今も現役の最古のクルマ: このSLのレジェンドは70歳。レーシングガルウィング初代メルセデスSLをAUTO BILD KLASSIKが駆った!!!
この厳しい寒さの中、オ-バ-シュヴァ-ベン地域のメンゲンの飛行場では、誰が誰からスターの座を奪っているのか、判断が難しいところだ。空のブガッティと言われる「アンティーク アエロフライヤー」の格納庫から舞い上がる、磨き抜かれた「ライアンSTA」だろうか?あるいは、開いたドアが2枚の羽のように宙に浮いているクルマだろうか?
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その問いに答えたのは、タービンを唸らせながら誘導路を通過するビジネス機のパイロットである。双発機の「Phenom 300」に小刻みにブレーキをかけ、ボンネットに大きな青い星をつけたシルバーのスポーツカーを指差して、親指を立て、誘導路に向かって飛び出す。
メルセデス300SLは、計り知れない価値を持つ名車である 我々も「300SL」の離陸の準備に取り掛かる。でも、その前に深呼吸をしなければならない。目の前に立つメルセデスは、親しみやすい車というより、魅惑的な芸術品というべき一台で、スポーツカーの歴史に残る世界文化遺産として、計り知れない価値を持つ名車である。70年前にすべてが始まった。「レーシングスポーツカー」と呼ばれるオリジナルモデル、ファクトリーコード「W194」で、現在、現役で走る最古の「300SL」だ。
パイロットのコックピット: ステアリングホイールはリリースレバーで、ハブから外すことができる。クランク型のシフトノブは、初期のシリーズ生産車である300SLにも採用された。そして、1952年5月、ルドルフ カラッチオラが「ミッレミリア」に出場し、同年の「カレラ パナメリカーナ」で、シュトゥットガルトのチームのダブル優勝に貢献した一台だ!ナンバ-5(5号車)の車両は、現在も「ウォーペイント」と呼ばれるランプ周りの青いアイラインを残している。モータースポーツファンなら、そのモチーフに鳥肌が立っていることだろう。
市販のガルウィングより快適しかし、畏敬の念を抱くだけではスマートにはなれない。それでは、レッツゴー!1954年以降に生産された「市販の」ガルウィングモデル(W198)よりも、乗り込みが楽なのにまず驚く。W198はステアリングホイールをヒンジで傾けるだけなのだが、「W194」は、有名なモータースポーツのヒーローたちの手汗でなめされた木製のハンドルが完全に外れるのだ。
また、膨らみのある革張りの代わりに、ハイサイドボルスター付きのフラットなレーシングバケットが装着されている。そして、異様に幅広い敷居をまたいで脚を滑り込ませるアクロバティックな動きだけは変わらない。
目の錯覚: シートシェルの幅が実際より狭く見える。キッチンタオルルックのチェック生地は、その後、市販モデルにも採用された。今となっては幸運だったとしか言いようがない。当初、「W194」には、サイドウィンドウよりわずかに大きいアクセスハッチがあるだけだったのだ。これは、「ル・マン24時間レース」で、ハーフサイズのドアを要求するオートモビル クラブ ドゥ ルエストに、メルセデスのレーシングディレクター、アルフレッド ノイバウアーが譲歩したものであった。
すべては台所のテーブルから始まった「300SL」の象徴でもある「ガルウイングドア」は、デザイン的なギミックではなく、ある種の必然性でそうなったものだ。骨格は筒状のスペ-スフレ-ムで、通常のドアでは側面が広すぎて入りきらない。このアイデアは、メルセデスの伝説的なテスト責任者であるルドルフ ウーレンハウトのものである。ハンダ線で作ったミニチュア模型を台所のテーブルでいじっていたが、曲げられなくなり、応力がかかった部分は引っ張りで割れたり、圧力で壊れたりしたという。
その頃は、お金も資源もない時代だったが、工夫はいくらでもできた。1951年当時、ウンタートゥルクハイムの工場の一部はまだ廃墟のままだったが、メルセデスのイメージアップのためのモータースポーツへの復帰はすでに決定していた。
しかし、エンジンは発売されたばかりのトップモデル300の6気筒しかなく、その前身は戦時中に消防車に使われていた鉛の多いグレー鋳鉄ブロックで、115馬力というタフなものだったので、エンジン担当者はチューニングの箱を深く開けて、デザイナーは過激な軽量化で対応しなければならなかったのだ。
グラム単位で奮闘 軽量化が1グラム単位で争われたことが、現在でもわかる。トランクリッドの下には穴のあいたサポートプロファイル、エンジン排気側には穴のあいたY字パイプマウントがあり、さらにダイエット対策が施されている。最終的には、ボディ(128kg)とフレーム(61kg)を合わせても、エンジンより12kgも軽くなってしまったのだ。
とはいえ、レーシングスポーツカーの内装は、意外にアットホームなものだった。コックピットのシート表皮はチェック柄で、過酷なレースのイメージとは違った雰囲気を醸し出している。また、計器類に施されたクロームの糸目模様のリングが、シンプルな機能の中に美しさを添えているようにも感じられる。
「ドライバーは自分の職場で快適に過ごすべきだ」というのが、「SL」の父ウーレンハウトの信条であった。「W194」は、空調の悪さを差し引いても、その約束は果たされている。サイドウィンドウの2つのプレキシグラス製フラップとルーフのエアアウトレットに加え、フットウェルとフロントガラス前の2つの高流量ノズルが空気の循環を確保し、乗員がエンジンの廃熱で焼かれるのを防ぐことができるようにできている。
1952年:ルドルフ カラツィオラがステアリングを握るレーシングプレミア「ナンバ-5(5号車)」は、1952年5月、イタリアの耐久クラシックレース「ミッレミリア」でレースデビューを果たした。ルドルフ カラツィオラは、1920年代から30年代にかけてメルセデスのエースドライバーとして活躍し、ニュルブルクリンクのオープニングレースで優勝、伝説のシルバーアローで3度のヨーロッパチャンピオンとなり、1938年1月28日に、時速432.7kmの記録を打ち立てた人物である。因みに、アウト・ウニオンのライバル、ベルント ローゼマイヤ-はこの記録に挑戦する直前に悲しいことに命を落としている。
1952年当時、カラツィオラは51歳と、現在のレーシングドライバーから見れば高齢であり、事故で短くなった右足でブレーキを踏めないというハンディキャップも抱えていた。そこでメルセデスは、彼のために特別にハイドロバックブレーキブースターを取り付けることにした。
ブレシアからローマまでの1,500kmを12時間48分29秒で走破するためには、常に彼はアクセルを踏んでいなければならないからだ。結局、その際の順位は4位だった。2位には、チームメイトのカール クリングとハンス クレングが同じ「SL」で入賞、地元のヒーロー、ジョバンニ ブラッコが60馬力の「フェラーリ250S」で優勝した。
デビュー: ミッレミリアでは、スタート時刻とゼッケン番号が同じになる。午前6時13分、ルドルフ カラッチオラがコースに入る。左の帽子をかぶっているのがメルセデスのレースディレクター、アルフレッド ノイバウアーだ。2週間後のベルンのレースでは、またしてもブレーキにトラブルが発生する。13周目のフォルストハウスカーブ手前で、右前輪のドラムが詰まり、コースアウトして高さ20mのトネリコの木に正面衝突してしまったのだ。その結果、車が壊れ、カラツィオラは病院に入院。診断の結果は肉離れ、大腿部骨折・・・。それが彼のレーシングキャリアの終わりとなった。
しかし、「ナンバー5(5号車)」はそうならなかった。「SL」は再建され、6月のル・マンには出場できなかったが、10月6日にハンブルクから蒸気船「アニタ号」でメキシコに輸送されたのである。11月19日、ヘルマン ラングがハンドルを握り、トゥクストラからシウダーフアレスまでの「カレラ パナメリカーナ」に出場したのがその始まりである。
文化的なマナーを備えた6気筒さあ、伝説の1台を試乗させてもらえる我々も準備万端だ。ノーズに斜めに吊り下げられた6気筒175馬力のエンジンは、ピストンから朝の冷気を吐き出し、管制塔からのゴーサインを待って、スパスパとアイドリングしている。音に関しては、「エアロフライヤー」の格納庫の前に停まっている9気筒ラジアルエンジンを積んだ黄色い「テキサンT-6」機だけが、その音に対抗することができるのだ。
レーシングカーでありながら、「W194」は最初の数メートルで驚くほどジェントルな振る舞いをすることが明らかになった。鼓膜と背中をマッサージするようにサブリミナルに攻撃的なバリトンを除いては、どんな粗雑さも異質である。
クラッチやブレーキの操作力は、現代の一般的なクルマとほとんど変わらない。また、ダイレクトで遊びのないステアリングのおかげで、オリジナルの「SL」は操縦性の良さでも群を抜いている。しかしダッシュボードの下からクランク状のレバーが出ているような形状の、移動距離が長いギアスティックだけは、ちょっと陸上マシンのような感じだ。最高速度は240km/hが可能だというから、70年前には文字通り驚異的な値だ。
オブリーク オットー:ボンネットをフラットに保つため、175馬力の6気筒を左斜め前に設置。ヘッドとブロックの境界線が斜めに走っていることから、この愛称がついた。低回転域から力強く走り抜ける。4000回転を超えたあたりから、燃えるような推進力を発揮するようになる。標準モデルの「300SL(W198)」と比べると、特に毒のあるスロットルレスポンスが目立つ。タイプ40PBICの3基のソレックスキャブレターが燃焼室へ燃料を送り出すと、まさに爆音となる。それに比べると、W198の直噴エンジンのレスポンスは、まさにマイルドな印象だ。
危険なリアアクスルコーナリング時のロールは少なく、回頭性セデスはリミテッドスリップデフを装着してこれを防ごうとした。
この貴重なミュージアムピースで、限界走行をすることは避けたい。「SL」は狭い誘導路のカーブでも平気でスピンするので、少なくともドライ路面では、限界まで追い込むには相当なテクニックを駆使しなければならないだろう。
真のアイコン。「空のブガッティ」と呼ばれる1937年製の「ライアンSTAスペシャル」(左)と、メルセデスの伝説的スポーツカーシリーズの先祖とされる誕生から70年の「300SL W 194」。最後に「Aeroflyers」のギュンターが助手席に乗り、数周を走った。70年前のブレシアの離陸場のように「SL」が唸りを上げながら、何度か彼と一緒に滑走路を上り下りする。試乗が終わると、副操縦士の目が光る。その視線の熱さから、本当に空を飛ぶ方が美しいのだろうかと、一瞬考えてしまったほどだ。
【ABJのコメント】 メルセデス・ベンツの歴史の中でも、多くの人にとってもっとも人気が高く、もっとも有名な一台は「300SL」、そんな意見を否定することは誰にもできないと思う。なにしろ普通の自動車とは違い、「300SL」の上に大きくのっかているものは伝説となっている歴史であり、その歴史の中には偉大なレーシングドライバーも、著名なエンジニアたちも、そして数々のレースにおける勝利や敗北、そして悲劇のようなものまでひっくるめての価値なのである。
残念ながら、「300SL」には座ったこともなければ、ガルウイングドアを閉めたこともない。博物館でまじまじと見たことはあるけれど、実際に走っている姿を目の当たりにしたことは、としまえんで行われていたカーグラフィック誌のイベントの時だけである。その時の印象で強く残っているのはエンジンの太く重く響く音で、その音さえも歴史の上で作られた重厚さに感じられたものである。
今回の「SL」はそんな中の、さらに歴史上の一台ともいえる特別な車で、本文にもあるようにメルセデス・ベンツが博物館用に所有している一台である。こうなってくるとさすがに乗るとか、運転するとかそういうレベルの話ではなく、生きているうちに見られてよかった、という感覚になってしまう個体だが、AUTO BILDのスタッフはちゃんとこれを滑走路で走らせているのだからえらいとしか言いようがない。
自動車は走ってなんぼもものだし、どの自動車だって、一台の自動車にすぎない存在、そういうこともできる。だが歴史上の偉人がこのシートの上に座り、ステアリングを握り、命を懸けて走り続けていた空間・・・。そんなところに僕などは恐れ多くて座ることを躊躇してしまう。やはりちょっと離れた場所から、それなりのドライバーが操るのを見ているほうが心から楽しめるようにも思えてしまう。本当にこれほどの領域になってくると、文化遺産なのだから、迂闊に手あかなどつけたらバチが当たってしまうに決まっている。(KO)
Text: Martin G. Puthz 加筆: 大林晃平 Photo: autobild.de
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