’21新型スズキGSX-S1000徹底解剖:新旧比較インプレ・ワインディング編【さらなる速さと拡張性をゲット】
新型スズキGSX‐S1000の実力を検証する今回の企画。電子制御スロットルとなり、新たに3段階のパワーモードや5段階のトラクションコントロール、クイックシフターなどを装備したが、それらは高速走行や市街地ではどう影響するのか? ワインディング編に引き続き、テスター丸山浩氏が新旧モデル合わせて試乗比較する。
●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:真弓悟史
―― 【テスター:丸山浩】永遠の峠大好き少年。ご存じ『ヤングマシン』誌メインテスターにしてWITHMEプロフェッショナルレーシングの会長。そして最近はYoutuberとしても活躍中。
中間パワーの底上げが高速移動もより俊足に
峠に至るまでの高速道路では、新型の速さが際立っていた。最高出力2psアップだけだとそんなに違いは出なかったと思うが、全体的に力が底上げされたエンジンは、そこに至るまでの中間加速がもう全然違う。Aモード(SDMSのアクティブモード)を使ってドカンとスロットルを開けてみると、その差は歴然だ。
その中間加速の力強さを確かめるべく、クローズドな場所での全開発進も試してみたのだが、トラクションコントロール最弱だと大きく浮き上がったフロントタイヤをシステムが沈めても再び浮き上がってくるというのが数回続くほど。カタログ上の最大トルクこそ先代より0.2kg‐m下がってはいるが、実際に使うことになる領域でのトルクでは上回っているのを感じ取ることができた。
もっとも、ネイキッドなので高速でのウインドプロテクションはそれなり。ツアラーのようなスクリーンはもちろん、ネイキッドでも最近の他車には標準装備されることが多くなってきたクルーズコントロール/グリップヒーター/ETC車載器といった旅向け装備も付いていない。ただ、電子装備的にはSDMSやクイックシフターが新型にはあるので、天候が変化したり周囲のクルマが多くなってきて混雑してきた中を淡々と走る必要が出てきた際などは、先代に比べて楽になった。
全体的に見れば、ポジションもアップライトでサスペンションやシートの乗り心地も悪くないGSX‐S1000は、高速道路での移動もそつなくこなしてくれると言えるが、この快適装備の面からも分かるように新旧ともにツーリングよりもスポーツに軸を置き、重量増につながる装備は極力割いたという印象だ。朝早いうちに街を飛び出して高速道路に乗ったらバビューンと飛ばし、峠に着いたら心行くまで堪能して、後はB/Cモードでゆっくり帰る…。そんな使い方が一番似合うだろう。
先代ではフルカウルをまとったバージョンのFもあったが、そちらも快適装備面では他社ライバルと比べると控えめになっていたのは、スポーツを一番に楽しませたかったからだろうか。本記事取材時点では新型にFは設定されていないが、どうなるのか楽しみだ。
新型は街中での手軽さがアップ
街中を走ってみると、あらためて新旧ともビッグバイクの中におけるGSX‐S1000の素性の良さが光っていた。リッタークラスでありながら、ちょっとした用事でもガレージから引っ張り出して乗るのが苦にならない絶妙な車格。シートクッションは厚みがあって座り心地がいいうえに足着きも辛く感じさせない。アップライトなポジションは先代でも大柄すぎず扱いやすいものだったが、新型ではハンドルバーがちょっと近くになった印象で、そのぶん前傾姿勢も軽くなり、疲れにくさや小回りのしやすさがさらにアップしている。
そして、新型はGSX‐S1000本来の持ち味である元気さに走りの幅を加えたSDMS(スズキドライブモードセレクター)が街中でも大いに活きていた。B(BASIC)/C(COMFORT)モードがあることで、交通量の多い中での走行は非常に快適。SDMSのない先代はひとつの走行モードで街中から高速/峠までカバーしようと、かなり完成度の高い作り込みをしていたのだなと感心させられたが、やはりスポーツ性能を優先しているため、どうしても街中では元気があり余りすぎる部分も出てしまっていた。そこを新型はカバー。750のような使い勝手の良さを見せてくれ、日常でもより気軽に乗れるようになった。
上下双方向に対応したクイックシフターの使い勝手は、街中でも優れている。低速域でもしっかり機能してくれ、ソフトなタッチで変速ショックも少なく、クラッチのアシスト機構と相まってストップ&ゴーや頻繁なシフトチェンジが多い街中ではずいぶんと楽になった。トラクションコントロールも新型では3→5段階に幅が増えて、様々な路面状況や季節に対応している。そして新旧ともに付いているスズキ車ではおなじみのイージースタートシステム。セルボタンを押し続けなくても済むこのシステムは、地味ながら他車と比べるとその便利さを実感するはずだ。
新型の特徴的な縦2眼LEDヘッドライトも、路面をくっきりと浮かび上がらせてくれ実用的な性能もなかなか。メーターがフルカラー液晶でないのが残念だが、表示される内容は豊富。トラクションコントロールやSDMSのモード切替は左手元のボタンで行えるようになっている。ただSDMSの切替に至るまでには何度かボタンの長押しが必要で、走行中にすんなり切り替えられるようになるにはちょっと慣れが必要かもしれない。
〈参考〉燃費比較
燃費については、今回取材した実測結果が先代21.45km/Lに対し、新型17.03km/Lと、その差はちょっと大きめ。カタログ上でもWMTCモードで2.5km/L、60km/h定地走行で3.1km/Lの差があるので、これは乗り方の違いによるものではないだろう。この燃費の違いもあってか、新型では燃料タンク容量が17→19Lへとアップ。航続距離の減少をカバーしている。
―― 【参考:燃費比較】東京上野~東名高速~箱根間の往復を満タン法で計測。実測値を最初に見たときはミスしたかと思ったが、カタログを見て納得。新排ガス規制に対応しながらパフォーマンスを増しているので、燃費に影響してしまうのは仕方ないか。
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