ファミリー層は観音開きドアがメリットになる!
CX-3からCX-8まで、多彩なクロスオーバーSUVを揃えるマツダから、2020年唯一の新型車として登場したのがMX-30だ。CX-30をベースに、RX-8を思い出させる観音開きドア=フリースタイルドアを採用し、パワートレインはすでに欧州で発売が開始されているピュアEV(日本でも2021年1月に発売)、そしてこの10月に国内仕様としてリリースされたマイルドハイブリッド、さらには2022年にロータリーエンジン×レンジエクステンダーモデルも用意される予定だ。
なぜ「CX」シリーズじゃない? マツダの新型SUVが「MX」を名乗るワケ
ここではMX-30の日本仕様第一弾として登場した、マツダ初の電動車でもあるマイルドハイブリッド仕様をリポートしたい。
クロスオーバーSUVというより、クーペクロスオーバーと呼ぶのが相応しいMX-30のボディサイズは全長4395mm×全幅1795mmと、CX-30と同一。2655mmのホイールベースもまたCX-30と変わらない。違いは全高がCX-30より10mm高い1550mmになることと、フリースタイルドアまわりの補強によって車重が60kg増し(CX-30のスカイアクティブG比較)となり、に最低地上高がCX-30の5mm増しになる180mmとしたことぐらい。室内寸法もまた、CX-30とほとんど同じと言っていい。
では、MX-30はCX-30にただフリースタイルドアを付けただけのクルマか、と言えば、見た目どおり、まったくそうではない。クーペライクなエクステリアデザインでは、フロントグリルがシュッとした小顔になり、フロントバンパーも、つるりとしたシンプルな造形になっている。モデルラインアップもモノグレードとし、2WDとAWDが選べるのみ。そうしたシンプルな商品性は、これまでの熱心なマツダファンだけでなく、クルマ選びに慣れていない、運転初心者や子育て世代を含む、より多くのユーザーにアピールしたい狙いがそこに込められていると考えていいだろう。
気になるフリースタイルドアの使い勝手だが、アウトサイドにオープナーのないリヤドアは、例によってフロントドアを開けないと、開けることも、閉めることもできない。その不便さと引き換えにあるのが、Bピラーレスによる広大な開口部。何しろフロントドアが82度、リヤドアも80度まで大きく開き、ベビーカーや車いすを乗降部ギリギリまでつけることができ、クルリと回転させることも容易。今ではミニバンを持たないマツダだから、この乗降性はファミリー層を中心に受け入れられると思われる。
ただし、開口角度が大きいゆえに、フロントドアの張り出し量は実測1060mmに達し(リヤドアは750mm)、日本の狭い駐車場内で全開にすることは難しいだろう。さらに、フリースタイルドアをガッチリと閉め、固定するため、サイドシル中央部分にラッチの出っ張りがあり、それの高さぶんをフォローするため、リヤドア部分のサイドシル地上高が、クロスオーバーSUVとして劇的に低いフロントドア部分の約410mmに対して約450mmまで高まっている。もっとも、SUVのサイドシル高の平均値は約460mmだから、格段に敷居が高いわけではない。
シートまわりは前後とも文句ナシ!
インテリアはコルクやリサイクル素材を使った、サスティナブルにこだわった空間だ。フローティングセンターコンソールなど、デザイン的には凝っていて、全体の質感の高いものの、CXシリーズとは違う新しさがあるか? といわれれば、そうでもない。
メーターまわりはCX-30と変わらず、縦型がトレンドとなりつつある中、依然、横ワイドなナビ画面の上下方向の狭さによって、進行方向のマップ表示と情報量が制約されるなど、決して褒められない。
シンプルなシフターにしても、慣れるまで操作の確実感に乏しく、Pレンジに入れたつもりで(インジケーターは点灯)も、実際には入っていなくて、エンジンスタートができない場面もあった。
とはいえ、前後シートはともにアップライトでかけ心地は上々。とくにマツダ3から採用された、腰骨を立て、背筋が伸びるドライビングポジションがとれる新骨格フロントシートのかけ心地は文句なしだ。
後席の居住性は、ドアの開閉操作についてはともかく、頭上方向こそCX-30より約20mm減になるものの(身長172cmのリポーターの頭上で100mmのスペース)、膝まわり方向はCX-30とほぼ同じ130mmのスペースが確保されている。サイドウインドウが開かず、換気できない点を除けば、前方見通し性の良さもあって、日本人の平均的身長の人であれば、着座している限り、それほど窮屈な思いをすることはないはずだ。
ちなみにラゲッジルームは、クーペライクなリヤデザインの採用で、フロアの幅方向はCX-30と同じ1000mmを確保するものの、奥行、高さ方向は狭くなっている。容量はCX-30の430リットルに対して MX-30は400リットルとなる。
MX-30のパワーユニットは、「eスカイアクティブG」と呼ばれ、CX-30のスカイアクティブG同様の2リッターガソリンエンジン=156馬力/20.3kg-mスカイアクティブGに微力なモーター、6.9馬力/5.0kg-mをアドオンしたもの。組み合わされるミッションは例によって6速AT(のみ)。CX-30に対して最終減速比を4.367から4.669として、60kgの車重増に対応しているようだ。
従来のマツダのSUV「CXシリーズ」よりも穏やかな乗り味
ハイブリッドといっても、MX-30は”マイルドすぎる”ハイブリッドであり、プリウスのようなストロングハイブリッドで可能なエンジンに頼らない発進、モーター走行はできない。実際、スターターボタンを押せば、スカイアクティブGと同様にエンジンが(静かに)始動する。マイルドハイブリッドのメリットは、微小な燃費性能向上(WLTC総合モードでCX-30スカイアクティブGの15.4km/Lに対して15.6km/L)、アイドリングストップ復帰時と6速ATの変速時のスムースさへの貢献ぐらいのもの。だから、走り始めて、ハイブリッド感、特別感はない。走行感覚は2リッタースカイアクティブG搭載車とほとんど変わることはないということだ。
乗り心地はどうか。マツダの最新モデルは18インチタイヤをしっかり履きこなしているが、このMX-30でも段差の乗り越えや荒れた路面の走行でさえマイルドで乗員にやさしいタッチを示してくれる。
ただし、2WDの場合、CX-30と比較して、シビアに見れば重心感が高く感じられたのも事実。理由は、大開口となるフリースタイルドアまわりの補強によって、車体の高い位置に重量物が加わったせいである。
開発陣に聞けば、重心高は20mm弱高まっているという。その点、AWDになると、リヤ駆動にかかわる重量物が車体下部にあるため、重心感の高さは感じにくくなり(いずれも個人の感想)、+60kgの重量増から、乗り心地もわずかながら、良路であればしっとりとしたタッチを示してくれるようになる。
MX-30はよりユーザーの間口を広げるための新型車でもあるのだが、あえて万人向けに設定したであろう部分が、穏やかな操縦性とエンジンレスポンスではないだろうか。人馬一体、Gのつながりをアピールしているマツダ車としては、回頭感も加速性能も比較的マイルド。逆に言えば、誰もが自然に安心して運転でき、同乗者も快適に乗っていられる、ということだ。車内のどこかにつかまれない幼児やペットには、G-ベクタリングコントロールプラスの威力とともに、うってつけといえる乗車感覚かもしれない。
もちろん、アクセルペダルを深々と踏み込めば、盛大なエンジンサウンドとともに十二分な加速力を発揮してくれるが、CX-30のスカイアクティブDのように強大なトルクに押し出される感覚は、モーターのアドオンをもってしても、望めないのもまた事実。全体的に、よくいえば、ジェントルにしつけられているということになるが、走りに、感動に値するような特徴は見出しにくい。
難しいのは、CX-30とMX-30の選択である。CX-30であればパワーユーニット選びに自由度があり(スカイアクティブG/D/Xの3種類)、当たり前だが、リヤドアからの乗り降りに特別な操作、手間は不要。マイルドハイブリッドに多大な期待はできないことから(動力性能やストロングハイブリッドにあるAC100V/1500Wコンセントが装備されない点など)、MX-30の特別感は主にフリースタイルドアを持つエクステリアデザインに尽きるということになりそうだ。
が、MX-30に、真打ちモデルと言えそうなピュアEVが加われば、話は別。インパネ、メーターまわりのデザインがそのままなのはちょっと残念で、価格もそれなりなってしまうはずだが、MX-30の立ち位置、より積極的なマツダの電動化戦略が明確になると思える。
ちなみに、MX-30は3トーンボディカラーがお似合いだ。意外だが、これまでのマツダ車をもっともカッコ良く、上質に見せてくれたソウルレッドクリスタルメタリック基調よりも、明るくクールなセラミックメタリック基調の3トーンをベストボディカラーとしたいところである。
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いやいやこれはダメでしょう。