大きなハードルの連続となる廃盤・絶版パーツの復刻再生産
ニスモダクトが新品で手に入る喜び
「R32GT-Rニスモのエアロパーツがついに復刻!」困難を極めたヘリテージの舞台裏
すでに廃盤となってしまったBNR32、BCNR33、BNR34の純正パーツを、可能な限り当時と同じ形で復刻させ、少しでもユーザーが長く乗れるようにサポートする“ニスモヘリテージ”。
2017年の12月からスタートし、これが無いと走れない、車検を通せない、メーカーでないと製造できない、という重要部品を優先しながら、2年少々の間に200点以上ものパーツを復刻。車両オーナーにとっては大変ありがたい活動だ。
ちなみに、ニスモヘリテージパーツは、当時の製造設備、型で再生産される『純正復刻品』と、純正の製造設備や型などが既に無く、現在の設備や製造で当時の部品を復刻する『NISMOリプレイス品』に大別される。
そして今回紹介するBNR32用と、限定車だったニスモモデル専用のエアロパーツ類(昨年秋発表)に関しては、純正復刻品、NISMOリプレイス品の両要素が含まれている。
ここで改めて、通常のBNR32とBNR32ニスモの違いについて話をすると、グループAに参戦すべく戦闘力を高め車両公認を取得するために生産された車両がR32GT-Rニスモ。生産台数は560台で、60台が実際にレースカーとして使用され、500台が一般に販売されたレアな限定車だ。
見た目の大きな違いはフロントバンパーにエアインテークダクト2個が付き、ボンネットフードトップモール、大型のマッドガード(サイドステップ)、小型のトランクスポイラー、右リヤにニスモステッカーなどが付く。
わずかな差ではあるが、マニアにとってはひと目でニスモだと分かるほどの違いでもある。だから、当時はベースグレードのBNR32GT-Rに対して、これらのエアロを追加で取り付けた“ニスモ仕様”とした車両が流行ったほどだ。これらが復刻されるというのだから、BNR32オーナーには大ニュースと言えるだろう。
外装パーツの復刻は困難の連続だった
ニスモヘリテージのプロジェクトは原則、当時と同じ素材、同じ製法での再生産を前提にしている。しかし、ウレタンは製造過程で発生する環境問題により、現在では生産体制が縮小されていて、原材料となる素材も入手が難しい。こうなると、当時と同じものを作ることは限りなく不可能に近いという判断になってしまう。
こういった場合は、製法や素材、生産工場の変更など、新たな復刻方法を探ることとなる。ユーザーから復刻の要望が多かったフードトップモールに関しては、当時の形状を再現しながら再販するために最も理想的、現実的な素材がFRPであるという結論に到達。
新たな手法や設備を使っての再生産の方向性が定まると、続いては図面の作成が課題に上がる。当時の設計図が残されていたとしても手書きの図面で、現在の生産現場で求められる3Dのデジタルデータなどは存在しない。そのため、現物を3Dスキャンして3Dデータを起こし、ゆがみやフォッティングまで細かな修正を加えながら精密な3Dデータを完成させていったのだ。
なお、こうした工程はフードトップモールだけでなく、各々のパーツに対し個別の案件として検討、調整が行われる。
例えば、マッドガード(サイドステップ)。こちらも素材がウレタンからPPEへと変更されているが、取り付け面まで一体成型されていたウレタンとは異なり、板状の素材を型に対して真空密着によって整形するため、外観的には全く同じでありながら、取り付け部分などを別パーツとして製造し組み合わせるなど、全く新たな生産工程が構築された。
さらに、車両によってはボディ側のサイドシルが過度のジャッキアップで歪んでいることも多く、その中でも出来る限り隙間が少なくなるように設計。どうしても気になる場合は、隙間を無くすためのエンドモールなども設定している。
素材に変更が無いもののうち、フロントバンパー、リップスポイラーなどは当時の型が残っていたので、比較的容易に再生産が可能だったという。
ただし、バンパーダクトは生産設備がすでに無くなっており、新たに3Dデータを起こし、取り付け金具などを再生産することとなった。とは言っても、当時と同形状であることはもちろん、同じ製法にて復刻されている。
ちなみに、GT-Rを象徴するリヤの大型・門型のスポイラーは素材こそ当時と同じFRPではあるものの、新たな製造工程では中空となって当時のものより軽くなったそうだ。
この軽量化は、トランクのトーションスプリングのヘタリに対して有効な対策となるケースもあるが、逆にスプリングの反力が強くなりすぎてしまうことも考えられる。そこで、取り付け部にセットするウエイトを付属させ、反力が経年劣化した個体に対しての調整を可能としている。
これらのパーツの多くは先ほども書いたように、現物やボディ側を3Dスキャンしてデータを作り、ボディとの接合する部分の隙間(フィッティング)なども徹底的に確認。ボディの経年劣化なども考慮して微調整が出来るようにしつつ、リプレイス品として当時以上のクオリティで販売できるところまで辿り着き、ついに製品化に至ったというのである。
内装のリフレッシュパーツも開発中!?
ノスタルジック2デイズ2020では、BNR32のドア内張りやシートの張り替え、ダッシュボードにカバーを張ったものなど内装の補修アイテムも参考出品として展示されていた。
ダッシュボード自体のリプレイスも検討したが、現実味のある販売価格の想定ができなかった。そのため、カバーする形でファブリック素材を貼り替えるプランをニスモのメニューとして展開する案が現実的だと判断しているとのこと。
シートもNISMOのロゴが入ったカバーが参考出品という形で展示。実際のオーナー達から反響などを確認していた。
こうして、ひとつひとつ素材や工法を吟味しながら復刻されていくニスモのGT-Rヘリテージパーツ。その裏には、技術者の意地と情熱、そして第二世代GT-Rユーザーへの想いが込められているのである。
●取材協力:ニスモ 神奈川県横浜市鶴見区大黒町6−1 TEL:045-505-8508
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