■EVは動く蓄電池? 実際、何に使えるのか?
脱炭素でますます注目されるEV(電気自動車)ですが、単なる移動の道具に留まらない可能性を持っているといいます。
期待されるのは「蓄電池」としての能力。将来的には社会の電力を支える姿も見えてきました。
今回は、ホンダのEV「ホンダe」の「電気力」を取材。先日、2040年までにEVとFCEV(燃料電池車)販売100%を宣言したホンダですが、その目指す未来はどのようなものでしょうか。
EVは電気でモーターを動かすことによって走るため、大容量のバッテリーを積んでいます。たとえばホンダeのバッテリー容量は35.5kWhです。
この35.5kWhとは、一体どのくらいの電力なのでしょうか。ホンダによれば、4人家族の一般家庭で約3日分の電力を供給できるといいます。
もし災害などで停電が起きたとしても、満充電のホンダeがあれば、3日間はしのげることになります。
35.5kWhという容量は、実はEVとしては必ずしも多いほうではありません。しかし一般的な家庭用蓄電池が5kWhから15kWh程度なので、家庭用蓄電池としては十分すぎる容量を持っているといえます。
EVは第一に移動手段として用いられますが、その蓄電能力を活用する取り組みが進められています。
EVの電気を何に活用するかによって、「V2L」「V2H」「V2G」といった言葉が使われています。
EVの電気を家電機器などで使うことを「V2L」(Vehicle to Load)といい、たとえば車内のコンセントでスマートフォンを充電するのは「V2L」です。
さらにクルマに外部給電機を接続すれば、より大容量で複数の電源として使用することもでき、災害時やアウトドアでの電源として活用が期待されています。
次にEVの電気を家で使うシステムをV2H(Vehicle to home)といいます。
一般的なEV用コンセントは、EVへ充電することしかできません。しかしV2H用の充放電器を使えば、EVへの充電だけではなく、EVから家屋への給電も可能になります。
たとえばソーラーパネルのある家屋では、晴れの日に太陽光で発電した余剰の電気をEVに充電することが可能です。
また、雨の日に太陽光発電ができないときは、EVの電気を家屋へ給電することができます。
近年、注目される太陽光発電や風力発電ですが、気候に左右されるため、電力供給に波があるのが大きな課題とされています。
そこで、EVの蓄電能力を活用して、社会全体の電力が足りないときはEVから社会へ電力を戻す「V2G」(Vehicle to Grid)というシステムの実用化が進められています。これには、蓄電される箇所が分散するといったメリットもあります。
実際にホンダは、再生エネルギーへの転換が進む欧州でV2Gの試験事業を実施しています。
このようにEVの「電気力」は、ただ単にEVが移動手段として使われるのではなく、将来的には再生エネルギー社会の電力を支える蓄電池としても活躍が期待されています。
ホンダeの開発責任者である一瀬智史氏は次のように述べています。
「ホンダeは2030年ぐらいの未来を思い浮かべ、それに対応できるクルマとしてつくりました。
クルマは動いているときの価値についていわれることが多いですが、ホンダeは電気自動車だからこそできる、止まっているときにできる価値にも技術を投入しています」
■ホンダeの電気で焼肉してみた!
では実際に、ホンダeから家屋へ給電する「V2H」とはどのようなものでしょうか。
今回は、泊まれる発電所「Looop Resort NASU」でホンダeのV2H給電を体験しました。
まずは家屋への給電をホンダeだけにするため、電力会社からの給電をカットし、擬似的に停電状態にします。
次にV2H機器の電源を入れるため、ホンダeのシガーソケットとケーブルで繋いで起動させます。
あとはホンダeの充電口にコネクターをつなぎ、V2H機器の放電ボタン押せば、ホンダeから家屋への給電が開始。思ったよりも手軽です。
その後、ホットプレート2台を全開にして、7人から8人で2時間くらい焼肉しましたが、給電はまったく問題ありませんでした。
V2Hを開始する前のホンダeの電気の残量は100%で、焼肉後でもまだ82%残っており、災害時の非常用電源としても十分に利用できそうです。
V2Hは、ホンダeから給電されても、電力会社からの通常の給電でも見た目は変わりません。今どこからどの程度の電気を消費しているかは、アプリで確認できます。
たとえばホットプレートの電源を入れると、消費電力の表示が0.6kWから1.2kWへと増加しました。
このようにリアルタイムに数値で表示されると、普段あまり意識しなかった消費電力に対して意識的になります。
電気代が安い夜間は充電し、日中はなるべく蓄電池の電力を使用するといったように、各家庭で電力を小まめにコントロールするような時代もすぐやってくるかもしれません。
前述の一瀬氏は次のように述べています。
「欧州で始めたV2Gも、数十台規模ではほとんど効果はありません。しかしとにかくまず始めなければ、何も進みません。だからホンダeは始めました」
※ ※ ※
参考までに、ホンダeは451万円から。V2H機器はニチコンのモデルで、基本機能のみのスタンダードモデルが施工費別で約43万円から、プレミアムモデルは約87万円からです。ただし補助金が付くといいます。
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