固着していたランプレディのエンジン
text:Alastair Clements(アラステア・クレメンツ)
【画像】フィアット128 1300CLと純EVになった最新のフィアット500 全44枚
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
フィアット128を長年大切に乗り続ける、サイモン・ハックナル。「父はキャンピングカーのフィアット・アミーゴを購入。特別な週末にも便利なクルマでしたから、128の出番はますます減少しました」
「128は祖父のガレージの隅に保管され、1980年代後半に少し走って以降、出てこなくなりました」。テッドはジェットエンジンの開発技術者で、危険がつきまとう環境にあった。中皮腫を患い、1999年にこの世を去ってしまう。
「父はジェットエンジンの耐熱材として、アスベストを塗っていました。温度が上昇するとアスベストが剥がれ、飛散するんですよ」。ハックナルが苦しそうな表情を見せる。
「父が亡くなってから、クルマを見に行きました。エンジンは固着。地元のガレージへ持っていくと、ピストンがサビていることがわかりました。ボア加工で、一回り大きいピストンを組む必要があったんです」
「車検を通してしばらくすると、タイミングベルトがコマ飛び。カムのタイミングが狂いました。再びエンジンのリビルトですよ」
しばらく128は眠っていたが、母が介護施設へ移ることになり、昨年にハックナルは再びガレージへ向かう。「実家を売却することになったのですが、一時解雇になったタイミングと重なり、フィアット128の問題も一緒に片付ける丁度いい機会になりました」
ハックナルは自身で128の復活を目指したが、ほどなくフィアットの専門ショップ、ミドルバートン・ガレージに作業を依頼した。「一見状態は良さそうに見えましたが、多くの問題が隠れていたんです」
ボディ以外はボロボロだった128
「エンジンは再び固着し、ブレーキも不動。ダンパーからはオイル漏れ。エンジンとブレーキは動くようにできたものの、自身での再起は困難だとすぐにわかりました」。苦笑いするハックナル。
「ミドルバートン・ガレージの技術者は見事でしたね。必要な部品は交換しつつ、できるだけ現状維持で作業してくれています。完全にオリジナル状態を保つことを、目標にしていました」
以前、タイミングベルトがコマ飛びした時に、バルブも変形していたことが判明し交換。カムプーリーとウォーターポンプも新調され、オルタネーターはオーバーホールを受けた。
フィアット128は乾燥した温かいガレージに保管され、第2世代として追加されたプラスティック製のホイールアーチ・モールのおかげで、ボディの状態は良かった。だが、それ以外はボロボロだったという。
「排気マニフォールドからマフラーエンドまで、排気系は完全に駄目でした。ブレーキディスクにキャリパー、ホース類も交換。サスペンションブッシュも、すべて新しい部品に置き換わっています」
スチール製のホイールは再塗装され、新しいピレリ・チンチュラートが組まれている。「オリジナルはミシュランXですが、合うサイズがありません。ホイールはきれい過ぎるので、少し光沢を鈍らせたいと思っています」
レストア開始から5か月後、2020年11月にフィアット128はハックナルのもとへ戻ってきた。無念にも母は、作業終了の1週間前に92歳で他界。仕上がった128へ乗せることはできなかった。
イタリア車らしい威勢のいい排気音
フィアットの工場を出てから40年以上。当時の姿を保つ128を目の当たりにしている事実に興奮する。「父はタバコを吸いませんでしたが、まれに葉巻に火は付けていました。その灰が灰皿に残っていて、掃除せずに残してあります」
「クルマが戻ってきて初めて運転した時は、思わず泣きましたね。1977年の頃のように、新鮮な体験でした。結局ほとんど運転しませんでしたが、父が愛していたクルマですから」
仮に家族の思い出が詰まっていなくても、真新しい状態のクラシックの運転は、とても特別なものだ。1970年代らしいブラウンのダッシュボードに、ブルーのトリムが組み合わされ、グラスエリアが広く車内は開放的。
ソフトで大きめのシートに座ると、ミニのようなドライビングポジションに落ち着く。ステアリングホイールは一風変わった2スポーク。威勢のいい排気音は、いかにもイタリア車らしい。
走り始めると、エンジンは期待通りに活発。滑らかに高回転域まで吹け上がり、元気いっぱい。ストロークの長い4速MTの変速感は正確。スルスルと快適に100km/hの巡航状態に移してくれる。
ステアリングホイールは低速域では重たいものの、速度が乗れば軽くなる。初期の前輪駆動車らしい、トルクステアもない。タイヤはボディ四隅にレイアウトされ、コーナーへ飛び込む姿勢も整っている。
クルマ全体のフィーリングがタイトでソリッド。新車時のメーカーの狙いが、そのまま残されている。ガレージに長年眠っていたことで少しカビ臭いのが、1977年との大きな違いだろう。
歴史の中の存在になってしまった傑作
ちなみに彼の息子も、自身の128スペシャルを所有しているという。フェイスリフト後のシリーズ1で、今でも一般道で元気に過ごしている。
英国レスターシャーの郊外の道を、真新しいフィアット128で駆け回る。1969年に欧州カー・オブ・ザ・イヤーの審査員へ与えた驚きを、充分に想像できる走りだ。現代的でスポーティ。ボクシーな見た目とは、相容れない。
英国ではアレック・イシゴニスがミニを発明したが、デザインの合理性を追求したダンテ・ジアコーサは、フィアット128を残した。しかし彼のマスターピースともいえるクルマが、歴史の中の存在になってしまったことが残念に思える。
今でも多くの人を楽しませている、アイコン的なミニとは大きな違いだ。努力を重ね、家族で乗り継ぐハックナルの128を除いて。
一家の家宝ともいえるピピン・レッドのフィアット128は、ジアコーサの傑作として、イタリアンな美声を英国人へ聞かせてくれる。新車当時のままに。
フィアット128(1969~1985年)のスペック
価格:2208ポンド(新車時)/1万ポンド(152万円以下/現在)
生産台数:77万6000台
全長:3856mm
全幅:1590mm
全高:1420mm
最高速度:144km/h
0-97km/h加速:14.6秒
燃費:14.0km/L
CO2排出量:−
車両重量:823kg
パワートレイン:直列4気筒1290cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:60ps/6000rpm
最大トルク:9.8kg-m/3200rpm
ギアボックス:4速マニュアル
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