったんでしょうね」

乱痴気騒ぎを繰り広げていたかつてのドライバーたち

母親のウスキ・シュミッツ(75歳)は、娘がニュルブルクリンクとのつながりを強く感じている理由をよく理解している。

「私でさえ、子供の頃はニュルブルクリンクで働きたいと思っていましたからね」

レース界のビッグネーム達は誰もがホテル・アム・ティアガルテンに宿泊してきた。勝利を祝っている時に、シャンパンの栓で幾度となく天井の照明が壊されている。あるレーサーは決勝前夜に乱痴気騒ぎを繰り広げていたそうだ。ウスキはそれが噂話ではないと教えてくれたが、今日ではもうそんなワイルドな話は考えられないだろう。

「最近の若いドライバーたちは、みんなお利口ですからね(笑)」と、ウスキは片目をつぶった。

レーサーが愛する名物レストラン「ピステンクラウゼ」

ホテルの地下1階には有名なレストラン「ピステンクラウゼ(Pistenklause)」がある。ここのボスは、54歳のパトリツィオ・ペルシアーニだ。彼はこの地域でいくつかのレストランを所有している。

「ポルシェ カイエンを運転しますが、ニュルブルクリンクはどっちに行ったらいいのか分からないんですよ(笑)」

彼は20年間、ニュルブルクリンクを訪れた人たちに厳選したイタリアワインとパスタをサーブし続けてきた。それでも、実際にニュルブルクリンクを走ったのはたった6回しかないという。そのうちの1回は、サビーネの助手席で体験している。

「あのラップは決して忘れられません。あまりにも怖くて漏らしちゃいそうでしたから(笑)」

ピステンクラウゼの炭焼きのフィレステーキは、訪れた客の間でカルト的な人気を誇るメニューだ。ハリウッドスターであり、ポルシェでレースを戦うパトリック・デンプシー、ロシアの大富豪ロマン・アブラモヴィッチら、ノルドシュライフェに魅せられたセレブリティは、いつも彼のプライベートルームを訪問する。

彼らにとってこのレストランは、日常からかけ離れた気晴らしを提供してくれるのだ。その証拠はピステンクラウゼの壁に何百枚と貼られている、古いレースのポスター、サイン、そしてスーパースター達のレースデビューの光景から見て取れる。

ニュルブルクリンクの歴史を見守ってきたグランパ・ストラック

89歳のライナー・ストラックは、ニュルブルクリンクとほぼ同い年の人物だ。「グランパ・ストラック(ストラック爺さん)」の愛称を持つ彼は、1896年生まれの父親から、ニュルブルクリンクのトラックキーパーの職を受け継いでいる。

「父はノルドシュライフェの建設を手伝い、その後、ニュルブルクリンクで生涯働き続けました」とストラックは典型的なアイフェル訛りで説明してくれた。

現在でも、ほぼ毎日ノルドシュライフェから200mほど離れた自宅からサーキットへと向かい、チケットの売り上げをチェック。息子であり後継者のアレクサンダー・ストラックが出してくれた朝食を採っている。「ここで何が起こっているのか、しっかりチェックしないとね」と、ストラックは笑う。

第二次大戦後間もなく、この地域唯一にして最大の雇用主であるニュルブルクリンクに就職し、1958年から1995年に引退するまで、父親と同じトラックキーパーの職を務め上げた。

グランパからの注意を物ともせずクラッシュしたドライバー達

「今も活躍するクリスチャン・メンツェルや、ポルシェのテストドライバーを務めるティモ・クルックに、『スリッパリーなセクションがあるから、慎重にドライブしなさい!』とよく注意したことを覚えています」と、ストラックは懐かしそうに目を細めた。

「もちろん彼らは私の言葉なんて聞いちゃいませんでしたよ(笑)。すぐにバリアに衝突すると、タイヤが空転している自分のマシンを置いてスタート地点に戻ってきたものです。もちろん、リスタートはできませんでした」

ストラックは、ニュルブルクリンクを訪れる客層やクルマがかなり変わってきていることを指摘する。

「ここに集まるクルマはずいぶん変わりました。かつては多くの人がここにフォルクスワーゲン ビートルでやってきたものですが、車高が低くなりそして相当喧しくなりました。 キャンピングカーで来る人は今でもいますが、台所のシンク以外のすべての家具をここに持ち込んだ人もいましたね(笑)」

「コース脇の芝生はいつも被害を被ってきました。クラッシュバリアを超えてマシンが芝生に大きな穴を開けても、修繕費を払うことなく逃げてしまうのです。でも、バスやトラックでここを訪れる時代は終わりました。あえて不便を我慢してまでやってきませんから」

ポルシェでニュルブルクリンクを走りたいなら彼にコンタクト

ロン・サイモンこそ、ニュルブルクリンク・マイスターと呼ぶに相応しい人物だろう。

「13台のポルシェでスタートラインに立ちました。ノルドシュライフェに限らず、単純にポルシェは壊れない。だからこそ私たちRSR(Ron Simons Racing:ロン・サイモンズ・レーシング)はポルシェを使い続けてきたのです」

サイモン率いるRSR社では、ニュルブルクリンクのツアーやトラックデイへの参加、VLNやRCNシリーズへの参戦などを手がけている。コースコーチとしてコースレクチャーを受けたり、サーキットタクシーとしてコースを助手席から堪能することもできる。

「私は最後の手段と言えるかもしれませんね。たとえポルシェを買う余裕がなくても、ニュルブルクリンクでケイマンSやGT3 RSをドライブしたいならば、私にコンタクトを取ってください」

ヨアキム・レッテラートのミニカーコレクション

68歳のヨアキム・レッテラートは、有名なロングストレート「ドッティンガー・ホーエ(Döttinger-Höhe)」近くでガソリンスタンドを営んでいる。彼は、幾度となく激しいクラッシュシーンを目の当たりにしてきた。

「1960年代から70年代にかけて、多くのドライバーがクラッシュに見舞われました。サーキットの安全レベルも現在とは比較にならなかったのです。多くの悲しみの表情を私は見てきました。彼らが二度と自分でクルマをドライブできなくなったことを私は知っています。近年、安全レベルが大幅に向上したことを、神に感謝しなければなりませんね」

このニュルブルクリンク近郊にある唯一のガソリンスタンドは、給油やオイルの補充、タイヤの空気圧をチェックするだけの場所ではない。モータースポーツ・ファンが集う場所であり、食べ物やドリンク、雑誌やお土産を買うこともできる。そして、ホテルを併設するガソリンスタンドはすでに3世代目に至っている。

店に積まれたミニチュアカーの数を尋ねられたレッテラートは「たぶん10万台くらいかな?」と笑った。「大人の男性が夢のクルマを1/18や1/43のミニチュアカーに託すんです。その目が輝いているのを見ると、彼らの心の中で喜びが湧き上がっているのが分かります」

エイフェルガイストを飲みながら想い出を語る場所

ガソリンスタンドからわずか数km先にあるドリント・ホテルの「コクピットバー(Cockpit Bar)」には、72歳のオーナーのジョセフ・モレがいた。多くの常連客はこのバーを愛情を込めて「ジョセフ」と呼んでいる。

彼はバーの内装をレースの記念品、ポスター、エンジンパーツ、ドライバーのサイン、トロフィーなど、無数のアイテムで飾った。ここはニュルブルクリンクを訪れる人にとって必ず寄りたい場所であり、そこで起こったことを皆で共有する楽しみを味わえる。

カウンターの向こうにいるモレが白い手袋をしていると、客達は「何かがあった」ことを察する。それは劇的な勝利やポディウムフィニッシュ、または不運なアクシデントなのか・・・。

さあ、そろそろ冷えた地元の名物蒸留酒「エイフェルガイスト(Eifelgeist)」を楽しむ時間だ。

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