スリークでスマートでオシャレさんな自動車の顔を見ながら育った者にとって、オラオラグリルは破壊の神。
アルファードの巨大銀歯グリルや、レクサスのスピンドルグリル、BMWの巨大キドニーグリル、アウディのシングルフレームグリルを見て、「なんでこんな怖い顔なんだぁ!」と嫌悪感を抱くのも、ある意味当然である。
がしかし、ふと見渡せば、我々の周囲には、さまざまなオラオラフェイスが存在している。その代表が祭り! 「唐津くんち」の
兜曳山「酒呑童子と源頼光の兜」を見よ! まさにオラオラ! オラオラは人々を熱狂させる! オラオラは迫力満点! カッコいいじゃないかぁっ!
その視点でオラオラグリルを見直せば、違和感はスッと消え、「もっともっと!」という期待が高まってくる。オラオラグリルはこれからまだまだ発展する! もっともっとオラオラと深化する! そこで今回はこれまでの変遷を辿ってみるぜ、オラオラァ!
※本稿は2021年11月のものです
文/清水草一、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2021年12月26日号
[gallink]
■オラオラグリルの帝王アルファードの快進撃を振り返る
次期アルファードの顔はどうなるのか、全世界が注目している。ベストカーの予想では、周囲のメッキが分厚くなり、ヘッドライトの極薄化が目立つが、インパクトはいまひとつ。もっとハジけて欲しいぜ!(ベストカー制作の予想CG)
オラオラグリルと言えばアルファード! 誰がなんと言おうとアルファードが世界の帝王だ! ほぼ国内専用モデルでありながら、もはやその名声は遠く東南アジア全域にオラオラとどろき、1000万円オーバーでも「くれくれ!」という人が列をなしている。
しかしそんなアルファードも、スタートは日産エルグランドの後追いのコバンザメだった。デザイン的にも、初代はまさにトヨタ版エルグランド。マネっ子マネちゃんだったのだ。
が、4気筒エンジン搭載の廉価版が大アタリで、エルグランドを駆逐。2代目はキープコンセプトなルックスで登場したが、この時同時に出た姉妹車のヴェルファイアがカマしてくれた。
エルグランドとはかなり異なる、ダブルヘッドライトの凶悪顔(当時の感覚です)が大ウケし、販売台数でアルファードをブチ抜いたのだ。
次期型アルファード(ベストカー制作の予想CG)
これでトヨタは、「オラオラはなんでもアリ!」と悟る。怖いものがなくなったアルファードは、3代目は巨大銀歯グリルという大バクチに出て、超絶大ヒット。先代のキープコンセプトで出たヴェルファイアを抜き返し、ついには事実上吸収合併、月販1万台を超えるまでに大化けした。
こうなると、次期アルファードがどんなオラオラグリルで登場するか興味津々だ。
ベストカーの予想では、グリルの縁のメッキが太くなっているが、現行モデルを見慣れた目には、平凡でやや手ぬるく感じる。我々オラオラグリルウォッチャーをして、「げえっ!」と言わせるような、究極のオラオラグリルに進化していることを望みたい。
オラオラの辞書に不可能はない! アルファードならできる! いや、やらねばならぬのだ!
■レクサスのスピンドルグリルは「世界の糸巻き口」へ!
10月に世界初公開された新型LXのスピンドルグリルは超強烈! これはもうすべてを吸い込むブラックホールだ。今後すべてのスピンドルグリルがこの方向に進むのか注目するしかない
高級車の世界に新たな基準を持ち込んだレクサスブランドだが、デザイン的には地味で、象徴となるアイコンを持たなかった。
このままではドイツ御三家を超えることはできない。熟慮の末に投入されたのが、スピンドルグリルである。
スピンドルとは「糸巻き」のこと。トヨタの前身は豊田自動織機、つまり糸巻きの会社。そのルーツを示した形状、という理由は実は後付けで、実際はエア導入口をバンパー下まで広げる過程で出てきた形状であったという。
2012年に4代目GSで初登場した当時は、ムリヤリ後付けした印象も強く、大方の反応もネガティブだったが、トヨタは初志貫徹して試行錯誤を続け、まずはバンパーによるグリルの上下の仕切りをなくした。
2年後、新型SUV「NX」が登場した時には、スピンドルグリルはボディのフォルムに自然になじみつつ、印象的かつ威圧的な、いい意味でのオラオラ感を獲得していた。
レクサス LX リア。顔に比べてすっきりとスタイリッシュな仕上がり
その後のスピンドルグリルは、微妙に口を巨大化させつつリファインを続けているが、新型LXのソレは、ひとつの大きなブレイクスルーだろう。
基本的には従来のスピンドルグリルを継承しているが、形状はシンプルに、開口部はより大きくなり、グリルの縁をなくすことで、輪郭ではなくグリル内の横桟による立体感で見る者を威圧する。
まるでグリルの奥がブラックホールであるかのような印象を与えるこのインパクトは強烈! それでいてレクサスらしい気品もキープ。これを見たらもう、従来のスピンドグリルが時代遅れに感じる。早く全部コレにしてくれ!
■実は先祖返りの巨大化!? BMWのキドニーグリル
全世界から大ブーイングのM4のフロントフェイス。キドニーグリルは上下に巨大化したが、それでも「303」を見ると、「もっとデカくできないか?」という気分になるのは私だけだろうか
このところ、世界のオラオラグリル界の台風の目となっているのが、BMWのキドニーグリルである。
キドニーグリルが誕生したのは、戦前の1933年。21世紀生まれのアルファードやスピンドルグリルとは、歴史の重みが違う。その伝統あるキドニーグリルが、デリカシーなく巨大化しつつあるのを見て、茫然・憤慨しているカーマニアは数多い。
が、キドニーグリルの元祖たる「303」を見ると、「こんなにデカかったのか!」とビックリする。当時のクルマの形状からすると、「顔面全部キドニーグリル」と言っても過言ではない。
中高年世代の我々でも、記憶にある最も古いキドニーグリルは、名車「2002」あたりだが、その源流は、1961年の「1500」に求められる。戦後、自動車の進化によってボンネットが大幅に薄くなり、それに合わせると、キドニーグリルも小さくせざるをえなかったのだ。
あんなに控え目だったキドニーグリルが、日に日に巨大化していくのを見れば、「世も末か……」といった感想を抱こうというものだが、実は大→小→大という、先祖返りだったのである。
BMW M4 リア。野太い4本出しのマフラーがオラオラといえばオラオラか?
確かに現在のBMWは、不自然なほどキドニーグリルを巨大化することで、強烈なインパクトを狙っているが、そこには源流回帰という大義名分が存在する。
近年BMWは、キドニーグリルを3種類作り分けている。7シリーズをはじめとするセダン系や、X7などのSUV系は、正方形化することで巨大化。一方スポーツモデルは、Z4と8シリーズが横長に巨大化、4シリーズは縦長巨大化だ。
このうち、今後メインストリームとなるのは、世界中で大不評(?)の縦長巨大化だろう。新型EV「iX」を見れば一目瞭然。今のデザイントレンドは目立ったモン勝ち。オラオラこそ正義なのである!
■デカ口の元祖は芸術的に進化中! アウディのシングルフレームグリル
シングルフレームグリルの最新トレンドはQ8にあり! シングルフレームグリルの新たな方向性は立体化にある。面積の拡大はもう限界だ。前に突き出すイメージで突撃するぜ!
アウディのシングルフレームグリルは、世界の自動車デザインに「デカい口」ブームを巻き起こした。
レクサスがスピンドルグリルを採用したのも、シングルフレームグリルの影響。ルームミラーに映った瞬間に、「アウディだ」と認識させるのが狙いだ。これによってアウディは、アウトバーンの帝王へと上り詰めたのである。
そのシングルフレームグリルの出発点は、2006年の3代目A6。発案した日本人デザイナー・和田智氏によると、「アウディの前身に当たるアウトウニオンのレーシングカー・タイプCからインスピレーションを得た」とのことだが、あんな葉巻型のクルマからぁ!? と絶句するしかない。
A6で初登場した頃は、まだバンパー部がうっすら残っていたが、その後完全にブラックアウトし、フロントフェイス全面が口! みたいな形状に進化。
その後はもう大きな変化は不可能で、輪郭を微妙に変えるだけに終始したが、Q8は輪郭に厚めの「唇」を加えることで、もう一段印象を強化することに成功している。
今後、オラオラグリルのトレンドは立体化。これ以上面積を広げられないなら、立体にするしかないじゃないか!
■ダイハツ タントカスタムに見る オラオラ軽スーパーハイトワゴン
ダイハツ タント。3代目の顔を進化熟成させ、4代目はブラック基調の顔になった。この「黒い顔」は、アルファード後期型を思わせる部分がなきにしもあらず。軽のデザインは時代とともに歩む
軽ワゴンは、標準モデルとカスタム系、2種類の顔を作り分けるのが不文律(?)となっている。その文法を作ったのがダイハツ。1997年のムーヴ/ムーヴカスタムが最初で、以後なぜか全メーカーがそれに追随したのである。
軽スーパーハイトワゴンの草分け・タントを例に取ると、2003年の初代登場の1年半後、「オトコタント」の名称でタントカスタムが登場。この時はまだ、オラオラというよりもスポーティ路線で、2代目も同様だった。
本格的なオラオラ化は2013年登場の3代目から。アルファード/ヴェルファイアの快進撃に刺激されたのか、一気にメッキギラギラのパチンコ台顔に進化。小さなボディでどこまで威圧的な顔を作れるかにすべてを注ぎ込んだデザインとなり、マイチェンでさらに深化した。
が、2019年登場の4代目では、メッキよりもブラック基調のやや落ち着いたオラオラ顔に熟成された。ギンギラも行き着くところまで行って、リバウンドしたようだ。一方ライバルたちは、相変わらずギラギラ度を増している。このオラオラ競争、どこまで行くのか。行けるところまで行ってくれ!
ダイハツ タント リア。オラオラ顔の車は顔のインパクトが強いぶん、後ろ姿があっさりして見える
■その他の軽スーパーハイトワゴンカスタム系
現在はeKクロススペースにチェンジしているが、このeKスペースカスタムこそが、軽オラオラグリル史上ナンバー1のオラオラ顔であったと認定したい。メッキの面積が凄すぎる。ここまでやるか!
軽スーパーハイトワゴンカスタム系のオラオラ顔中、歴代ナンバー1は、三菱の先代eKスペースカスタム! このグリルのメッキ面積を見よ!
販売トップを爆走するホンダのN-BOXシリーズは、メッキ面積は控え目ながら、カスタム系の目つきをワルにして頑張っている。
スペーシアカスタムの顔は、先代タントカスタムとウリふたつのパチンコ台型オラオラフェイス。ここまでやるかというマネっ子合戦だ。
日産はカスタムの名称を使わず「ハイウェイスター」で突き進む。顔付きもライバルに比べるとかなり上品で、標準顔との差が小さい。
三菱 eKスペースカスタム リア
■三菱の荒ぶる魂(?)ダイナミックシールド
衝撃の電気シェーバー、デリカD:5。賛否はともかくインパクトは抜群。自動車デザインに大きな一石を投じた。それにしてもよく剃れそうである
2019年のビッグマイナーチェンジ版デリカD:5の発表は、自動車デザイン界に激震をもたらした。その顔はまるで悪魔! いやよく見ると電気シェーバー! 三菱ダイナミックシールド、衝撃の発進だった。
ダイナミックシールドとは、文字どおり「力強い盾」。もともと三菱は台形のグリルで「しっかりした防御」をイメージさせることを狙っていたが、そこに左右からの力強いパフォーマンス感が加わって、X字型にクロス。ダイナミックなシールドが完成したのである。
デリカD:5に続いて、三菱全モデルがダイナミックシールド顔に変身したが、顔が平面的でないと、X字グリルが流れて迫力が出ないことが判明。結果的にダイナミックシールドのインパクトは、徐々に弱くなっている。
これを打開するには、すべてのモデルの顔を平面的に作り直す必要がある。果たして三菱がそこまでやるか。そこまでやってくれ! やってくれないと、せっかくのダイナミックシールドが時代の波に飲み込まれてしまう! やるならトコトンやるしかない! オラオラを極めろ!
三菱 デリカD:5 リア
■Vモーショングリルはどうなんだ!?
日産 セレナ。グリルが大きくV字型を形成しており、これぞVモーショングリルとも言うべきものだが、まったく通常のミニバンの顔に見えてしまう。日産車だ! という識別性は極めて弱い。Vモーショングリルが失敗であることの証明だ
日産はブランド統一デザインとして「Vモーショングリル」を採用し、全モデルに付けているが、もともとオラオラ狙いではないし、形状の特徴も極めて弱いため、迫力はまるでない。すでに完全に埋没しているので、近い将来、テコ入れが必要だろう。
【番外コラム】美意識は常に変遷する!!
人間が感じる美しさには、ある種の普遍性があるはずだが、こと「顔」に関しては、歴史的に大きく変遷を続けている。
典型的なのが平安美人だ。下ぶくれで目が猛烈に細い。これが平安時代の美人の条件だったが、今の価値観だとブサイク芸人である。20年前、世の中を震撼させたガングロヤマンバメイクは、美意識の揺れを象徴する出来事。「うげえ」と思っても、目が慣れるとかわいく見える(?)。
現在も世界各地に、下唇の巨大化や、首輪をはめることによる首長化といった「美」の習慣が残っているが、オラオラグリルはその一種と考えるとわかりやすい。
* * *
偶像におけるオラオラフェイスの歴史は極めて古く、先史時代にまでさかのぼる。日本の仁王様やお獅子をはじめ、チベット仏教の歓喜仏、インドの破壊神カーリー、ハワイの戦神クー、イースター島のモアイ、インカの太陽神など、世界中のありとあらゆる神像はたいていオラオラである。
一方、自動車にオラオラグリルが本格導入されたのは、今世紀に入ってから。まだ歴史が浅い。つまり今後いかなる発展を見せるか想像もつかないし、伸びしろは無限大だ。今後もオラオラグリルは、人々を感嘆・畏怖させ、神話化を進めていくことだろう。
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