一部改良を受けたBMWの新しい「M850i xDrive カブリオレ」に小川フミオが乗った。走行性能を高めたMパフォーマンス・モデルに迫る。
贅沢なクルマづくりが上手い
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ラグジュアリアスなオープンカーは、いつの時代も魅力的だ。スタイルとパワーと操縦性と快適性、それに希少性があればベスト。2022年に改良を受け、ようやく試乗が叶ったBMWのM850i xDriveカブリオレは、よきオープンカーの必須条件をほぼすべてそなえている感がある。
このクルマの魅力はどこか? というと、やはりエンジンを筆頭にあげたい。どんどん希少性が増す大排気量・多気筒。4934ccV型8気筒ガソリンで、390kW(530ps)の最高出力と750Nmの最大トルクをもつ。そして前後輪を駆動する(xDrive)。
8シリーズは、2018年6月にルマン24時間レース開催中のBMWブースで発表された。私もこのとき居合わせたので、低くて長い車体と小ぶりなキャビン、そして存在感のあるタイヤで、スポーティな印象を強く打ち出しつつ、BMWの伝統ともいえるエレガントを盛り込んだボディには、大きなインパクトを受けた。
翌19年にカブリオレが追加された。私は個人的に、3.0リッター直列6気筒エンジン搭載の840iクーペと、6気筒ディーゼルの840dクーペが、後輪駆動の軽やかな運動性能をもっていて、特に好きだった。
久しぶりに東京で乗ったM850i xDriveカブリオレは、まったく古びて見えないボディデザインを持つ。BMWの特徴的な「キドニーグリル」の異形化が進むなかにあって、かつての意匠を継承。そこも良い。
カブリオレで走るのに東京は、それほど向いていないかもしれないが、風が爽快だとか夕暮れが綺麗だとか、そんな瞬間だけでもさっとトップを下ろして走れるのが、最高の魅力だ。
とくに8シリーズの、古典的な美しさをもったプロポーションゆえ、フルオープンスタイルもよく似合う。BMWは、こういう贅沢なクルマを作らせても上手い。
日本では販売終了へ操縦感覚は、大人っぽい。大トルクをことさら強調するのでなく、アクセルペダルの踏み込み量など、あくまでもドライバーの意思に忠実な加速感をもつ。ステアリングフィールも落ち着いていて、鈍くは決してないが、高速をえんえん長距離走るようなドライブをしても疲れない。そこも魅力的だ。
快適性もしっかり考えられていて、足まわりにもそのコンセプトは感じられる。足まわりはよく動き、乗り心地はフラット。操縦している私に路面からのショックが強く伝わることもない。
それでいて、意識してアクセルペダルを強めに踏み込んだ加速の“抜け感”は抜群。それまで市街地を気持ちよく流していたとしたら、突然別のクルマになったと感じられるだろう。ドライブモードに応じてクルマのキャラクターがガラリと変わる設定が上手い。
サスペンションは「アクティブMサスペンション・プロフェッショナル」なる電子制御で、アクティブスタビライザーが組み込んである。車体のロールなど、コーナリングやハイウェイクルーズなど、状況に応じて調整し、スタイビラザーがしっかり効くべきハンドリングと、切り離したほうが快適になる乗り心地の両立が目指されている。
ステアリングシステムも同様で、車速や走行状況に応じて切れ角を調整する「インテグレイテッド・アクティブステアリング」を採用。これに後輪操舵機能も組み込んであり、ドライバーの意思に応じて、車体の動きが調整される。
さっとハンドルを切れば、舵角も少なくノーズが向きを変え、逆位相(前輪と反対がわ)を向き後輪によって、小さなスポーツカーを操縦しているような小回り性が得られる。
そもそも、3.0リッター6気筒エンジンでも十分力強い走りが味わえたが、M850i xDriveカブリオレのトルク感たっぷりの走行感覚には、また別の良さが感じられる。上記の装備によって、“鈍”な感じが、いっさい払拭されているのもたいしたものだ。
悲しいニュースは、24年6月をもって、今回試乗したM850i xDriveカブリオレを含む、8シリーズは、クーペもカブリオレもグランクーペも、それにMモデルも、すべて日本での販売が終了したことだ。あとは在庫を手に入れるしかない。欧州では生産が続くとのことで、ちょっと悔しい。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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