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【1930年代の最速マシン】アラード・テールワガーII フラットヘッドV8搭載 後編

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【1930年代の最速マシン】アラード・テールワガーII フラットヘッドV8搭載 後編

共同所有で救われたアラード

執筆:Mick Walsh(ミック・ウォルシュ)

【画像】戦前最速の1台 アラード・テールワガーII 同時期のブガッティとラゴンダも 全62枚

撮影:James Mann(ジェームズ・マン)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


デス・ソワービーが購入しレストアが進められていた、アラード・テールワガーII。1982年、未完成ながらブライトン・クラシックカー・ショーのアラード・オーナーズクラブ・スタンドへ展示された。

ソワービーの貯金には限りがあり、リビルドは時々行き詰まっていた。エンジン音すら聞いたことがなく、諦められない夢のように、クルマを売るつもりは起きなかった。

数年が経ち、2013年。整備されていないコースを走るトライアルレースの出場を考えていた、ビンテージカーの愛好家、ジョン・ローズからソワービーは電話をもらう。

「会話をしばらくしたあと、ローズからFGP 750のアラードを共同所有したいと提案がありました。クルマを見てもらうためローズを招き、そこでお互いに同意したんです」

トライアルレースに夢中になったローズが、当時を振り返る。「始めはモーリス・メジャーを購入したのですが、ひどい状態でした。トライアルに出られるエキサイティングなクルマを探し、戦前のアラードが良いのでは、と思ったんです」

ローズは製造された12台を調査したが、多くのアラードが廃棄されたことを知る。そして、最もオリジナルに近い1台が残っていることを発見した。FGP 750のナンバーが付いたアラードだ。

ローズが続ける。「庭に停まったクルマをソワービーは見せてくれましたが、ブレーキも付いていない不動車でした。共同所有後は、わたしが分解して直し、乗っている姿を見て彼も喜んでくれています。アラードでレースに出ることも」

創業者が起こしたクラッシュの痕跡

ローズがオーナーの1人になると、アラードはオックスフォードシャーのワークショップへ移動。徹底的な検査を受け、フラットヘッド・エンジンは始動の準備が整った。

「ソワービーが一度リビルドしたと話していましたが、本当にひどい状態。キャブレターの調整を加えて、2基のバランスを取って、動くようになりました」

次はシャシー。ステアリングラックと、ハートフォード社製のフリクション・ダンパーを修復した。戦前の活躍を証明するように、プレスコットで創業者のシドニーが起こしたクラッシュの痕跡も発見された。

「ブロックリー社のタイヤを組み、ビンテージ・スポーツカー・クラブ(VSCC)・プレスコットのイベントへエントリー。キャブレターはスイッチのように荒々しく、エキサイティングでした」

マグネトーのリビルドを経て、アラードは従来のパフォーマンスを回復。「自分はドライバーとして凄くはありませんが、アラードは速い。スポーツカー・クラスで競えるのは、タルボT150くらいでしょう」

「シャトー・インプニーのイベントでは、シングルシーターのマシンを含めて、スタートダッシュで6番目に食い込んでいます。レース中、ドアが勝手に開くので、手でドアを閉めながらね」

アラードの運転に慣れた頃、ローズはトライアルレースへの出場を決める。アルミニウムのラジエターに新しいキャブレター、タイヤの空気を補充するコンプレッサー、バッテリーが積まれた。

オリジナルのレザーシートを保存するため、レース用にシートを制作。4本のホイールも新調した。

トライアルレースで友情を再確認

VSCCヘレフォード・トライアルでは、パワーを活かし急斜面を勢いよく登った。軽快なオースチンに有利な、タイトセクションは少ししかない。「マーシャルの人たちも、V8エンジン独特のビートが好きなようです」

「とても速く、濡れたセクションではクルマの後ろに12mくらい水柱が伸びます。サウンドも最高ですよ。すぐに姿勢が乱れるので、操縦は気が抜けません」

経験を積むほどイベントでの成績も伸び、ローズは勝利を重ねるようになる。そして遂に、共同オーナーのソワービーを助手席に乗せ、コッツウォルズ・トライアルへの出場を果たした。

「そのレースは、お互いの友情を再確認させるものでした。走る度にアラードは泥だらけになり、掃除に数日はかかります。でも、モータースポーツの中でもトライアルレースが1番好きですね」

「きっとシドニーも天から見下ろして、笑っているんじゃないかと思っています」。ローズが笑顔を見せる。

アラード・テールワガーIIを筆者も運転させてもらった。4スポークのブルーメル社製ステアリングホイールの後ろに腰を下ろす。フラットなシートが備わる、とてもベーシックなコクピットだ。

ダッシュボードのメーターパネルには、大きなKNH社製のレブカウンター。助手席側には、不可欠といえる、身体を支えるためのハンドルが付いている。フロアはすり減っていて、有名なアラードの歴史を物語っている。

トランスミッションは3速。ステアリングのボスに、油性ペンでゲートの配置が記されていた。

80年分の歴史が刻まれたFGP 750

1速とリバースが左側。ブガッティのように長いハンドブレーキレバーは、ボディの外側から伸びている。

フラットヘッドのV8エンジンには、個性的な唸り音が混ざる。サイドバルブ・ユニットは、かなり調子が良いようだ。ストロークは長いものの、ゲートは明確。慣れてくると、圧巻の加速を引き出せる。

試乗した日のシャシー・セットアップは少し緩いようだった。独立懸架のフロントタイヤとリア寄りの重心配分で、ワンダリング傾向が強い。集中した操縦が欠かせない。

パワーを掛けた状態では、ハイギアードなステアリングの修正舵が必要。うっかりすると意図しない方向へ走ってしまう。ステアリングを握る手の力を緩めて、独自のペースを見つけるのが良い。

ローズは、ゲーブル式のドラムブレーキを見事に調整している。それを補佐するように、サイドブレーキのケーブルもピンと張っている。充分な制動力が得られる。

少し慣れれば、速さを引き出せる。過去のオーナーが、無骨なアラードを好んだ理由も良く理解できた。

第二次大戦が開けると、ガソリン価格は高騰。オースチンやフォードをベースとした、小柄なスペシャルマシンが多く作られるようになる。大きなアラードの時代ではなくなった。結果、半数以上のアラードがスクラップとなった。

ソワービーとローズが共同で守り続けるFGP 750のアラードには、80年分の歴史が刻まれている。現役時代の勇姿が、見事に復活されている。テールワガーIIは、もうしばらくトライアル・レースで雄叫びを響かせてくれそうだ。

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