■手書きもOK? 熊本県警が独自文字のパトカーを配備する理由は
警視庁と各道府県のパトカーには、「警視庁」「神奈川県警察」「沖縄県警察」などの文字が記載されています。そんななか、熊本県警は47都道府県のパトカーのなかで、唯一手書きの文字をパトカーの文字に採用しています。いったいなぜ、手書きを採用しているのでしょうか。
47都道府県のパトカーには、それぞれ県警指定の書体で文字が記されています。
トヨタ「クラウン」に代表されるセダン型のパトカーは、全国統一(一部除く)の「車両仕様書」や「個別仕様書」に基づいて製作されており、白と黒のボディカラーの色指定や窓の素材や強度、タイヤサイズ、搭載される装備に至るまで、ほぼ統一の基準となっています。
おそらく、各都道府県の「個性」を唯一出せるのが、パトカーの両サイドに大きく記された「神奈川県警」「警視庁」などの文字といえるかもしれません。
文字の表記は道府県によって異なっており、主流は「神奈川県警察」のように、「警察」まで記されるパターンですが、「大阪府警」や「香川県警」など「警」までで終わっているところもあります。
なお、香川県警では近年導入されたパトカーには、「香川県警察」と記されているとのことです。
個性的といえば青森県警のパトカーには県警のシンボルマークである白鳥のイラストが描かれています。
そして、文字の書体についても、各都道府県のパトカーでさまざまなバリエーションがあります。ゴシック体が多い印象ですが、筆者(加藤久美子)が住む神奈川県警察の書体はかなり独特なゴシック体で、NEXCOで使われている「公団フォント」に似ています。
そんななか、全国の都道府県警察のパトカーの文字に唯一「手書き」文字を採用しているのが熊本県警察のパトカーです。
熊本県警のパトカーに記された「熊本県警察」の文字。とても力強く、美しく均整がとれています。
なぜ、手書き文字をパトカーに採用しているのでしょう。そして、いったいこの文字は誰が書いたのでしょうか。熊本県警察本部警務部警務課装備補佐の野口浩一警部は、次のように話します。
「パトカーに記された『熊本県警察』の文字は、熊本県警OBで元柔道主席師範である、西山巌氏によって書かれたものです。いつからこの文字を使っていて、どのような経緯でパトカーの文字として記されるようになったのか、正確には不明なのですが、昭和50年代初頭からあったことは確かです。
少なくとも40年以上は手書き文字が続いていますが、当時は右から左に『察警県本熊』と記されていました。熊本県警のパトカーはすべて、この文字を使っています。
なお、同じ西山巌氏の手書き文字にもかつてはいくつか種類があり、近年のパトカーはすべて同じ書体となっていますが、30年くらい前には何パターンか存在していました。現在も使われている少し古い小型パトカーのなかには、書体が違うものも存在しています」
確かに、筆者が熊本市内で見かけたトヨタのコンパクトカー「パッソ」ベースのパトカーは、書体が少し違っていました。熊本県の「県」でその違いがはっきりとわかります。
もちろん、手書きといっても1台1台パトカーに書いているわけではなく、西山氏が書いた「熊本県警察」の文字をそのまま型に取って、プリントしたものを貼っています。
■パトカーの配色、なぜボディ下端側が黒いのか
取材に訪れた熊本県警察本部には、広報スペースがあり、そこには白バイやミニチュアの県警ヘリの展示がありました。
しかし、それらに記された「熊本県警察」の文字は手書きではなく、普通のゴシック体でした。これについて、野口警部は次のようにいいます。
「手書きなのはパトカーだけですね。白バイやヘリコプター、そのほかの警察関係の乗り物はゴシック体に統一されています」
※ ※ ※
日本のパトカーといえば、上半分が白、下半分が黒で、基本デザインはすべて統一されています。この白黒デザインは一般車両と区別がつきやすいようにするため、アメリカのパトカーのデザインを参考にして決められました。
現在のパトカーにつながる警察車両が初めて登場したのは1950年(昭和25年)で、当時は「移動警察車」と呼ばれていました。
白黒デザインのパトカーが生まれたのは1955年(昭和30年)以降で、当時舗装されていない道路が非常に多かった日本の道路事情を考慮して、泥汚れが目立たないように下半分は黒い塗装にしたという経緯もあるようです。
日本が参考にしたアメリカのパトカーは、横から見ると前と後ろが黒で中央が白というデザインがオーソドックスですが、ほかにもいろいろなデザインがあります。
州ごとの警察で違っていたり、同じ州でも地域(町単位、市単位)で違っていたり、郡保安官(sheriff)が乗るパトカーも違っていたり、なかなか複雑です。地域の秩序は地域住民が負うべきという自治意識が強い、アメリカならではの特徴といえそうです。
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