『トミカ』のNo.98は『大型人員輸送車』です。単に「大型人員輸送車」と言われても何だかよくわかりませんが、これは警察で使用されている車両になります。
警察の人員輸送車は、主に警察が警備行動を行なう際、警察官や資・機材を警備場所に輸送するために使用される車両ですが、普通ワンボックス車をベースにした小型人員輸送車、マイクロバスをベースにした中型人員輸送車、主に路線バス用途に使用されている中型バスをベースにした大型人員輸送車の3つのサイズがあります。このうちの大型が『トミカ』でモデル化されているものとなります。
『トミカ』随一の異色作? 救急救命の最前線で活躍する空飛ぶドクター! トミカ × リアルカー オールカタログ / No.97 ドクターヘリ
島根県警で使用されている大型人員輸送車。(PHOTO:島根県警)ちなみに小型あるいは中型人員輸送車は、機動隊や一部の警察では「遊撃車」という名前で呼ばれており、中型のことを遊撃車I型あるいはII型、小型のことを遊撃車III型あるいはIV型と分類して呼んでいます。人員輸送車とまったく同じ仕様のものが多数を占めている一方、人員輸送車とは座席配置など車内のレイアウトをまったく変えた専用仕様とされた遊撃車もあります。なお、現場では「マル遊」と通称されることもあります。
普通ワンボックス車をベースとした小型輸送車は、現場への人員輸送や資材搬送などに用いられるだけでなく、その大きさや使い勝手から周辺警備や警護車列の前後での警戒に用いられることもあります。また、マイクロバスをベースとした中型は交通検問などで使用されているのをよく見かけます。
エルガ、エルガミオの運転席は「ラウンドフォルムコックピット」と呼ぶ使い勝手に優れたデザインと配置を持つ。エルガの通路(ノンステップエリア)は幅広さが自慢。これに対し中型バスをベースにした大型は、国会議事堂など国家的重要施設の周辺警備をはじめ、花火大会やスポーツ大会、あるいは都会の年末のカウントダウンイベントなど不特定多数の大人数が集まるイベントによく出動し、警備にあたる多数の警察官や資材を輸送するとともに、時にはその大きなボディサイズを生かし、車体そのものをバリケードやロードブロックとして使用されることがあります。また、大型人員輸送車は現場では「大輸(だいゆ)」と通称されることがあります。
これらの人員輸送車は警察章をかかげ(特に付けていない車両もあります)、赤色灯とサイレンを装備している以外は基本的な内容は市販車とさして変わりませんが、投石など物を投げつけられて窓ガラスが割られないように金網でカバーされていたり、エンジンをアイドリング状態で車列を組んで停車待機中、後続車に排気ガスを直接浴びせないよう、排気管に延長パイプを装着して排気ガスを上へ向けて排出するような工夫が施されているものもあります。また、中型や大型では仮眠用のベッドが備えられているものもあります。
いすゞ エルガ実車フロントビュー。都市型(中乗)ホイールベースN(5300mm)LV290N4型カタログ用特別仕様(『トミカ』のモデル車両と同一規格ではありません)いすゞ エルガ実車リヤビュー。都市型(中乗)ホイールベースN(5300mm)LV290N4型カタログ用特別仕様(『トミカ』のモデル車両と同一規格ではありません)さて、『トミカ』の『No.98 大型人員輸送車』は、いすゞの代表的な大型路線・送迎バスであるエルガをベース車両に想定したものとしています。エルガは新世代にふさわしい路線バスとして2000年にデビューし、様々な路線バスや企業の送迎用に幅広く使われています。2015年に現行モデルである2代目モデルのLV290系にフルモデルチェンジしました。
この2代目モデルは、開発に際して“次世代ノンステップ・バスの対応”を大きなテーマに掲げていました。そのため、初代モデルよりもノンステップエリアを拡大するために、長さ、通路幅、室内高、および後方段上部の室内高が拡大されています。また、ノンステップエリア拡大のために、ホイールベースの延長とあわせて、フロントタイヤハウス上部への燃料タンクの移設や中扉の後方移設などの様々な工夫や改良が施されています。
ノンステップエリアを拡大することで広々とした室内空間を実現する一方、優先席を前向きにし、伝い歩き棒を新設するなど優先席まわりの安全性も向上させており、これに加えて反転式スロープ板の採用による車いすの乗降性もさらに容易なものとしています。
いすゞエルガ、エルガミオに搭載されている4HK1-TCS型エンジン。環境・燃費性能の向上を目指し、2ステージターボを搭載している。また、エンジンには環境・燃費性能の向上を目指して、2ステージターボを搭載した4HK1-TCS型エンジンを採用しています。2ステージターボの搭載により、全回転域において高効率なターボ効果が発揮され、PMを大幅に低減させています。また、EGRクーラーの冷却性能向上と、超高圧噴射化による燃焼状態の均一化で燃費性能がさらに高められています。
AMT(自動クラッチマニュアルトランスミッション)AT(オートマチック・トランスミッション)さらに、AMT(自動クラッチマニュアルトランスミッション)とATの2種類を設定することで2代目モデルは一段と運転しやすい車両となっています。AMTではクラッチ操作を不要としたアクセルとブレーキの2ペダル方式を採用、ATのようにクリープを利用した微速走行も可能としています。尚、AT車には操作パネルにメンテナンス時期診断機能を追加し、オイルやフィルターの状態をモニターし、最適な交換時期をサービスインジケーターで知らせる機能があります。
また、2代目モデルはノンステップ仕様のみの車型設定となったため、前後オーバーハングを短縮することでアプローチ・アングルとデパーチャ・アングルを増大させ、ノンステップ車でありながらワンステップ車並の走行性を確保しています。
『トミカ』の『No.98 大型人員輸送車』のベース車は、このエルガの現行2代目モデルであるLV290系をモデル化していますが、フロントライトがLED化された車両のようですので、2017年に登場したLV290N2または2020年登場のN3系ということになりそうです。もともとのエルガの再現度も高いのですが、窓ガラスを覆う金網の表現や屋根の上の赤色灯などの専用装備の再現にも抜かりはありません。
実際には警察用大型人員輸送車に多く使用されている、いすゞエルガミオ実車フロントビュー。都市型(中乗)ホイールベース:J(4400mm)LR290J5型カタログ用特別仕様車。(必ずしも実際に使用されている車両と同一ではありません)いすゞエルガミオ実車リヤビュー。都市型(中乗)ホイールベース:J(4400mm)LR290J5型カタログ用特別仕様車。(必ずしも実際に使用されている車両と同一ではありません)たいへんよく出来た『トミカ』ですが、問題点が一つあります。警察の大型人員輸送車に使用されているのは中型バスで、実はいすゞ車で該当するのは、この大型バスのエルガではなく、その下の中型バスのエルガミオの方なのです。現状、『トミカ』のラインアップには残念ながらエルガミオが無いため、兄貴分のエルガの登場となったのでしょう。ともあれ両者はよく似ていますので、『トミカ』としてはさして気になる点はありません。コレクションに加えても損のない1台です。
■いすゞ エルガ 主要諸元 (『トミカ』モデル車種と同一規格ではありません)
全長×全幅×全高(mm):10430~11130×2485×3045
ホイールベース(mm):5300~6000
トレッド(前/後・mm) :2065/1820
車両重量(kg):13565~14985
エンジン形式:4HK1-TCS型 水冷直列4気筒OHC 直噴2ステージターボ ディーゼル
排気量(cc):5193
最高出力:184kW(250ps)/2400rpm
最大トルク:735Nm(75kgm)/1600-2300rpm
トランスミッション:6速AMTまたは6速AT
サスペンション(前/後):車軸式エアサスペンション
ブレーキ(前後) :空気式&ドラム(主)/フットブレーキ連動式排気ブレーキ(補助)
タイヤ:(前後):275/70R22.5
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