ドイツを代表する名門オーケストラ、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーによる弦楽五重奏の公演が東京・麻布台ヒルズのBMWブランドスペース『FUFREUDE by BMW』で行われ、会場は抽選で選ばれた40名のゲストで満席となった。
現在、コロナ禍を経て6年ぶりに来日しているミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団は、マーラーの3つの交響曲の世界初演を務めるなどの伝統と実力を兼ね備えたドイツの名門オーケストラ。歴史的な名指揮者チェリビダッケの時代からのブルックナー演奏の伝統から、ブルックナー生誕200年の今年はもっとも来日が期待されていた。また近年ではソロバイオリニストだった青木尚佳氏が2022年よりコンサートマスターに就任するというビッグニュースからはじめての来日公演となる。野球やサッカーなどスポーツの分野だけでなく、音楽の分野でも日本人演奏家は実力とリーダーシップを発揮して活躍している。
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BMWの本社が同じミュンヘンであるという縁で、ミュンヘン・フィルとBMWのコラボレーションの歴史は長い。とくに2007年以降はBMWジャパンがドイツと日本の文化的交流の一環として来日公演をサポートし続けており今回で5度目の来日ツアーとなっている。
さて、この晩の演奏者は、ヴァイオリン・コンサートマスターの青木尚佳氏を筆頭に、ギリシャ出身のLason Keramidis氏(ヴァイオリン)、ポルトガル出身Jano Lisboa氏(ヴィオラ)、ドイツ出身Jannis Rieke氏(ヴィオラ)、そしてチェリストの三井静氏が出演した。青木氏が好きな日本食とともにメンバーを紹介するなど演奏会は和やかなムードで行われた。
公演は、フィリップ・グラスの弦楽四重奏曲第3番「ミシマ」の4楽章“終結”からスタートした。この曲は、三島由紀夫を題材にフランシス・コッポとジョージ・ルーカスが製作総指揮を努めた日米共同制作の映画「Mishima」のサウンドトラックから選ばれた珍しい曲。ミニマル・ミュージックを生んだグラスの作品とは思えないほど美しいメロディが、心地よい瞑想の世界へと観客を引き込んだ。その後、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによる弦楽五重奏曲第3番ハ長調からふたつの楽章を演奏して軽やかで華やいだ気分に。最後に、ヨハネス・ブラームスの弦楽五重奏曲第2番ト長調 op.111から第1楽章が演奏された。驚いたのは、たった5本の弦楽器から発せられるサウンドによるうねりはまさに大編成オーケストラのそれだったこと。ブラームス特有の響きがFREUDE by BMW内に満たされ、明日からのオーケストラ公演のプレイベントとして完璧。会場から盛大な拍手が送られた。
演奏のあとは軽食や飲み物も登場し、五重奏のメンバーもゲストの輪に入って歓談となった。
今回のイベントの仕掛け人BMWグループジャパンのブランドマネージャー井上朋子氏によれば、社会的持続可能性のための文化・芸術に対する支援はBMWが長年行ってきたことであり、BMWがミュンヘンフィルの来日公演を応援するのは自然な流れだという。クラシック音楽で言えばBMWジャパンは独自にピアニストの反田恭平氏をブランドアンバサダーになってもらい、氏が主催するジャパン・ナショナル・オーケストラの支援も行っている。ミュンヘンフィルや反田恭平などの一流ミュージシャンたちとの活動の素地があって、今晩のようなカジュアルな音楽家とBMWファンとの交流イベントも自然体で実施することができた。
7日からのサントリーホールでのオーケストラ公演は、クラシックファンにとって本格的かつ非常に魅力的なプログラムであるけれど、今日のミニ演奏会はセンスの良さが光るカジュアルなイベントとなった。まず空間、レストランやイベントスペースの貸し切りではなくFUFREUDE by BMWというブランドメッセージがあらかじめセットされている会場で、室内楽のサロン的な雰囲気からオーケストラを思わせる迫力サウンドまでカバーし、大きな演奏会を明日に控えたメンバーにも配慮した絶妙な選曲。抽選で選ばれたゲストたちは、クラシックもBMWもファンであるような人たちだから、軽食つきの歓談タイムでは奏者との会話やゲスト同士の会話も弾むのだ。
筆者も青木尚佳氏をつかまえて、ソロバイオリニストから名門オケでのコンサートマスターへの転身の心境や、明日のコンサートのメイン曲、リムスキー=コルサコフ作曲交響組曲「シェエラザード」でのバイオリンソロパートのことなど興味深い話を聞くことができた。明日の会場であるサントリーホールは、現在のミュンヘンフィルの本拠地であるイザールフィルハーモニーホールと同じ音響設計家豊田泰久氏によるもの、「じつはサントリーホールではソロやコンチェルトの演奏経験はあるが、オーケストラのメンバーとしては初めての舞台」(青木尚佳氏)とコンサートマスターとしての日本公演をとても楽しみにしていた。
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