もくじ
前編
ー ジャガーとアルファの多すぎる共通点
ー 成長戦略も同じ 熾烈な競争の予感
ー 拡大が続くF-PACEに強敵登場
ー ある意味、映画スターのごときルックス
ー 広さは同等 質感は大きく異なる
後編
ー ジャガーの高い品質と独自の雰囲気(9月18日公開予定)
ー アルファの物足りないプレミアム性(9月18日公開予定)
ー パワートレインで逆転する印象(9月18日公開予定)
ー 出自に恥じぬシャシー性能(9月18日公開予定)
ー 不整路面に翻弄されるステルヴィオ(9月18日公開予定)
ー プレミアム性をより実感できるF-PACE(9月18日公開予定)
ジャガーとアルファの多すぎる共通点
考えてみると、ジャガーとアルファ・ロメオは、驚くほど共通点の多い自動車メーカーだ。ゲイドンとトリノの経営陣はどちらも、その意見を歓迎することはないかもしれない。しかしこの2社は、発展を続けるプレミアムカー市場において近い将来、これまで以上に接近した競争相手となる運命を予感させる。
どちらのブランドも、ある種のユーザーには強い訴求力を持つ。クラシックで見栄えのいいドライバーズカーを好み、自動車雑誌をよく読むようなひとびとだ。要は、これを書いている私や、それを読んでいるあなたのようなタイプである。そしてどちらも、いつの日かドイツのプレミアム勢と肩を並べようという熱意を持っており、しかしすぐにはそれが叶いそうもないというところも通じるものがある。
近年のジャガーは、世界的な市場で見れば、アルファよりはるかに成功しているが、その立場がまったくの逆だったころから10年と経っていないのもまた事実だ。ただし、話を欧州市場に限定すれば、昨年の販売台数は両社とも6万6000台前後と、ほぼ同じ規模だった。
成長戦略も同じ 熾烈な競争の予感
少なくとも今後10年くらいは、オートカーの見出しに「ジャガー vs アルファ」の文字が頻繁に躍ることとなるに違いなく、どの記事も十分に読む価値があるものになるだろうと期待している。
今年、そのフレーズを用いたのは1度だが、それはドライバーへのアピール度で、ジュリアの2.2ℓディーゼルが、XE2.0dを降したグループテストのときだ。その勝敗を分けたのは、わずかにプレミアム物件としての熟成度の問題だけだったが、その面においては決定的な差があった。今回は、それに続く今年2回目の「ジャガー vs アルファ」だ。
長年にわたり、ジャガーもアルファ・ロメオも、SUVとは無縁のメーカーだったが、まずはジャガーが、次いでアルファがこの分野に参入。急成長を目指す両社に、SUVを造らないという選択肢はなかったのである。
拡大が続くF-PACEに強敵登場
ジャガーがF-PACEを導入したのは昨年だが、それ以降もラインナップ拡充を続け、最近では販売拡大には最適という見方の強い、直4ディーゼルのハイパワー版であるインジニウム25dを追加した。
ジャガーにとって不幸だったのは、これに時を同じくして、F-PACEのセールスポイントであるスポーティさで真っ向挑む最初のライバルが登場したことだ。それこそが、ステルヴィオの2.2ℓディーゼルである。これはF-PACE 25dより安価で、車重は軽く、少なくともスペック表の上では加速でも経済性でも勝っている。
突如として、すぐにでも答えを出さなければならない疑問がわいてくる。レンジローバー・ヴェラールではしくじりようがないジャガー・ランドローバーの直4ディーゼルだが、それ以外のクルマに積まれても期待通りの実力を発揮するのだろうか。
またアルファのエンジニアは、ジュリアのドライビングの美味しいところをステルヴィオにもまんまと落とし込みつつ、乗り心地の快適性はセダンのそれより改善し、ひとびとが望むSUVらしさを実現できているのか。そしてステルヴィオの感性品質は、ジュリアより引き上げられているのだろうか。
さらに、現状でエンスージアストにとってデフォルトのチョイスとなる、ファミリーカー・サイズのSUVを造るプレミアムブランドはどこか、そしてそれは、ドライバーズカーとしてどれほど優れているかを探っていきたい。
ある意味、映画スターのごときルックス
ステルヴィオは、いうなればハリウッドスターのようなルックスの持ち主だ。といっても、ハンサムだというわけではなく、想像よりも実物はちょっと背が低いという意味で、だが。対して、F-PACEは数字通りといったところだ。
アルファのSUVの地上高やベルトラインは高そうに見えるが、ミッドサイズSUVの水準を超えてはいない。ルーフラインは曲線を描き、比較的短く、リアウインドウはかなり傾斜している。前後と横の三面どこから見ても、ジャガーのルックスの方が見慣れた感じで、大きくスクエアな印象。ただし、いい意味で型通りだといえる。
もし、スタイリングのアピールがこの勝負の第一次審査ならば、採点はわずかながらジャガーに分があるように思えるが、どちらもなかなか衝撃的なデザインだ。ただ、ジャガーの方が、デザインをものにしている印象がある。どことなく、ボディパネルにまとまりがあるように感じられるのだ。
いっぽう、ステルヴィオは多少ブレがある。いくつかのティームがそれぞれのオフィスで、SUVにするか、クロスオーバーにするか、まさにプラットフォームを共有するジュリアのように仕立てるか、同意を得られないままにデザインを進めたようだ。
広さは同等 質感は大きく異なる
この2台に代わるがわる乗り込んでみると、ジャガーの方が大きく、着座位置が高いことと、アルファ・ロメオが優れたパッケージングの恩恵で、どうにかジャガーと渡り合える室内スペースを得ていることに気付く。だが、大きくなった子供がいるか、成人の同乗者を迎える機会が多いなら、より快適な後席と大きな荷室による実用性を理由にF-PACEを選ぶだろう。しかし、それ以上にステルヴィオの後席が思った以上に低く、ひざを曲げて乗らなければならないことによる消去法という色合いが強い選択だ。
前席は、プラスティックやレザーといった素材をはじめ、装飾やスイッチなどに至るまで、アルファ・ロメオのチョイスに面目を損なうようなものは一切ない。しかし、F-PACEのそれらと比べると、この2社のうち1社の方が、完全なプレミアムカーのメーカーになろうという過程において、もう一方に驚くほど水を空けられていると認めざるを得ない、その証拠を見つけるだろう。
2010年代前半は、ジャガーX-タイプの見掛け倒しなキャビンのクオリティと、当時のBMWやアウディ、メルセデス・ベンツのそれを比較し、ジャガーはこの先、ドイツ勢との格差を埋めることはできないのではないかと疑ったものだ。
ところが、ジャガーはそれをやってのけた。たぶん、完全には埋まっていないが、間違いなくその差は取るに足らないほど縮まっている。少なくともその個性でジャガーを選んでもいいと思えるくらいにはなっている。(後編に続く)
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