エド・シーランと人生を変えた腕時計──ティファニーロゴ入りのパテック フィリップ ノーチラス5711

著名なコレクターたちが、自身にとって最も重要な時計の背景にあるストーリーを語る新連載「Time Keepers」。第1回は「Shape of You」で知られるシンガーのエド・シーランが、父親になったときに手に入れたパテック フィリップを語る。

2015年、エド・シーランはパテック フィリップのノーチラス5711に「Tiffany & Co.」の文字が刻印された希少なモデルを注文した。レアな時計の中でもさらに珍しいモデルだ。ウェイティングリストのトップにたどり着くまでに5年かかり、時計が届けられたのは偶然にも──警備員付きの宅配で──妻のチェリーが第1子出産のために陣痛室に入った日だった。

時計を手にしたシーランは、時計狂なら誰もがやりそうなこと、つまりは病院にブレス調整キットを持ち込んだ。到着すると、YouTubeのチュートリアルを見ながらペンチでコマを外し、ノーチラスが手首にぴったりフィットするよう調整した。「娘と初めて一緒に写っている写真はすべてこの時計と一緒なんだ」と、34歳のシーランは少し感慨深げに語ってくれた。

運命、宿命、ティファニーの優れた顧客サービスの賜物──それを何と呼ぶかはさておき、このノーチラスはまさにシーランの人生にとって完璧なタイミングでやってきたものだった。「こういう時計って、手元に届くまで時間がかかる分、必ず何か特別な出来事と結びつくんだよ」と語る。

人生の小さな喜びや大きな節目を記録するうえで、時計ほど適したものはない。娘のライラが誕生してから、彼はそのノーチラスを2～3年、ほとんど腕から外さなかった（その後に替わったのは、第2子ジュピターが生まれた日に届くよう手配していたオーデマ ピゲのロイヤル オークだ）。今ではそのパテックは主にライラの誕生日やクリスマスに着ける時計になり、そのたび感情的な重みは増してきた。「時計って、どこへでも一緒に行けるのがいい。相棒みたいにね」とシーランは言う。

なぜこのモデルには5年待つ価値があると思ったのだろうか？ もちろん、ティファニーロゴのノーチラス 5711は、多くのコレクターにとって「聖杯」ともいえる存在だ。しかしシーラン自身にとって、成長が必要な時計でもあったのだ。

彼が初めてティファニー刻印入りのパテックを手にしたのは、ある富豪が、娘の成人式で演奏してくれた謝礼としてくれたものだった。ちなみに当時のシーランは、スチールブレスレット付きの時計がさほど好きではなく、パテックのスポーティなモデル「アクアノート」のラバーストラップを好んでいた。

転機となったのは、友人で同じく時計マニアである、シンガーのジョン・メイヤーとプレゼントを交換したとき。描いた絵と引き換えに、シーランはモノクロのパンダダイヤルを備えたロレックス・デイトナを受け取った。これはノーチラスに匹敵するほど人気の時計のひとつだ。デイトナを着けてから、シーランは「あれ、スチールブレスって実はかなりイケてるね」と思ったそうだ。そしてティファニーに出向き「5711が欲しい」と伝えると、販売員は「ええ、皆さんそうおっしゃいます」と答えたとか。

「セレブ」という立場が少しは有利に働いたのかもしれない。コレクターによっては8年待ったとも言われる5711を、シーランは約5年で手に入れた。

娘との結びつきもあって、5711はただの人気モデルを超え、シーランのコレクションの中でも特別な位置を占めるようになった。「これは父親であること、そして『飲んだくれの20歳』から大人になることの象徴でもあるんだ。僕はただの父親じゃなく、娘を持つ父親。ガール・ダッドって特別なんだよ。この時計はそういった全てを意味するものなんだ。ノーチラスとは僕の人生を、男として変えた時計なんだ」と説明してくれた。

WORDS BY CAM WOLF  TRANSLATION BY MASAYUKI HIROTA