BMW X5 M / X6 M / X5 M Competition / X6 M Competition
BMW X5 M/X6 M/X5 M コンペティション/X6 M コンペティション
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BMW Mの開発陣に共通する気質
元々は「BMWモータースポーツ」を名乗り、1993年に社名を変更した「BMW M」のエンジニアと話をするたびに、「この人達は本当にクルマとBMWが好きなんだなあ」と実感する。そして彼らはいい意味での“オタク”でもある。
BMWのX5 MとX6 Mの国際試乗会で、ディナーの席で隣り合わせたのはステアリング担当のエンジニアだったが「操安全般もやっているので、パワートレインやデザイン以外であれば何でも聞いてください」とのことだった。
「前後重量配分は?」「どっちもほぼ50:50を達成しています」「シャシーで両車に違いはあるのか?」「メカニカルな部分と使用しているソフトウェアはまったく同じです。重量が若干異なるのでそれに適合するよう微細なチューニングをそれぞれしているものの、基本的には同一と考えていただいて構いません」と、我々の矢継ぎ早の質問に、ひとつひとつ丁寧に答えてくれた。
ステアリング機構の「思い切った」改良点
それでもなんとなく、やっぱり自分の担当するステアリングについて話したいようなムズムズした様子が窺えたので、メインディッシュのお皿が片付けられてデザートを待つ間に聞いてみた。
「“ステアリング”担当というのはM社の場合、具体的にどこからどこまでのことですか?」
「ステアリングからシャフト、ステアリングギヤボックス、タイロッド、そしてナックルアームまでを含んでいます」
「そのステアリング機構自体は新たに開発したものではありませんよね」
「ええ、既存のシステムを使っています。ただし、一ヵ所だけ改良を施しました。インターミディエイトシャフトです」
「インターミディエイトシャフト? ステアリングシャフトの途中にあるアレですか」
「そうです。正確にはユニバーサルジョイントとインターミディエイトシャフトのセットを改良しました」
「なんでまた?」
「これまではゴムを用いてタイヤからの入力振動を吸収するラバーカップリング付きジョイントを使っていたんです。これだと確かに余計な振動がステアリングまで伝わらない一方で、ステアリングフィールのダイレクト感に乏しいと感じていました。そこで思い切ってラバーカップリングをやめ、メカニカルなジョイント方式に変更しました」
「でもそうなると、ゴムという振動を吸収してくれる弾性体がなくなるから、余計な振動がステアリングに発生しませんか」
「おっしゃる通りですが、試乗されて変な振動はありませんでしたよね? 一般的に剛性を高くするほど振動は伝わりやすくなります。シャシー系はサスペンションを理想通りに動かしたいので剛性は高いほうがいいですが、乗り心地との兼ね合いがあるので部分的にカップリングやブッシュにゴムを用いるわけです。でも、ステアリングを介してロードインフォメーションを正確に手のひらへ伝えたいので、必要最小限の振動はむしろ残したい。ラバーカップリングを外した分、他の部分でいらない振動をうまく抑え込みました」
デザートのアイスクリームが溶け始めるまで、彼は嬉々として語ってくれた。こういう会話ができるエンジニアがBMW Mにはたくさんいるのである。
Mは600hp、コンペティションは625hp
BMWが言うところのSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)とSAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)がX5とX6で、現行のX5は2018年末にデビュー、新型X6は2019年になって販売が開始された。両者はボディだけが異なるいわゆる兄弟車で、X5 MとX6 Mもそれに準じている。それぞれにX5 M コンペティションとX6 M コンペティションが用意されているので、モデルラインナップはX5 MとX6 Mと合わせて計4種類となる。
エンジンはM5などにも搭載される4395ccのV型8気筒ツインターボで、X5 M/X6 Mは最高出力600hp/6000rpm、最大トルク750Nm/1800-5600rpmを、コンペティションは625hp/6000rpm、750Nm/1800-5800rpmをそれぞれ発生する。前者の0-100km/hは3.9秒、後者は3.8秒で、最高速はいずれもスピードリミッターが作動する250km/hだが、オプションのM ドライバーズ パッケージを装着すると290km/hまで跳ね上がる。トランスミッションはドライブロジック付きの8速ステップトロニックのみ、駆動形式もxDriveの4WDのみとなっている。
V8ツインターボの出来は競合随一
このV8ツインターボは同様のエンジンの中でも世界トップクラスの出来だと思っている。最高出力の発生回転数と最大トルクの発生域上限がかなり近いところにあって(コンペティションだとその差は200rpm)、スロットルペダルを床まで踏み倒すと、7200rpmのレブリミットまでいわゆる頭打ちがまったくない加速感と速度上昇が味わえる。
エンジンそのものの設計や組み付け精度が優れているのはもちろん、エンジンが作り出す出力とトルクが、トランスミッションやドライブシャフトやデフを介してもパワー損失を最小限に抑えたうえで4輪まで伝わっているように感じられる。スロットルペダルに対する反応も抜群で、右足のわずかな動きも逃さずエンジン回転数と4輪のトラクションに直ちに反映される。この感度は“SET UP”によって変更できて、普段のズボラな運転から1秒以下の単位での判断とコントロールが求められるサーキットまで、幅広い範囲に順応する。
サーキットでこそモノ言うコンペティションの存在
X5 M/X6 Mとコンペティションのパワースペックの差、すなわち25psの出力の上乗せと、200rpmの最大トルク発生回転域の違いを体感できるのかと問われたら「サーキットじゃないと多分無理」と答える。日本の道路交通法を遵守した、最高でもせいぜい4000rpmくらいまでの常用域で運転している限り、ノーマルでもコンペティションでもその差はほとんど感じられない。反応遅れのない瞬発力が必要なサーキットであれば、コンペティションのほうがよりパワーデリバリーに関するドライバーとクルマとのコミュニケーションは密に取れるだろう。実際、コンペティションのドライブモードにのみ「TRACK」があって、これはX5 M/X6 Mでは選べない。
クルマのセッティングは“M MODE”と“SET UP”のふたつのスイッチで行う。M MODEには「ROAD」と「SPORT」(コンペティションにはさらに「TRACK」)が用意されている。これは主にレーンキープといったドライバーアシスト機能のオン/オフなどを一括制御するもの。エンジンやサスペンションなどの設定はSET UPで行う。
セッティングはアラカルトで調整可能
センターコンソールのボタンを押すと「Engine」「Chassis」「Steering」「Brake」「M xDrive」の項目が表示され、「Engine」「Chassis」はコンフォート/スポーツ/スポーツプラスから、「Steering」「Brake」はコンフォート/スポーツから、「M Drive」は4WD/4WDスポーツからそれぞれ任意で選択できるようになっている。
「Brake」は同じペダルの踏み込み量でも、制動力の立ち上がり方に若干の変化が見られたように思ったが、他の項目に比べるとその変位量はごくわずかで、注視しないとわからないレベルだった。他のMモデルと同じように、シフトチェンジスピードはまた別のスイッチで3段階の調整が可能となる。走りながらその時に応じて最適なセッティングを探すのは楽しい作業ではあるけれど、ロータリースイッチを使うのでディスプレイに視線移動しながら「回す」と「押す」の動作が必要となるから少し手間がかかる。
コンポーネントは同じでも「味」が違う
「ボディ以外は基本的に同じ」と言われるX5 MとX6 Mでも、実際の乗り味は明らかに異なった。「そんなに違いますか?」とエンジニアは少し驚いていたけれどそんなに違っていた。加速感やトラクション性能といったパワートレインに由来する部分は確かにほとんど変わらない。ところがハンドリングや乗り心地の印象はX5 Mのほうがよかった。
X5 Mは速度域を問わず全般的に乗り心地がいい。ばね上は適度に動いているものの減衰が速すぎず不快感は伴わない。路面からの入力に対する突き上げも想像よりずっとマイルドで、これなら運転席以外の乗員も快適に過ごせるだろうと思った。X6 Mは「Chassis」でコンフォートを選んでもX5 Mよりサスペンションの動きが引き締まっているようで、減衰も速く身体が上下に小刻みに揺すられる。感覚的に、X6 Mのほうがばね上の動きが積極的に抑えられているようだった。
背が高く重心も高いSUVの場合はばね上の動きが少ないほうがスムーズな旋回が期待できる。乗り心地の印象から察すると当然のことながらX6 Mの操縦性のほうがよさそうだが、X5 Mのほうが旋回時の挙動に無駄な動きがなく安定感があり、安心してステアリングを切ることができた。両者ともにロール方向の動きを制御する電制アクティブロールバーと、後輪左右の駆動力配分を随時行うアクティブ M ディファレンシャルが装着されているので、これらの介入の仕方に大差はない。
ただ、ステアリングを切ってから旋回姿勢が整うまでの過渡領域ではX5 Mの安定感がX6 Mより勝る。X5 Mより全高は55mm低く、車両重量も15kg軽いX6 Mにハンドリングの優位性があると想像していたので、これは意外な結果だった。
ボディのカタチがもたらす影響力
エンジニアが言う「ボディ以外は同じ」は多分その通りだろう。しかしボディ=ばね上が異なると、乗り味にはかくも大きな影響を及ぼすということを再認識した。X6 Mはルーフからリヤエンドにかけて大きくスラントしたスタイリングで、ハッチゲートの開口部の面積はX5 Mより広い。つまり、そのままではボディ剛性面で不利になるので、構造的対策が施されているはずである。
事実、X6 Mのボディの剛性感に不満はまったくなかった。ボディ形状が違うなら、空力的にも差異が生じているかもしれない。決定的な原因を究明するに至らなかったのは自分の能力不足かもしれないけれど、欧州車の新型車試乗会でよくある“個体差”だとしたらちょっと拍子抜けである。日本でじきに発売される個体のほうがずっとよければそれに越したことはない。
X5とX6のMに「アレ」が無い理由
専用のサブフレームと専用のサスペンションと専用のエンジンマウントと専用の制御プログラムを有しているのはMモデルのお約束である。加えてこのパワースペックなのだから、SAVでもSACでもSUVでも呼び名は何でも構わないが、X5 MもX6 Mももはやこういうカタチをしたスポーツカーではないかと自分なんかは思ってしまう。
しかし、ステアリング機構について熱心に語ってくれた彼を含むMのエンジニアはそうは思っていないらしい。M xDriveのSET UPに、M5にはある「2WD(=FR)」のモードがないのはなぜかと聞いたら「X5 MもX6 MもSUVでスポーツカーではないから」と即答してくれた。きっと彼らの中では、スポーツカーの明確な定義が存在しているのである。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
【SPECIFICATIONS】
BMW X5 M(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4938 全幅2015 全高1747mm
ホイールベース:2972mm
車両重量:2310kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4395cc
ボア×ストローク:89.0×88.3mm
最高出力:441kW(600hp)/6000rpm
最大トルク:750Nm/1800-5600rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後5リンク
タイヤサイズ:前295/35ZR21 後315/35ZR21
最高速度:250km/h(M ドライバーズ パッケージ:290km/h)
0-100km/h加速:3.9秒
BMW X5 M コンペティション(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4938 全幅2015 全高1748mm
ホイールベース:2972mm
車両重量:2310kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4395cc
ボア×ストローク:89.0×88.3mm
最高出力:460kW(625hp)/6000rpm
最大トルク:750Nm/1800-5800rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後5リンク
タイヤサイズ:前295/35ZR21 後 315/30ZR22
最高速度:250km/h(M ドライバーズ パッケージ:290km/h)
0-100km/h加速:3.8秒
BMW X6 M(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4941 全幅2019 全高1692mm
ホイールベース:2972mm
車両重量:2295kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4395cc
ボア×ストローク:89.0×88.3mm
最高出力:441kW(600hp)/6000rpm
最大トルク:750Nm/1800-5600rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後5リンク
タイヤサイズ:前295/35ZR21 後315/35ZR21
最高速度:250km/h(M ドライバーズ パッケージ:290km/h)
0-100km/h加速:3.9秒
BMW X6 M コンペティション(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4941 全幅2019 全高1693mm
ホイールベース:2972mm
車両重量:2295kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4395cc
ボア×ストローク:89.0×88.3mm
最高出力:460kW(625hp)/6000rpm
最大トルク:750Nm/1800-5800rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後5リンク
タイヤサイズ:295/35ZR21 後 315/30ZR22
最高速度:250km/h(M ドライバーズ パッケージ:290km/h)
0-100km/h加速:3.8秒
【問い合わせ】
BMW カスタマー・インタラクション・センター
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