2024年3月15日、突如として入ってきた、ホンダと日産が提携するというニュース。かねてより「協力すればいいのに」とおそらく多くのクルマ好きが思っていた2社による、包括的な協業に向けた戦略的パートナーシップの検討を始める覚書締結のニュースには、「いよいよか」と感じた人も少なくないのではないだろうか。
はたして、ホンダと日産の協業はどのような効果をもたらすのか。逆にデメリットはあるのか、考えてみよう。
日産とホンダが歴史的な提携に向けた話し合いを開始!! 組み合わさると強い分野と超絶合わないところ
文:吉川賢一
写真:NISSAN、HONDA
北米で強いホンダ、欧州で強い日産
今回の発表で明らかとなったのは、主に電気自動車の分野で、部品の共同調達や、クルマの「味付け」には直接関係のないeAxle(イーアクスル)や駆動用バッテリーなどの基幹部品の共用化などを検討するということ。将来的には、クルマに搭載するソフトウエアの共同開発や、完成車の相互供給についても検討するという。
ただ、先日の会見は、「検討を開始する」と外部へ宣言することが目的で、具体的検討はこれから始めていく、とのこと。実際に話をし始める前の「交際宣言」をしたに過ぎない。また、将来的な両社の資本提携の可能性については、ホンダの三部敏宏社長も日産の内田誠社長も、「今後のことはわからないが、現在は資本関係の話は全くしていない」とのことだった。
北米市場で大きな支持を得ているホンダと、欧州市場で存在感のある日産。どちらも日本市場においては似たような占有率で、トヨタの後塵を拝している状況など、状況が似ている2社だが、NSXやGT-Rといった世界に誇るスポーツカーブランドを持っている(持っていた)ことや、e:HEVやe-POWERといった独自のハイブリッド技術があるなど、クルマづくりの面では似ているところも多い。
北米市場で絶大な人気と売れ行きを誇るホンダの新型CR-V。日本市場でも、燃料電池車のCR-V e:FCEVが今夏発売と発表されている
欧州市場で人気を誇る日産の3代目キャシュカイ。日本には導入されていない
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あるのはメリットだけ、デメリットはない
では、実際に2社の戦略的パートナーシップの検討がまとまり、包括的な協業が実現したら、どのようなメリットがあるのか。
メリットに関してはさまざまあるように感じるが、ホンダ側としての最大のメリットは、日産の駆動用バッテリーの知見や製品を広く使えるようになることだろう。ホンダもバッテリー技術は当然持っており、N-VAN e:を2024年春に発売開始する予定だが、その駆動用バッテリーの供給元であるパナソニックエナジーは、元々は日産の子会社でBEV向けに電池開発をしていた会社。リーフの開発・製造を通して培ってきたバッテリー技術は日産の強みであり、あるべき知見は大いに共用したいところ。日産はまた、使用済みのバッテリーを再利用する事業など、環境負荷の軽減シナリオにも取り組んでおり、こうした知見を利用できれば大きなメリットといえる。
一方の日産側は、ホンダのチャレンジする社風がいい刺激になるような気がする。日産は石橋をたたきまくってから渡る傾向があるようで、これまで幾度も商機を逃してきたように思う。筆者も日産エンジニアの時代、開発途中で凍結されてしまったプロジェクトをいくつもみてきた。このため、日産はバッテリー技術に関する深い研究を元に製品開発を広く行っていても、実際に市販車として世に出ることが少なく、ホンダ車の規模と合わせた未来予測であれば、もうちょっと大胆な戦略が立てられるかもしれない。
ホンダと日産の協業によるデメリットは、正直なところないと思う。もちろん最初は苦労することもあるだろうが、日産の内田誠社長も、「闘うべき相手は伝統的な自動車メーカーばかりではない。勢いづいた新興メーカーが圧倒的な価格競争力やスピードでくるいま、悠長に構えている余裕はない」としており、「ホンダと日産は敵対企業」なんて考える社員は、もはやいないのではないだろうか。
開発事業所がやや離れている(日産は神奈川県、ホンダは栃木県)が、それも片道200km程の距離だし、実験場であれば日産も栃木県内に持っている。ひとまず乗り合わせしてみよう、なんていうエンジニア交流は即座にあるだろう。ルノーと向き合ってきた日産にとっては、ホンダははるかにやりやすい相手のはずだ。
2022年10月をもって販売終了となった2代目NSX Type S。2代目NSXは北米ホンダが担当し、ホンダの技術の粋を集めて開発されていた
日本が誇るスーパースポーツカー日産GT-Rの 2025モデル。おそらくこのモデルが最期のGT-Rとなるはず
対Googleへの宣戦布告の意味合いもあるか!??
最新技術動向に詳しい現役の日産エンジニアによると、車両開発の内側で、いまもっともホットな話題は「車載OS」だという。車載OSとは、ソフトフェアのプラットフォームのことで、パソコンでいうところのWindowsやMac OSといったもの。それ単体では意味をなさないが自社のプログラムを動かすうえではなくてはならない存在だ。
現在は、Googleが開発したAAOS(Android Automotive Operating System)が世界的に知られており、複数の自動車メーカーが採用を始めている。ホンダも2023年より米国で販売した新型アコードにAAOSを搭載した。
だが、このOSは使用料がかなり高額だそうで、トヨタが独自に車載OS「アリーン」を開発したのにもそうした背景があるとのこと。ホンダの三部社長も、会見の中でこのソフトウエア開発について触れており、両社の強みを持ちあい、将来的な協業を見据えた検討が必要としている。このあたりは、できればトヨタも巻き込んで、日本企業としてGoogleに対抗できれば、時間もコストもセーブすることが可能になるかもしれない。
協業は、グローバルで生き残るため
「国内市場で対トヨタを意識した協業では?」といわれることがあるが、この協業は、グローバル市場で生き残るための戦略だ。潤沢なバッテリー資源を保有し、(既にピークを迎えたといわれるが)世界で一番クルマが売れる市場をもち、さらには自国にとって有利に働くルールで保護されている中国メーカーや、クルマのクオリティの高さによって日本を除いたグローバルで高い評価を得ている韓国メーカー、そして多角的に強い日本のトヨタ。これまでは距離をとってきたホンダと日産だが、これら強豪に立ち向かい、生き残るためには、このタイミングで決断することが必要だったのだろう。
数年後、ホンダ車と日産車を裏側から見たら、同じパーツが使われていた、なんてこともあるだろう。話し合いの行く末が楽しみだ。
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ネット自動車ライターの増加も一因たが、どんどん日本の自動車ジャーナリズムはダメになっていくばかり。