現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > アントネッリに殺到した誹謗中傷……”言い出しっぺ”のレッドブル・マルコ博士以外にも責任あり

ここから本文です

アントネッリに殺到した誹謗中傷……”言い出しっぺ”のレッドブル・マルコ博士以外にも責任あり

掲載 10
アントネッリに殺到した誹謗中傷……”言い出しっぺ”のレッドブル・マルコ博士以外にも責任あり

 F1カタールGP後、メルセデスのアンドレア・キミ・アントネッリに対して、レッドブルのアドバイザーを務めるヘルムート・マルコ博士は批判的なコメントを残していた。それが発端となりSNSではアントネッリに向けた誹謗中傷が殺到する事態に発展。その状況を見て、マルコ博士はアントネッリへ謝罪したが、この騒動が大きくなってしまった背景には、テレビ中継も一因となっていたことを忘れてはいけない。

 最初に明確にしなくてはならないのは、SNSで誹謗中傷をした者には、事態を悪化させた直接的な責任があると言うことだ。これは仮に匿名アカウントであろうと、権威ある著名人であろうと、誰も他人に対して根拠もなく、バカげたコメントをする立場にない。このような行為は決して正当化できない。

■【コラム】角田裕毅のF1レギュラーシート喪失を考える

 それを踏まえると、82歳と言う聡明であるべき年齢でレッドブルのアドバイザーを務めるマルコ博士は、アントネッリに対してカタールGP後に批判的なコメントをしたことを悔やむことしかできない。特にこのシーズンの大詰めという緊張感が高まる時期であることを考えると、仮にマルコがはっきりとものを言う性格であるにしろ、完全に避けることができたことだ。

 その後、レッドブルは短い声明とマルコの謝罪がレース終了から12時間以上も経って公表された。時すでに遅しとまでは言わないが、何もないよりはマシだ。

■国際映像の役割

 しかしこの一連の騒動には、単なるレーシングインシデントとして扱われるべき事態(タイトル争いの決定的瞬間となり得るものではあったが)を炎上させたもう一つの要因が存在する。それは国際映像を制作したF1自体である。

 56周目と57周目の国際映像やレース直後の報道も確認すると、利用可能な放送リソースの選択ミスや場当たり的な使い方が、本来なら単なるレーシングインシデントで済んだはずの事態をいかに煽り立てたか、教科書的な事例になったとしか言いようがない。

 56周目、テレビ中継はもちろん、4位争いを繰り広げるアントネッリとマクラーレンのランド・ノリスに焦点を当てた。55周目ターン15出口から両者をカメラが追うが、広角ショットも交えつつ主にノリスにレンズが向けられた。56周目ターン10に差し掛かる瞬間、すなわちアントネッリがミスを犯した決定的な瞬間、カメラは実際にはノリスのみを捉えていた。

 テレビ中継はアントネッリのミスをリアルタイムで捉え損ねた。そして、ノリスが速度を落としたアントネッリを追い抜こうとした瞬間、映像が切り替わる。ヘリコプター視点でノリスがアントネッリを圧倒的な速度差で追い抜く様子が映し出される一方、グラフィックでは首位を走行していたレッドブルのマックス・フェルスタッペンが最終ラップに突入したことが示されていた。

 その後約30秒間、放送はノリスに固定される。更新されたリアルタイム選手権順位を表示した後、フェルスタッペンに切り替わり、ノリスが3番手を走行するウィリアムズのカルロス・サインツJr.を追走する様子を小型ウィンドウでオンボードカメラ映像と共に映し続ける。

 フェルスタッペンを追跡してからさらに約40秒後、放送は無線メッセージを予告するアニメーションを起動。そこでフェルスタッペンのレースエンジニアを務めるジャンピエロ・ランビアーゼが明らかにノリスのオーバーテイク直後に送ったメッセージが流れる。

「マックス、アントネッリに何があったかはわからないが、彼はただ路肩に寄ってノリスを通したようだ」

 音声が途切れたまさにその瞬間、フェルスタッペンは最終コーナーに進入し、優勝を決めた。その後、他の車両のフィニッシュ、クールダウンラップ、数件の無線メッセージ、トップ3のパルクフェルメ到着、そして車両から降りた直後のインタビュー、シャンパンファイトなど、さまざまなシーンが長らく放送された。

 要するに、これら全てが放送し終わった約10分後、ようやくテレビ中継では、56周目の背景を説明し始める機会が訪れた。アントネッリのオンボードリプレイ、続いてノリス側の映像を流し、それはまさに、実際に何が起きたかについて疑いの余地がほとんどない説明がなされた。しかし、その頃には視聴者の大半は既にチャンネルを変えていただろう。決定的な瞬間が放映されなかった媒体もあるはずだ。

■国際映像が問われる責任

 事故発生からフェルスタッペンのフィニッシュまでの間に映像を流さなかったことについては、F1を責めるつもりはない。時間が足りなかっただろうし、最優先されるべきはフェルスタッペンがコントロールラインを越え、シーズン7勝目を達成する瞬間だからだ。

 しかし、強く遺憾なのは、放送側がランビアーゼの無線メッセージを完全に文脈を無視した形で急いで流したこと、そしてフィニッシュ後にはノリスによる追い抜きの関連リプレイや、自身のミスを即座に認めたアントネッリの無線メッセージすら放送する緊急性を欠いたことだ。

 アントネッリのミスが生中継で確認できなかったため、その場では状況が不明確だったにもかかわらず、レッドブルの無線メッセージを無分別に流用したことが、物語を非常に危険な方向へ導く一因となった。当然ながら、そこからマルコが自ら火に油を注ぎ、事態は急速に制御不能に陥った。

 数週間前、F1中継は別の問題で注目を集めた。コース上でのアクションを犠牲にして、有名人やドライバーのパートナーの映像を優先的に流したのだ。これは確かに問題であり、リバティ・メディア時代以前から存在していたとはいえ、象徴的な問題とも言える。しかし、アントネッリの事例が不幸にも示すように、放送リソースを文脈から切り離して使用することは全く別の問題であり、はるかに深刻な影響を及ぼす。

 F1は確かに壮大な物語を伝えたいと考えている。しかしその物語を、意図的か否かを問わず歪める行為は、特に白熱したチャンピオン争いの文脈において物議を醸す無線メッセージを世界中のファンが耳にする一瞬の興奮よりも、はるかに重大な結果を招くリスクを伴う。

 誰もそのような目に遭うべきではない。ましてや19歳の若者を巡る問題となれば、マルコであれテレビ演出であれ、関係者の行動がもたらす結果に対する早急な自己反省とより深刻な問題意識を促すべきである。

文:motorsport.com 日本版 Fabien Gaillard
【キャンペーン】第2・4金土日は7円/L引き!ガソリン・軽油をお得に給油!(要マイカー登録&特定情報の入力)

こんな記事も読まれています

DAZN、今季限りで日本におけるF1配信を”一旦終了”「今後もモータースポーツの熱を様々な機会を通じてお届けする」
DAZN、今季限りで日本におけるF1配信を”一旦終了”「今後もモータースポーツの熱を様々な機会を通じてお届けする」
motorsport.com 日本版
SNS上でアントネッリへの誹謗中傷が加速……この状況に繋がった発言をレッドブルのマルコ博士は撤回&謝罪「非難に繋がったのを残念に思う」
SNS上でアントネッリへの誹謗中傷が加速……この状況に繋がった発言をレッドブルのマルコ博士は撤回&謝罪「非難に繋がったのを残念に思う」
motorsport.com 日本版
2チームで角田裕毅に寄り添い続けたメキース。去就発表前後の言葉に見えた配慮とエール【代表のコメント裏事情】
2チームで角田裕毅に寄り添い続けたメキース。去就発表前後の言葉に見えた配慮とエール【代表のコメント裏事情】
AUTOSPORT web
アルボン、角田裕毅のシート喪失に同情。「2021年の僕と似ている。彼が戻ってくることを願っている」
アルボン、角田裕毅のシート喪失に同情。「2021年の僕と似ている。彼が戻ってくることを願っている」
motorsport.com 日本版
レッドブル主要メンバーの誤った批判で、アントネッリに誹謗中傷が殺到。チームは発言を撤回、深刻視したFIAが声明
レッドブル主要メンバーの誤った批判で、アントネッリに誹謗中傷が殺到。チームは発言を撤回、深刻視したFIAが声明
AUTOSPORT web
「俺の背中はボロボロだ」現行F1マシンはドライバーの肉体をむしばんでいた……来季のマシンでは負担軽減の見込み
「俺の背中はボロボロだ」現行F1マシンはドライバーの肉体をむしばんでいた……来季のマシンでは負担軽減の見込み
motorsport.com 日本版
DAZN、F1配信を2025年シーズンの契約満了をもって一旦終了。長きにわたる応援に感謝
DAZN、F1配信を2025年シーズンの契約満了をもって一旦終了。長きにわたる応援に感謝
AUTOSPORT web
誹謗中傷の標的となったアントネッリ、フェルスタッペンらのサポートに感謝「彼は本当に親切だった」
誹謗中傷の標的となったアントネッリ、フェルスタッペンらのサポートに感謝「彼は本当に親切だった」
AUTOSPORT web
ついに王者が決まる最終戦。フェルスタッペンは「うまくいくレースもそうでない時もある」と巻き返しを誇る/F1第24戦木曜会見
ついに王者が決まる最終戦。フェルスタッペンは「うまくいくレースもそうでない時もある」と巻き返しを誇る/F1第24戦木曜会見
AUTOSPORT web
ミスを悔やむアントネッリに降りかかったSNS上の誹謗中傷。レッドブルは首脳陣の誤りを認める【ルーキー・フォーカス】
ミスを悔やむアントネッリに降りかかったSNS上の誹謗中傷。レッドブルは首脳陣の誤りを認める【ルーキー・フォーカス】
AUTOSPORT web
海外F1記者の視点|マクラーレンはまたしても“やってしまった”のか? カタールGPでのステイアウト戦略を斬る
海外F1記者の視点|マクラーレンはまたしても“やってしまった”のか? カタールGPでのステイアウト戦略を斬る
motorsport.com 日本版
アントネッリはノリスに4位を譲った? レッドブル相談役マルコの指摘にメルセデス代表も激怒「頭がおかしくなりそうだ」
アントネッリはノリスに4位を譲った? レッドブル相談役マルコの指摘にメルセデス代表も激怒「頭がおかしくなりそうだ」
motorsport.com 日本版
「コレはすごい」「そんな方法が?」考えた人、頭いいわ。固く締まったネジを外す超便利な裏ワザ。もっと早く知りたかった豆知識。
「コレはすごい」「そんな方法が?」考えた人、頭いいわ。固く締まったネジを外す超便利な裏ワザ。もっと早く知りたかった豆知識。
月刊自家用車WEB
フェラーリへのネガティブな報道が苦戦の一因? ハミルトン「チームに影響を与えている」
フェラーリへのネガティブな報道が苦戦の一因? ハミルトン「チームに影響を与えている」
motorsport.com 日本版
フェルスタッペン相手はメンタルにダメージ入る? レッドブル代表「ミスをしないんだ。自然と心理的な影響がある」
フェルスタッペン相手はメンタルにダメージ入る? レッドブル代表「ミスをしないんだ。自然と心理的な影響がある」
motorsport.com 日本版
F1初王座のかかるランド・ノリス、逆転敗北なら致命傷はどれ? 重要6レースを振り返る
F1初王座のかかるランド・ノリス、逆転敗北なら致命傷はどれ? 重要6レースを振り返る
motorsport.com 日本版
ランキング4位確定のフェラーリ、開発早期終了の判断に後悔なし「モチベーション維持の難しさを過小評価していたが……」
ランキング4位確定のフェラーリ、開発早期終了の判断に後悔なし「モチベーション維持の難しさを過小評価していたが……」
motorsport.com 日本版
失格処分は妥当なのか? コンマ数ミリの差で2位&4位を失ったマクラーレン「FIAも少し厳し過ぎたと感じている」
失格処分は妥当なのか? コンマ数ミリの差で2位&4位を失ったマクラーレン「FIAも少し厳し過ぎたと感じている」
motorsport.com 日本版

みんなのコメント

10件
  • suz********
    昔から思っていたがF1はリプレイが遅いと思う。
    だいぶレースが進んでから突然と戦況とは関係ないリプレイが出される。
    もう少し上手くやれよといつも思う。
  • mar********
    マルコも憶測で失言はダメだと思う。
    まぁタッペンが三つ巴の争いをしている最中だけに、気持ちが分からん訳ではないけど、これはちょっと言い過ぎ。
    マルコも潮時かな…。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村