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「V12でなければフェラーリにあらず」に異論を唱える跳ね馬とは? 名機「ディーノV6」までの系譜

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「V12でなければフェラーリにあらず」に異論を唱える跳ね馬とは? 名機「ディーノV6」までの系譜

■タルガ・フローリオやル・マンで活躍した4気筒フェラーリ

 センセーショナルなデビューを果たしたフェラーリ「296GTB」。120度V6ツインターボエンジン+プラグインハイブリッドで830psを発生するパワーユニットは、まさしく新時代の「ピッコロ・フェラーリ」のあり方を提案するものといえるだろう。

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 ところが、パワーユニットの基本となるエンジンがV型6気筒であることから「V6なら“ディーノ”名が正しいんじゃないの?」とか「そもそもV12以外は“フェラーリ”とは呼ばせないんじゃなかったの?」などの意見が噴出したことも記憶に新しい。

 筆者はそれらの見方に対して、おそれながらもハッキリ「No!」といわせていただきたい。市販ストラダーレの分野にて1970年代後半以降、V8エンジン搭載車が多勢を占める以前から、フェラーリの本分であるレーシングカーの分野では、V12ではないモデルが数多く存在したのだ。

 そこで今回のVAGUEでは、エンジンのタイプ別にV12以外のフェラーリ各モデルと、その背景を紹介さしよう。

●直列4気筒エンジンとともに戦果を挙げたフェラーリたちとは?

 1947年に創業したフェラーリは、翌1948年ごろには少しずつ復活し始めた「グランプリ」レースに、当時のレギュレーション(過給機つき1500cc以下/自然吸気4500cc)に合わせて、宿敵である絶対王者「アルファ ロメオ158(通称アルフェッタ)」も手掛けたジョアッキーノ・コロンボ技師の設計による1.5リッターV12+スーパーチャージャーつきエンジンを搭載した「125F1」で挑んだものの、さしたる戦果は挙げられなかった。

 そこで、コロンボ技師に代わってフェラーリの主任設計者となったアウレリオ・ランプレーディ博士は、1気筒あたりの排気量を大きめにするという考え方から、新たに自然吸気のV12エンジンを開発。最終型の4.5リッター「375F1」は、1951年シーズンの終盤でようやくアルファ ロメオを打ち破り、エンツォ・フェラーリをして「私は母(アルファ ロメオのこと)を殺してしまった」という名文句を生み出した……と、ここまでが本題に入る前のお話である。

 1951年シーズンをもって、それまでの王者アルファ ロメオがF1GPから完全撤退。フェラーリの独占状態を危惧したFIAは、1952年シーズンから2000cc以下の「フォーミュラ2(F2)」規格を、世界選手権タイトルの対象とすることにした。

 しかしフェラーリは、ランプレーディ博士の肝いりによって開発された2リッターの直列4気筒DOHCエンジンを搭載するグランプリマシン「500F2」を開発。アルベルト・アスカリのドライブで1952年シーズン、および翌1953年シーズンともにほぼ全戦全勝。もちろんアスカリはドライバーズタイトルを獲得する輝かしい戦果を達成した。

 1954年シーズン以降のFIA-F1GPは、2500cc以下の自然吸気による新レギュレーションに移行し、フェラーリも4気筒エンジンを拡大した「553F1」や「555スーペルスクアーロ」などを投入するが、いずれもメルセデス・ベンツ「W196」やマセラティ「250F」などのライバルの前に大苦戦。失意のランプレーディ博士は、マラネッロを去ることになった。

 しかしランプレーディ博士の4気筒エンジンは、そののちスポーツカーレースで目覚ましい活躍を見せることになった。

 まずは同じ2リッターの「500モンディアル(1953年)」を皮切りに、3リッターの「750モンツァ(1954年)」、2.5リッターの「625LM(1956年)」などが続々と登場。また「モンツァ」には3.4リッターの「857」ないしは「860」ユニットも搭載され、1956年のミッレ・ミリアでは2-3位を占める。

 さらに2000cc以下クラスの覇権を目指し、初めて「テスタロッサ」の名を冠した「500TR(1956年)」やその改良型「500TRC(1957年)」など、数多くのバリエーションモデルが誕生し、それぞれタルガ・フローリオやル・マンでクラス優勝を果たすなど、目覚ましい戦果を得たのだ。

 蛇足ながら、1気筒当たりの排気量を大きくすることで得られるトルクに魅了されたランプレーディ博士は、なんと直列2気筒2.5リッターというエキセントリックなレーシングエンジンも開発。「ティーポ252F1」と命名して実際にテストもおこなったようだが、やはり過大な振動やトルク反動ゆえに、高回転を要求されるレーシングエンジンには不向きで、早々にキャンセルされてしまったとのことである。

■フェラーリにもあった直列6気筒モデルとは

 直列4気筒エンジンを搭載したGPマシン/レーシングスポーツたちの成功の陰に隠れてしまっているようだが、実はフェラーリとアウレリオ・ランプレーディ博士は、既存の直列4気筒DOHCエンジンに、もう2気筒を追加したような直列6気筒DOHCエンジンを、ル・マン24時間をはじめとするレースに実戦投入していた。

●実は、直列6気筒を搭載するフェラーリ・レーシングスポーツも存在した

 仮想ライバルとしたのは、ジャガーの歴史的名作「Dタイプ」だ。1954年に実戦配備されたDタイプは、翌1955年のル・マンで優勝。さらにサテライトチームの「エキュリー・エコッス」に委ねられた1956年と1957年にも優勝し、ル・マン3連勝を果たすことになるのだが、フェラーリではその牙城に挑むべく、同じく直列6気筒エンジンを搭載するレーシングスポーツカーの開発に着手した。

 端緒となったのは、現在では「306S」と呼ばれる3リッターモデルだ。これは500系の2リッター直4エンジンに、そのまま2気筒をプラスしたものだったという。

 ただ、この排気量ではライバルには敵わないと判断したのか、実戦には投入されることのないまま、3.7リッターにエンジンを拡大した「118LM」へと進化する。「118」とは、エンジンの形式名からつけられたコードナンバーにちなんだ車名で、現在のフェラーリ公式HPでは「376S」と呼ばれているようだ。

 1955年に4台が製作されたという118LMは、「ジーロ・ディ・シチリア」優勝などの戦果を獲得するも、ほどなく全車が4.4リッター直6エンジンを搭載する「121LM(446Sまたは735LMとも呼ばれる)」にアップデートされることになった。

 これら一連の6気筒モデルに組み合わされたシャシや、スカリエッティ製のバルケッタ型ボディは、同時代の「750モンツァ」に最小限の改良を加えたものだったという。

 こうして最大の目的である1955年のル・マン24時間レースにてデビューした121LMは、排気量の大きさを生かしてファステストラップをたたき出すなどの速さを見せるが、エントリーした3台すべてがリタイアすることになってしまう。

 その後1957年シーズンより、3000cc以下のレーシングスポーツカーが世界スポーツカー選手権の対象となったことを受け、既存の「250GT」用3リッターV12エンジンを高度にチューンした「250テスタロッサ」を開発。

 そして、250テスタロッサがデビュー早々から素晴らしい成績を上げたことによって行き場を失った121LMは、南北アメリカ大陸に活路を見出そうとするが、ここでも大きな戦果を挙げることなくフェードアウトすることになった。

■エンツォの長男「ディーノ」の名を持つV6エンジンを搭載したフェラーリモデル

 エンツォ・フェラーリの長男、「ディーノ」ことアルフレード・フェラーリは、1956年に、24歳という若さでこの世を去る直前に、病床でV型6気筒エンジンのアイデアを温めていたという。そのアイデアを、当時フェラーリの技術陣に迎えられた巨匠ヴィットリオ・ヤーノ技師と彼のチームが具現化したのが、名機ディーノV6ユニットの起源とされている。

●ディーノV6エンジンも当初は“フェラーリ”名義でレースを闘っていた

 初めて製作されたディーノV6は、現在のフェラーリ製V12にも継承されたバンク角65度を採用し、ディーノが他界した翌年にあたる1957年に、1500ccのF2マシン「ディーノ156F2」に搭載されてデビューを果たした。

 1958年には排気量を2.4リッターに拡大し、「246 F1」に搭載。この年のF1世界選手権ドライバー部門タイトルを、マイク・ホーソーンにもたらしている。

 またF1規約が1500cc以下となった1961年シーズン、フェラーリに初のF1コンストラクターズ・タイトルをもたらした「156 F1」は、新生296GTBと同じくバンク角120度のV6エンジンを搭載していた。

 一方、スポーツカー耐久レースやヒルクライムでも、ディーノV6ユニットは様々な排気量となって活躍を続けてゆく。

 まずはフロントエンジン時代の1950年代末に、「196S」と「296S」に搭載。そののちミドシップ時代となっても、1961年の「246SP」に載せられて数々の優勝を果たしたほか、この年と翌1962年にタルガ・フローリオで連覇した。

 また2000cc以下クラスの覇権を目指した「196SP」なども製作され、こちらは当時のヨーロッパではFIAタイトルも懸けられたヒルクライム競技などで活躍。

 さらに「ディーノ」の名のもとに、バンクあたりSOHCヘッドを持つ90度V8・2.4/2.6リッターエンジンを開発し、246SPの車体に載せた「248SP」および「268SP」も開発されるが、大きな戦果は挙げられなかったという。

 ディーノV6を搭載したレーシングスポーツカーに転機が訪れるのは、1966年にデビューした「ディーノ166P」だった。それまでは「フェラーリ」ないしは「フェラーリ・ディーノ」名義でエントリーしていたのが、ディーノ166Pおよび「ディーノ206S/206SP」以降は、「ディーノ」名義の車名とエンブレムを堂々と掲げて、レースに参加。小排気量クラスで素晴らしい戦果を残すことになるのだ。

 これら一連のV6ユニットがたどったレーシングヒストリーは輝かしいものであり、エンツォがこのエンジンを、もともとの発案者である愛息ディーノともども誇らしく思っていたことは、容易に想像がつく。

 だからV12エンジンを搭載しないという理由で、ディーノGTを「フェラーリ」と呼ばせなかったという説には、あくまで私見ながらどうあっても賛同し難い。

 それは、若くして逝去してしまったディーノの名を、ブランド名として遺してやりたかったエンツォ翁の親心によるもの。そう信じたい筆者なのである。

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みんなのコメント

3件
  • 一番好きなferrariは、500TRCだし、次はF40、そしてDino246と続く、
    だから12発以外の方が好きだな、別に何発だろうとferrariは変わらない魅力がある。
  • この記事の最後の段落、これが正しい気がする。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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