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ピスタ級性能を毎日楽しめる フェラーリF8トリビュートに試乗 V8は720psへ

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ピスタ級性能を毎日楽しめる フェラーリF8トリビュートに試乗 V8は720psへ

3.9L V8気筒ツインターボは720psへ

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

【画像】F8トリビュートと先代488ピスタ 全85枚

488GTBと置き換わるかたちで登場する、F8トリビュート。フェラーリ製ミドシップ・スーパーカーのエントリーモデルという位置づけとなる。正確には488系へ大幅なフェイスリフトを加えたクルマで、488ピスタのサウンドやグリップ力、運動神経などの「驚き」に、488GTBの日常性をミックスしたモデルだとフェラーリは主張する。つまり、現代のスーパースポーツカーとして最高傑作といえる、オールラウンド性能を備えたことになる。

トリビュートという名前だが、フェラーリ製の量産V型8気筒エンジンの中で最もパワフルなユニットを搭載することを自ら称賛しているだけでなく、V8エンジンをミドシップしたベルリネッタの誕生から40周年を祝う意味も込められている。まだフェラーリは認めていないが、ハイブリッド化される前の最後のV8エンジンを記念してもいるのではないだろうか。

トリビュートが獲得したものは、488GTBと比較して50ps増しの最高出力と1.0kg-m増しの最大トルクに、10%向上した空力性能。加えて30kg軽量な車体。すべてが先代モデルよりもより速く、より機敏に走るために与えられたものだ。

なにより名前の由来でもある、エンジンへ加えられた変更内容は触れるべきことが多すぎる。ベースとなっているのは、488ピスタに搭載されていた3.9LのV8気筒ツインターボ。F8トリビュートに搭載されるに当たり、最高出力は720ps/8000rpm、最大トルクは78.3kg-m/3250rpmへと高まっている。

吸気系には488チャレンジ・レースカーのものが採用され、エアインレットは経路を短くするためにリアスポイラーの手前側に穿たれた。インテークプレナムも設計変更を受けている。バルブとバルブスプリングもカムシャフトの形状変更に合わせて手が加えられ、シリンダーヘッドとピストンも、増加したパワーに耐えられるように強化されたという。

突き詰められた空力性能とサウンド

488ピスタから継続採用となったのはチタン製のコンロッドにクランクシャフト、フライホイールで、回転慣性を17%減少。更に燃焼ガスの排出効率を高め、従来以上に厳しくなった騒音規制に対応する、新しいエグゾーストシステムも導入されている。ガソリン・パティキュレート・フィルター(GPF)も追加されたから、排気ガスはしっかり浄化されることになった。

情熱的なサウンドが薄まることになるが、それに対応するべく、フェラーリのエンジニアは「ホットチューブ・レゾネーター」を装備。ターボチャージャーの1基からCピラーとバルクヘッドへとパイプを伸ばし、ドライバーの背後で自然なサウンドを増幅させる装置だ。同時にインテークプレナムへ流入する吸気温度を15℃下げる機能も備え、最高出力の増強にもつなげている。

もちろんボディの空力学的にはダウンフォースを増やし、抵抗を小さくしている。バンパーの開口部から吸い込んだ空気をボンネットから吐き出す、488ピスタにも見られるSダクトを採用し、F8で得られるダウンフォースの15%を発生。デザインの新しくなったリアスポイラーが25%のダウンフォースを生み出し、20%を受け持つリアディフューザーと協調して接地性を高める。更には3枚のアダプティブ・フラップが速度や負荷、旋回方向などの状況を自動的に判断して、安定性を向上してくれる。

488ピスタと488チャレンジから得た情報をもとに、フロントノーズに収まるラジエターの搭載位置も再設計を受け、25%のダウンフォースを作るフロントディフューザーの空力性能を向上させている。また車両中央に配されたボルテックス・ジェネレーターが15%のダウンフォースを生み出す。

FDE+でコーナー脱出速度は6%アップ

ハイパワー化による直線性能の向上と、空力性能の向上によって、ハンドリング性能の向上も期待できるわけだが、フェラーリはそこへ知的な電子制御システムを付加した。バージョン6.1へ進化したサイドスリップ・コントロール(SSC)は、オーバーステアの自由度を高めるとともに、自然な介入でタイヤの摩耗と、赤っ恥なスピンを防いでくれる。このシステムはフェラーリ・ダイナミック・エンハンサー・プラス(FDE+)と呼ばれる、F8トリビュートで新導入された機能と協調して働く。

FDE+は非常にダイナミックなトルクベクタリングとスタビリティコントロール・システムを統合したもので、ブレーキを微妙に効かせることで、コーナーの脱出速度を高めてくれる機能。このFDE+の設定幅は大きく、レースやCTオフモードでも作動させることができる。

フェラーリによれば、SSCとFDE+との相乗効果で、488GTBよりもコーナーの脱出時の速度が6%も速くなるとしているが、かなりの効果だといえる。スプリングとダンパーも手が加えられているが、基本的には488GTBのものと同じだという。

軽量化の面では、チタン製のエンジンコンポーネントの採用に加え、レキサン樹脂(ポリカーボネート)のリアガラスに、軽量なフロントとリアバンパー、カーボン製のスポイラーなどを用いることで488GTB比でトータル30kgをダイエット。結果、F8トリビュートの車重は1435kgになった。488ピスタのオーダーが締め切られると、オプションで488ピスタ・スタイルのホイールも選択できるようになり、さらに10kgを削ることができる。

パフォーマンスを高めるためのデザイン

F8トリビュートのドアハンドルを握る前に、ピニンファリーナ社ではなく、フェラーリ社内でデザインされたアピアランスを簡単に確認していこう。空力性能を追求したボディは、伝統的な意味でのエレガントさを感じ取ることは難しいが、誰の目にもアグレッシブに映るデザインは魅力的に思える。ルーフパネルとドアパネルは488GTBからのキャリーオーバーだが、それ以外の部分はまったく新しい。すべてのエアスクープ、屈折面、エアアウトレットなどのすべてが、パフォーマンス向上のために仕上げられている。

インテリアの目指すところも明らかだ。低いドライビングポジションはクルマの運動軸の中心。フェラーリではおなじみの、ひさしの伸びたレブカウンターとTFT液晶モニターのインスツルメントが正面に来る。ステアリングホイールは新しく直径がひと回り小さくなり、指で届く位置に主要なコントロール系がまとめられている。

奥深い位置に取り付けられたフロントガラスは幅が広く感じられ、前方視界は良好。ダッシュボードのシンプルなデザインが、軽快感を生んでいる。だが仕立てはいつものフェラーリらしく上級で、ソフトレザーがふんだんに用いられ、カーボンファイバー製のトリムパネルがアクセントを付ける。

ステアリングホイールのスターターボタンを押してV8エンジンを目覚めさせると、ひと吠えして落ち着いたアイドリングを始めた。右側のパドルを弾いて7速デュアルクラッチATをつなぎ、スロットルに触れれば、たちまち鋭く発進する。0-100km/h加速は2.9秒だというから、バカバカしいほどに速い。マクラーレンの主軸モデルよりも、F8トリビュートの方が一枚上手に感じる。

まるで大排気量自然吸気エンジン

488ピスタやGTBと同様に、F8トリビュートにも賢いバリアブル・ブーストマネージメント機能が搭載され、ターボラグを感じさせることなく徐々に自然にトルクを増大させていく。右足の操作に対するレスポンスは猛烈と呼べるほどで、ドライバーの希望通りに即座に加速する。吹け上がりも鋭く、どんな状況でも一気にパワーを炸裂させ、8000rpmのリミッターまで即座に振り切るから、ターボの存在はほとんど感じられない。まるで大排気量でフリクションの少ない自然吸気エンジンのようだ。

そこにシフトアップが極めて迅速でスムーズなトランスミッションが加わり、加速はまるでワープするかのようですらある。シフトダウン時は、鋭いブリッピングのたびにエグゾーストからバックファイアの破裂音が響き、楽しくて仕方ない。

低回転域でのバリトンボイスは、中回転域で硬質な金属音に転じ、トップエンドめがけてクレッシェンドしていく。しかし、エンジンとエグゾーストのノイズに関しては、V8エンジンを積んだフェラーリの理想像にまでは至らない。自然吸気エンジンの458が備えていた、ヒリヒリと高音域で焼かれるような魅力は備わっていないといえるが、これが現実の世の中に対応させたものなのだろう。

だとしても、絶え間なく変化するノイズを楽しむために、変速を繰り返したくなるエンジンだ。そこに例のホットチューブ・レゾネーターが伝える吸気ノイズも加算されるが、ターボチャージャー付近からの導引だから、タービンのホイッスル音やウェストゲートの吐息が主張気味ではあるけれど。

身近な速度で体験できる稀有のコーナリング

マラネロの真髄が、この爆発的なパフォーマンスを身近に味わわせてくれる、優れたシャシーにある。488GTBから受け継いだハードに手直しを加え、F8トリビュートのコーナリング時のバランスと扱いやすさは稀有のレベル。もちろん720psのミドシップ・フェラーリだから扱いには注意も必要だが、ステアリングの切り始めから実感できるコーナリング性能は、他の追随を許さない。

近年のフェラーリの期待通りクイックだが、ナーバスなところはない。ほとんどのコーナーでは、ステアリングを90度も回せばこと足りてしまうほど。情報量豊かなフロントタイヤのグリップ力も高く、レーザーメスのような精度でラインを狙え、クルマは素早くしなやかに回転する。コーナリング時の荷重も、タイヤ4本へ均等に掛かっていうように感じられる。

さらに優れたサイドスリップ・コントロール(SSC)の力を借りて、一般道でもリアタイヤをわずかにスライドさせることも難しくない。ステアリングやスロットルの操作が過度だとシステムが介入してくるが、SSCが丸く収め、スムーズに自然なオーバーステアを披露する。とても懐の深い仕草のおかげで、スタビリティコントロールにはお休みいただいて、シャシーのバランスや安定性、操縦性の高さを自分で確かめたいと思えるだろう。

F8トリビュートの大きな魅力は、この豊かな表現力にある。488GTBやピスタとの共通性を感じる部分でもある。多くのスーパーカーの場合、限界近くまで攻め込まなければ秘められたポテンシャルを実感することは難しいが、F8トリビュートの場合は、より身近なスピードで体験することが可能。しかも不自然さがなく、クルマの性能をしっかり引き出しているように感じられる。

488ピスタの性能を毎日楽しめる

間違いなくF8トリビュート最大の訴求力は、488ピスタに近いパフォーマンスと正確性、操縦性の楽しさを、日常的に乗れるシャシーで叶えているところにある。アダプティブダンパーの「バンピー」モードでの乗り心地は、高級感を感じられるし、ー定速度でのクルージング時の排気音もささやく程度。ナビの機能は褒められないが、インフォテインメント・システムのオプションもある。フェラーリのオーナーがクルマに乗れるのは、祝日や日曜だけかもしれないが、F8トリビュートなら毎日乗りたいと思えるに違いない。

488ピスタに並ぶ鋭さはないが、それはあえて狙ったところだろう。ターボ過給されるエンジンは、かつての自然吸気ユニット並みの音響を得ていないものの、素晴らしい7速ツインクラッチATと圧倒的なパワーとレスポンスとの組み合わせには、異論を挟む余地もない。

車内にはエントリーキーを置ける小物トレイすら備わらず、ハイブリッド化されていないV8エンジンを積む最後のフェラーリに残された課題のひとつでもある。確かにマクラーレン720Sの方がわずかに速く実用的で、ランボルギーニ・ウラカンには5.2LのV10が収まってはいるが、パフォーマンスとハンドリングの仕上がりは、F8トリビュートほどに並外れたものではない。

いずれ数パーセントほどアグレッシブさを増したハードコア・バージョンと、スパイダーの「アペルタ」も登場することになるはず。しかし目下、テイラーメイドのスーツのポケットに自由になる20万ポンド(2600万円)が収まっているのなら、手に入れない理由は見つからない。

フェラーリF8トリビュートのスペック

価格:20万3476ポンド(2645万円)
全長:4611mm
全幅:1979mm
全高:1206mm
最高速度:339km/h
0-100km/h加速:2.9秒
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:1435kg
パワートレイン:V型8気筒3902ccツインターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:720ps/8000rpm
最大トルク:78.3kg-m/3250rpm
ギアボックス:7速ツインクラッチ・オートマティック

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